ブリーフィング
レーダーサイトの接近通報で、目が醒める。
時刻は午前6時。ようやく日が出だすころだ。
朝焼けに照らされる自機に向かい、エリシャは眠い目を擦りながら走る。
周りでは、エリシャとは違い目も完全に醒めた整備兵が、熟練の職人技でフライトチェックを行なっている。
滑走路の末端にある耐爆格納庫では、重警戒序列についていたイーグル隊がエンジンを吹かして離陸待機中だ。
「少尉!」
と、顔見知りの整備兵に呼び止められる。
「まずはブリーフィングルームに向かってほしいと、グレイズ大尉が」
「分かった、ありがとう」
ということで、エリシャは踵を返し、基地司令塔内のブリーフィングルームに向かう。
しかし、不明機が接近しているにも関わらずブリーフィングとは、何事だろうか。
「遅いぞ、エリシャ」
「すいません!」
エリシャが駆け込んだブリーフィングルームには、既に基地の関係者が大勢集まっていて、当然そこにはワイバーン隊の面々もあった。
「全員揃ったな。よし、ブリーフィングを始める」
と、基地司令が始めた。
「先程、我が国の領海にある人工島に敷設されたレーダーサイトが、国籍不明機の接近を通報してきた。が、以降当該レーダーサイトからの通信が一切途絶えた。不明機による攻撃を受けたものと判断する」
「遂にSEADをかけてきやがったか。カトリアも本気みたいだな」
「まだカトリア軍機と断定された訳ではないが、まあ十中八九そうだろう。すでにイーグルが上がった。ワイバーンは後続として上がれ。
それとだな、件の爆撃機隊とは別に、不明機がもう1機確認されている。それを確認してきてくれ」
「単機ですか?」
「通信途絶前のレーダーサイトの報告ではな。十分注意してあたれ」
「了解。さぁ、行くぞ」
「はい!」
ワイバーン隊が部屋を出ようとすると、基地司令が呼び止めた。
「大尉!AWACSが担当替えになった。新しいコールサインはウイッチウォッチだ!」
「了解です!」
それだけ返事を返して、グレイズは部屋を後にする。
接近中の単機の不明機に不安を覚えながら......
格納庫ではすでに、ワイバーン隊の機が燃料も弾薬も満載してスタンバイしていた。
エリシャはコックピットに乗り込むと、対Gスーツとハーネスの酸素ホースや加圧チューブを機体のコネクタに接続し、動作を確認する。
これで、Gがかかった時は太ももか腕をスーツが圧迫し、体内の血圧を安定させる。
ヘルメットを被り、酸素マスク兼無線マイクを装着。
整備兵の手を借りてベルトとハーネスを接続、固定すると、一気に身動きが取れなくなる。
マスタースイッチをオンに。
電子機器の電源を入れたら、後はエンジンをかけるだけだ。
「エンジンコンタクト!」
整備兵の合図で、エンジン出力を上げる。
ファンの回転数が上がっていき、次第に音も大きくなる。
キャノピーを閉め、回転数が上がるごとに整備兵に合図を送る。
エルロン、エレベーター、ラダー及び各種動翼を点検。
正常に動作。
「Tower to Wybern 4. Takeoff from runway 02.」
「Copy that. Tower.」
「ワイバーン4」
突然、プライベート回線でグレイズに呼び掛けられた。
「何ですか?大尉」
「なあ....いや、何でもない。ウィッチウォッチとのリンクを再確認しろ、今までとは周波数が違うぞ」
「分かってますよ大尉。やけに心配しますね、今日は」
「...あの単機で接近中の機、どうもいやな予感がする。まあ、噂を小耳に挟んだ程度なんだが」
「噂?」
タキシングしながら、エリシャはグレイズに聞き返す。
先に上がるのはキースとサムのエレメントだから、エリシャとグレイズはしばらく順番待ちだ。
「5年前、ココの南十字星と似たように、カトリア側にもとんでもないエースパイロットがいたって話だ。なんでも、そいつは北極星って呼ばれてたらしい。ウチの南十字星に対峙する者って意味でな」
「北極星ですか......」
「あぁ、しかもそいつ、必ず単機で行動するらしい。まさかとは思うが...」
「分かっています。細心の注意を払いますよ」
「頼むぞ」
「えぇ、約束ですから」
言われた言葉をグレイズは聞かなかったフリをする。
(そういうのは出撃前に言うものじゃないんだよ)
「Wybern 1,4 takeoff.」
「1 copy.」
「4 copy.」
2機はスロットルを上げ、重力を振り切り飛び立った。




