ストール警告はBGMです
「Wybern 4 target locked. FOX2!」
ハイGターンを繰り返しながら、エリシャは敵機にミサイルを放つ。
が、敵のフレアに誤魔化され、命中しない。
「ッ! ちょこまかと!」
だが、既に機体側部の20mm機関砲の射程に敵機は入り込んでいた。
「Wybern 4 guns!」
操縦桿の兵装選択パッドでM61を選択。
HUD上に現れた照準レティクルを敵機の予測進路線に合わせて、引き金を引いた。
バルカン砲特有の連射音が、腹を震わせる。
そしてその先では、数百の20mm砲弾を受けた敵機が破片を撒き散らしながら落下していく。
追い越し際に見た、キャノピーの赤い染みは、今はまだ見なかったフリをさせてもらおう。
「...ごめんなさい」
ひっそりと呟いた言葉は、誰にも聞かれることなく、当のエリシャは後方からのロックオン警告で我に帰る。
「Wybern 3 to4! Check six. Break!」
「Willco!」
キースからの警告に、そう短く返すとエリシャは回避機動を始めた。
既に近づきすぎた敵機は、機関砲でエリシャを撃ってくる。
バレルロールで砲弾を躱しながら、先ほどの感傷など無かったかのように、高速で思考する。
減速して後方に着くには相手が悪い。
Su-30の機動性は決して舐めてはいけない。
シザースに持ち込めるといいのだが、旋回した途端機関砲の斉射を食らうのが目に見えている。
ならば、奥の手を使うしかない。
周囲に自分を狙う敵機が他にいないことを確認して、エリシャはスロットルを一気に下げた。
同時にエアブレーキとフラップも展開。
自機の未来を予測したフライトアシストがストール警告を出すが、BGMだと思って無視する。
敵弾がキャノピーのすぐ側を掠める。
十分減速したのを確認すると、エリシャは操縦桿を引いた。
機首が持ち上がり、今度こそ完全に失速するが、スロットルを上げエンジン推力に物を言わせ飛行を継続する。
コブラ機動だ。
速度が急激に落ちたエリシャ機に、敵機はなすすべもなくオーバーシュート。
同時にエリシャは機体を立て直し、敵機後方に食いつくと流れる様にサイドワインダーを放つ。
敵機は回避する暇もなく爆散した。
が、今度は感傷に浸る余裕もなく、前方からのロックオンアラート。
直ちにピッチダウンしてミサイルの代わりに飛んできた機関砲弾をバレルロールで回避。
そのままスプリットSで敵機後方に着く。
4発目、最後のサイドワインダーを発射すると、回避機動をする敵機を機関砲で牽制しながら命中させた。
今度はイジェクトしたらしく、脱出用パラシュートが視界の隅に映った。
「Wybern 1 to 4. Are you OK?」
「Yes sir.」
と、AWACSの警告。
「Witch-Watch to All unit. A bogey coming close. High speed. Hot. Ready to engage.」
ボギーが単機で接近中、となれば...
「It’s a bandit! Eagle, Wybern. Ready to engage!」
「2 copy.」
「wait... Bandit incoming. It’s fast!」
直後、グレイズの機にロックオンアラート。
「Break!」
言われるまでもない。
エリシャは残りのチャフをばら撒くと、回避機動を取った。
コイツに近づいてはいけないと、本能がそう呼びかける。
が、なぜかイーグル2が突出している。
「...! Eagle 2, break! Don’t get close!」
イーグル1が必死に制止しようとするが、遅かった。
すでにイーグル2は、彼らの目の届かないところまで、誘い込まれていたのだ。
「Wait... Where is he?」
「Eagle 2, break!」
「Shit! Check six, check six! Break!」
「Eagle 2, can you respond? Eagle 2!」
「Missiles incoming! ...助けてくれぇ!」
明らかに様子がおかしいと、誰もが思った。
そしてグレイズは、確信する。
「Eagle 2, this is Wybern 1. What happened?」
「く、喰われる...!」
「イーグル2、こちらワイバーン1、喋るだけでいい!何が起きている?」
「...機体は、Su-30! 左翼に白の一本線!」
「クソッ!」
グレイズは小声で悪態をついた。
「北極星か...!」
前の戦争の、カトリア側の英雄。
実験部隊のXプレーン乗り。
「チクショウ!喰らっちまった!」
「イーグル2、逃げろ!」
「コントロールできない!イジェク...」
ザザッ、という雑音を最後に、イーグル2を示していた輝点が、レーダー上から消失する。
「Eagle 2 lost... Bandit is going away.
...area clear. RTB.」
AWACSの指示を最後に、生き残った5機は旋回する。
数を減らした鳥の群れは、心なしか物憂げに、彼らの巣へ帰っていった。




