少女の見た夢
5年前
カトリア連邦領 ラーシャ島
「よーし、いくよー!」
小さな団地の公園に、声変わり前の甲高い子供の掛け声が響く。
公園には、性別も人種も様々な子供たちが、放課後のドッジボールに興じていた。
ラーシャ島。
18世紀ごろ、かつて超大国であったルージア王国によって”発見”され、原住民をそのまま奴隷にする形でルージアの植民地となった。
が、20世紀の2度の大戦で宗主国であるルージアは疲弊し尽くし、戦後処理のゴタゴタに乗じて今は新興の大国、カトリア連邦が実質的に支配している。
「えいっ!」
この辺りでは珍しい、見事な長い銀髪をたなびかせる少女が、腕を大きく振りかぶってゴムボールを空に向かって思い切り投げる。
放物線を描き、物理の問題としては大変理想的な軌道で落下するボールはしかし、狙った相手に余裕で回避され、ボールは虚しく地を叩く。
「やーい、ヘッタクソー!」
「エリシャ...これはドッジボールだよ、キャッチボールじゃないんだ...」
「う...うるさいなー!」
そのとき、
「臨時ニュースをお伝えします。臨時ニュースをお伝えします。
本日04:00ごろ、レベルタードで大規模な爆発事故があった模様です。
詳細は確認中ですが、当時周辺では、カトリア連邦軍機が目撃されたという情報もあり...」
そう、ラジオが告げた。
「ん、なんだ?」
「爆発事故だってよ」
「カトリア軍?」
ざわめき、まだ状況がわからない少年少女たちの頭上でラーシャ自衛隊所属の戦闘機がアフターバーナーを焚きながら飛んで行った。
尾翼には、この辺りでは夜空のシンボルとなる、南十字星。
そのキャノピーの奥、パイロットが、眼下の子供達を認めると、軽くバンクを振り、彼らの上で大きく宙返りをしてみせた。
「...気持ち良さそう......」
「...うん」
「そうか?うるさいだけだろ」
「んもう!どうしてウォルシュはそんな夢のない事を...」
「決めた」
「ってエリシャ⁈」
「私決めたよ!」
「はい?」
「私、パイロットになる!」