番外編後編 黒い悪魔○○○○○
社交シーズン前にマリアから手紙がきた。
❮❮アー様へ
ご依頼のウィリアムの件、上手くいったよ。彼ね、ちょっと褒めたら簡単になびいたよ。軽い軽い。
今度、舞踏会に誘われたから一緒に行くね。
出来るだけ、地方貴族の集まりに参加するようにします。
沢山の目撃者に証言してもらわないとね。
あと、それとなく未来の伯爵様って言って、持ち上げといたから。
彼、嬉しそうに喜んでいました。
笑っちゃうよね。
約束の報酬についてだけど、私は王妃様の密偵侍女になりたいの。
やっぱり結婚して好きでもない夫のご機嫌とるより、自分で働いて好きに生きる方が楽しいよね。
じゃあ、よろしくね。
いつでもどこでもどんなご依頼もお受けする良い子の良い子のマリアより❯❯
相変わらず品のない手紙だ。
だが良い。
マリアは上手くやる。
あとは、どうやってクロエに近付いて、婚約者の座につくか。
しばらく様子をみてから考えてみよう。
婚約者の裏切りに精神的ショックを受けるクロエを慰める僕。・・いいかも。
2月の王宮舞踏会の真っ最中、クロエが一人でウィリアムを追ってダンスフロアから出ていく姿を見かける。追いかけようと思い、ダンスフロアから移動し始めると、見たことのない給仕がワインをもってきた。
「珍しいワインとのことで第二王子アナトール様より、アレクシス様へお渡しするように承りました。」
給仕は普通にいい男だがアナトール兄様の趣味ではない。
兄様の男の趣味は細かくてうるさい。
ならば、このワインは別の誰かが用意したもの。僕に誰がが何かを仕掛けようとしている。
ワインを受け取り、周囲を一瞬だけ見る。
僕は目敏い。
デュラン侯爵令嬢フローラの口許が動いた。
僕は飲むふりをしながら、クロエが向かった扉からダンスフロアを出る。
出入口にいる護衛兵にこの扉を封鎖するように伝える。
「すまないが、よく言えば気骨のある、悪く言えば執念深い令嬢につきまとわれているんだ。一旦、休憩したいから、誰もついて来れないよう少しの間封鎖して欲しいんだが。」
よし、これでフローラはついてこない。
さてとクロエはどこかな。
廊下を歩き出して少ししてから声が聞こえる。『これ、危ないよね。うん。危ない。』クロエの声がする。何が危ないんだろう。側に隠れている僕専用の護衛兵に聞いてみる。
「ここが恋人達の逢瀬用の控室の近くだということで、警戒したみたいです。なお、マリアはすぐそこの庭にウィリアムといます。」
「ふ~ん。」
考えてみる。
これは好機だ。
護衛兵に先程のワインを渡し調べるように指示。
更に新しいワインを持ってくるように指示をだす。直ぐに護衛兵はワインを持って来た。そのワインに以前シモンから手にいれた媚薬を入れる。
その状態でクロエが戻って来るのを待つ。
少ししてから再びクロエの声がする。『×××××いいなぁ。私もあんな××××××。まぁ、あり得ないけど。』
クロエ、僕が君を幸せにするよ。
ワインを一気に飲む。
それから、しゃがみ込んで待つ。
そして・・・・。
+++++
朝起きたらクロエが横で眠っていた。可愛らしい寝顔。
昨日は最高の夜だった。
ただ、残念なことに媚薬の副作用の影響でクロエには記憶がないだろう。二人の初めての思い出が、僕一人の思い出になるのは残念なことだが仕方ない。
クロエは手に入れたも同然。だが、ちゃんと順を追わなくては。
まず、コルベール伯爵に誠意ある謝罪をして婚約者の地位を手に入れる。
それから、出来れば今シーズン中に結婚したい。
昨晩のような、素晴らしい最高の夜を早く毎日迎えたい。
最初、伯爵は物凄く怒ったが、誠意を示し、婚約そして結婚をどれ程、切に願うかを説いた。体調不良の状態の自分をいかに彼女が優しく介抱してくれたか。社交界での彼女の婚約者の不誠実な噂。その時の彼女の凛とした態度。
彼女の婚約者の地位を手にするのに権力はいらない。
誠実な対応のみ。
2日で伯爵の説得が終了。
名残惜しいがクロエは一旦伯爵家のタウンハウスへ。
さぁ、12本の薔薇を準備してクロエに会いに行こう。
+++++
婚約期間は天にも上るほど幸せだった。
一応邪魔なデュラン侯爵令嬢フローラは表だっては特に処罰をしなかった。ただ、王族に媚薬と言えども薬を盛ったのは事実。後のことはアナトール兄様が窓口になって交渉をし、2年後にグラニエ伯爵令息ピエールの元に嫁ぐことになった。
ピエールはあれ以来引きこもりの根暗になった。
面白い組み合わせだ。
結婚式が近付いてくる。ウィリアムが何かに気付かないようにマリアに注意を促す。
だが、予想外に父が動いた。父としてはこれ以上の良縁はないとの判断を下したみたいだ。ウィリアムを突然訓練と称して辺境へ送った。
もちろん父は僕とは違いものすごく優秀な人。決して気付かれないように、王族が何かしたなどという気配を微塵にも感じさせない。
