レッド現れる
「いらっしゃいませ~」
店員の甘ったるい声を聞きながらアイスコーヒーをすする。外の暑さとは逆に冷房がききすぎた店内に寒さを感じて、ホットコーヒーを頼めば良かったと少し後悔した。
友人との約束の時間はもうとっくに過ぎている。遅れを知らせる連絡もない。自然と顔は下を向き、溜め息が出た。
「(もう、待っても来ないかもしれない)」
先週切ったばかりの髪をいじりながら目の前のテーブル越しの空いた席を見る。
「遅いね。連絡のひとつも寄越さないなんてひどいと思わない?」
しかし寒いなあ。冷房がききすぎ。と、黒縁のメガネの女が呟いた。赤い細めのボーダーが目に飛び込んでくる。
見知ら女が座っている。強張るおれを気にもせず、親しげに笑いかけてくる。
「ホットを頼むべきだったね」
女は残り少ないアイスコーヒーを指差しながら言う。
「(やばい人!)」
おれは衝動的に立ち上がった。出口へ向かおうとした所で腕を掴まれる。
「な」
にするんですか! と言う暇もなく意識が暗転した。
⚫
「起きて、起きて……」
女の声が遠くから聞こえてきて、おれは目を開けた。ベッドの上。白くて清潔なシーツがはられたシングルベッドに横たわっていた。
「起きたね。良かった。ここは収容所だよ」
赤いボーダー。この女は確か……。
「君は私の部下になるんだよ」
人懐こい笑顔で女は言う。
「しゅう……ようじょって……何……」
「収容所は収容所だよ。何を収容しているかはおいおい話すから心配しないで」
「いや、何を言ってるんだかわからない……」
横になったままのおれの上に女はカードケースを放り投げた。身を起こしてカードケースの中を確認する。ピンク色のカードに“ピンク”と白文字が入っていた。
「ここでは、君はピンクを名乗ってね」
名乗って、って。おれの名前は………………。……………………?
「…………」
「あまり深く考えないでね、大丈夫だから」
「ピンク……」
「そう」
幼子を見つめるような目で女は微笑んでいる。
「あたしはレッド。よろしくね」
「リーダー、そろそろ……」
驚いた。レッドと名乗った女の後ろに人がいたようだ。レッドは肩をすくめて声の主を見る。
「もう時間? まだ話が終わってないんだけど……」
「そう言われても結構時間おしてます」
「そうなの?」
レッドはおれに向かってごめんね、というように手をあげる。
「あとでまた来るから、ゆっくり休んでて!」
呆気にとられたおれを置いてけぼりに、風のように去っていった。一方、新しく現れた女は、ベッド横の小さなサイドテーブルに透明のペットボトルを置いて腕を組んだ。白い手にブルーのマニキュア。
「リーダーにちょっと優しくされたからって、調子にのらないで下さいね」
完璧な笑顔でおれを見た。
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