12話
あれから心がしんどくなった僕はベッドで横になっていた。
本当なら僕とエリアお姉ちゃん用のベッドなんだけど、無理を言ってミアちゃんに添い寝してもらってる。他のメイドさんに見つかればかなりまずいかもしれない。でも今だけはお願い。明日になればきっともとに戻るはずだから。
「お兄ちゃん。もうこんなの止めて、村に戻ろうよ。今のお兄ちゃんはおかしい。村にいたころは明るくて元気でいたずら好きで、いつでも楽しそうにしてた。けど、今はどこか取って付けたような笑顔で、目が笑ってない感じがする」
だめだ、こういうときって音は聞こえて理解もできるんだけど、それに反応する気力が無くなるんだ。当然心も反応しない。
「女王様が仕事で部屋を出ていくとき笑顔で見送るのに、次の瞬間には無表情になってることもあったよね。他にもあれだけ好きだったお昼ご飯もあまり食べないで上の空だったりとか。私お兄ちゃんのことがすっごく心配なの」
ミアちゃんが僕を強く抱きしめる。痛い。負の感情だけは正常に出てくるんだよ。
「でも唯一、私とエッチしてる時のお兄ちゃんは、なんというか、あの頃いたずらを良くしてたときの笑顔っていうか。楽しそうにしてる気がする。だからさ、最初は私が女王様に嫉妬して襲い掛かっていたけど、いつしかお兄ちゃんに笑顔が戻るんじゃないかって期待をして誘ってたんだよ」
そうなんだ。
「けど、お兄ちゃんが回復してきたなと思ったところにあの糞女王がヒスってお兄ちゃんを傷つけて。また振り出し、いやそれよりひどい状態になるの繰り返し。それで今日もヒスって、おまけに公爵令嬢までお兄ちゃんを傷つけた。すでにぼろぼろのお兄ちゃんに追い打ちをかけたの。それを見た瞬間体が勝手に動いて、いつの間にかお兄ちゃんをかばってた。ついでだからお兄ちゃんは私のことが好きなんだって釘を刺しておいたけどね」
そろそろ眠れそう。
「お兄ちゃん、いくらしんどくても死んじゃだめだよ。私がコールズで暗殺の訓練させられたって話はしたことあったかな。そこでね、拷問の仕事風景を見学していると、大体の人はもう殺してくれって言うの。それでさ、実際に殺すってなると彼女たちは、嫌がったり命乞いしたりするの。最終的には殺すんだけど、死に顔も凄く苦しそうなんだ。だから、死にたいって思っても、心のどこかで本当は生きたいって思ってる自分が必ずいるから、死んじゃだめだよ」
おやすみ、寝てる間も横にいてよ。
「もし本当に死にたくなるくらい辛いんだったら、もう全部投げ出してここから出ていこうね。その時は私もついていくよ。小さい頃からお兄ちゃんのお尻追っかけるのだけは得意だからさ」
・・・・・・
「あいつらはお兄ちゃんを自分だけのものにしようとしてる。でも私は違うよ。私は自由に生きるお兄ちゃんについていくだけだから。その時点でもう、あいつらはどれだけ頑張っても私に勝てない。私が一番なんだ。・・・お休みお兄ちゃん。早く元気になってね」