しかもアナトール兄様を使っている。アナトール兄様は面白いことには絶対関わってくる。でも、失敗もしない。よしウィリアムの件は大丈夫。
結婚してからは更に濃厚な日々を送る。
クロエが体調不良になったときは心の底から心配したが妊娠だと分かって嬉しかった。
父が辺境に送ったウィリアムがカントリーハウスに来たときは、殺そうかと思ったが、とりあえず優秀な家令と護衛が追い出したので、特に何もしなかった。
ただ、後日、王立騎士団にいるモーリスに手紙を出した。ウィリアムは今モーリスと同じ隊にいる。彼を辺境まではいかないが、少し辺鄙な町の護衛へ転勤になるように手配をしてもらった。永遠に王都に戻らないように。
マリアも最近は、ただ面白いからという理由で、色々な男を落として遊んでいる。その為か『ウィリアムが邪魔だからどうにかして』と言ってきていたので、一石二鳥だろう。
+++++
リオネルが生まれてはじめての社交シーズン。
アナトール兄様やエレオノーラ姉様がエリザベートが何か仕掛けてくると言うので警戒する。
しかし、予想外にフローラが出てきて自滅した。
クロエに対して二股とか失礼極まりない。しかもピエールとの婚約も解消。
最悪だ。
アナトール兄様に相談するが、返事は『捨てて置け。その内面白いことになるから。』
実際、少し経ってからクレメール子爵が婚約者になった。
最高だ。
少しの間、特に大きな舞踏会に参加することなくゆっくり過ごす。変な招待状が届けられたが義父の言葉に従い、嘘の言い訳で断りの返事を出す。
ただ、ダボヴィル伯爵家の招待状を見たとき、面白いことを思いついた。
確かワイン事件の日に、ベルトワーズ公爵夫妻がエリザベートへ最後通告をしていたな。
よし、ジョージには向こうの世界にいってもらおう。アナトール兄様の恋人の一人であるダボヴィル伯爵の弟なら、上手に誘ってくれるはず。
とりあえず、舞踏会に行こう。
アナトール兄様も参加しているはず。
次の王宮舞踏会。
エリザベートが動く。だが、予想外にクロエの友人達が取り巻きを一人ずつ片付けて行く。見事な手腕。気付いたらエリザベートがクロエの元から去っていく。
何も起こらなかったことに安心した。
だが、今後はどうなるかわからない。
ベルトワーズ公爵夫妻の最後通告でエリザベートはとても焦っている。
妊娠しなければ離縁。ジョージと寝台を共にしたいがジョージはダボヴィル伯爵の弟に夢中。その手腕は見事としかいいようがない。
おかげで、まったく、さっぱり、ジョージはエリザベートに見向きもしない。
エリザベートの実家であるグレゴリー侯爵家には彼女の淫らな私生活を既に知らせている。
グレゴリー侯爵は愛妻家で有名な人間。浮気などもってのほかと考えている人間。そのためエリザベートの現状を知り、離縁したときは修道院へ入れると宣言している。
さて次はどうするか。
エリザベートをどう片づけるか考えているときに、タイミングよく彼女の取り巻き連中が接触してきた。
『エリザベートが会いたがっている。』
『彼女が泣いている。』
更に最近では手紙を託してくる。
内容は大体同じ。
❮❮あの泥棒猫と遊ぶのはもうそろそろ止めて私の元に帰ってきて。
あの子も馬鹿よね。貴方に愛されているって信じているの。
きっと頭の中はお花畑なのよ。美しくもなく、私みたいに洗練されてもいないのに貴方に愛されているって思うなんて、知能が低いのね。
それとも、貧乏すぎて家に鏡がないから自分は美しいって勘違いしているのかも。
まさかと思うけど目がものすごく悪いのかしら。
まぁどうでもいいわ。
それより子供が必要なの。
産むなら貴方の子がいいわ。
別邸で待っているから早く来て。❯❯
本当に反吐がでる。
エリザベートが結婚してからは、ほとんど会ってもいないし、話してもいないのに、なんでここまで自分に都合がいいように考えることが出来るのだろう。
エリザベートの頭の中には何も入っていないのだろうか。
仕方ない。
ならば、することはただひとつ。
エリザベートの取り巻きに動いてもらおう。
今度の舞踏会で彼らにエリザベートの危機を伝えよう。
『このまま彼女が妊娠しなければ、修道院へ入って二度と会えなくなる。
でも妊娠したら・・。大丈夫ジョージには薬でも盛って記憶が無いときに情事があったとでも言えばいい。どうせ、誰の子供かなんて調べる術はないのだから。』
エリザベートの取り巻きは見目はいいが中身はない。
よし。これで上手くいけばエリザベートを永遠に排除できる。
これで僕とクロエの幸せを邪魔するものは誰もいなくなる。
本当はこんな性格じゃなかったの。
真面目で優しい王子様の予定だったんです。
でも、勝手にこんな子に育っていったんです。
ごめんなさい。
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
そしてもしアレクシスに憧れている人がいたらごめんなさい<(_ _)>




