62*靴下落ちるの嫌だよね
冒険者ギルドの買取所に向かい、昨日の約束通り魔熊を一頭余計に納めたら、おっちゃんが嫌そうな顔をした。
「ギルド長に今日は2頭納めろって言われたんだもん」
「解体する人数も場所も無いんだけどな」
「それはギルド長に言ってー」
「大体嬢ちゃん、いつ討伐してんだよ。市場で働いてるって話じゃねえか」
「えーと、日曜日に行ってきたよ。あと冷凍してある分もあるし」
日曜に近くまで船で行ったね。森には入らなかったけど。
「すげー容量のアイテムバッグだよな」
「えーと、複数持ってるから。外国の大きいのだし」
「複数持てるのか?!」
え、複数持てないの? 話してるとどんどんボロが出てきそうだな。
「あーそうか、別のギルドで契約すりゃ複数持てるか。でも金かかるから、嬢ちゃんみたいに稼ぐ奴じゃないとダメだなー。おっし、今日の買取額とこないだの魔石だ」
良かった、乗り切った。
冒険者ギルドではアイテムバッグが1個しか買えないってことか。覚えておこう。
「ありがとー。じゃあまたね」
「おー」
待ち合わせの15分前に着いたのに、もうジェマは来ていた。
短い髪のまま仕事着に既に着替えている。
「おはよう。早いね」
「おはようございます! 今日もよろしくお願いします!」
今日も堅いなー。まあ、2日目では慣れないか。
「昨日大丈夫だった? 疲れてない? ちゃんと寝れた?」
「大丈夫です!」
「朝ごはん食べた?」
「食べました! ありがとうございます」
「じゃあ、髪の毛やっちゃうねー、ここ座って後ろ向いて」
後ろから浄化魔法と治癒魔法をかける。すぐに髪の毛がサラサラになる。
体を保護膜で囲っていても、自身の汗などでは汚れる。汗をかいた記憶は無くても、結構汚れるものである。
暖かくなってきたけれど、すきま風のある小屋で寝ていたら風邪を引いたかもしれない。念のために治癒もしておかねば。
自分が世話焼き母さんみたいになってきた自覚はあるよ。
「今日は何色のリボンにしようかなー。あっ、痛かった? ごめんね」
「いいえ大丈夫です」
堅いってば。12歳だと反抗期かな、お母さん泣いちゃうよ。
髪が終わって、まだ大分時間があるので、牛乳とクッキーを出してまったりする。
子供にはカルシウムを与えないといかん。
牛乳も普通の牛乳パックだけではなく、タンクローリーごとある。
一体何億人分の牛乳があるのやら。
(私の次の担当者が)バターや生クリーム作る未来も、来るかもしれないので、とりあえずタンクローリーのまま置いておこうか。
クッキーは昔ながらの素朴なタイプで、砂糖さえ手に入ればその辺で売っていても不思議じゃない。
砂糖さえ手に入ればだ。
べっこう飴にあんなに喜ぶ程だから、平民には殆ど出回らないんだろうな。
クッキーを口に入れた瞬間、ジェマの目がまん丸になる。その後でほうっと息を吐き、恍惚な表情を浮かべた。
朝から終始硬い表情をしていたジェマが、一気に軟化していく。
やっぱり女の子には甘いものだよね。
「こんな甘い物初めて食べました。果物より甘い」
「いっぱい食べてね。急いで食べると喉詰まるから牛乳も飲むんだよ」
「はい」
素直に牛乳を飲むジェマ。
私は牛乳よりブラックコーヒー派だ。
15歳だからまだ伸びるかもしれないが、転生体が成長するのか解らない。こっちの女性の平均身長よりちょっと高いので、もう育っている気がするから牛乳はいいや。
「じゃあそろそろ時間だから行こうか。残ったクッキーは後でおやつにしよう」
その辺を片付けて(全部BOXにぶち込んで)歩き出した私の後ろを、ジェマがチョコチョコついて来る。
「あの、あの、あの」
通りを歩いているとき、後ろからジェマが声を掛けてきた。
「この靴下すごいんです! 紐で留めなくても落ちて来ないんです。紐で留めても普通のは落ちてきちゃうのに」
ヘアゴムと同様に、この国にはゴムが無いので靴下もずり落ちる。
紐で留めたところで落ちるだろう。ましてやジェマの足の細さなら紐なんて無いのも同じ。今回子供サイズのソックスを用意したので、ジェマには丁度良かったようだ。
「ヘアゴムと同じゴムが編みこまれているんだよ。だから落ちないの」
「へー凄いですね。昨日一日履いてたのに、一度も上げずに済んだんです」
「解るー落ちてくると辛いよね。ダブついてるとだらしなく見えちゃうし」
屋台で売る商品を考えたときに、靴下も考えた。
サイズも小さく軽いので商品として割と良かったのだが、ヘアアクセと違って靴下は消耗品だ。
ヘアアクセは毎日同じものを付けていても良いが、靴下は洗う手間があるので複数買わないとならない。
ジェマが言うようにとても便利なので、老若男女問わずこぞって買いに来るだろう。複数買ってストックも買う。でも消耗品だから汚れるし穴も開くから来シーズンも買いたい。
依って、私を町から出してくれなくなる。
はい、不採用。消耗品の販売は、いずれ定住する町を見付けてからね。
話をしているうちに、店についた。
「さあ頑張りましょうか」
「はい!」
2日目となれば慣れたもので、ジェマは率先してチラシ配りをして、会計も素早くこなしていた。
途中5分ほど私が離席したが、ぎこちないながらもお客さんの質問にも答えている。
優秀なバイトが入ったわ。もう私がいなくても大丈夫なんじゃないかな。
大人しいお客さんの応対はジェマに任せて、私はうるさい団体さんと舌戦を繰り広げる。
大阪のおばちゃんたちみたいな団体がここにもいるのだ。負けないぞー。
時折商人っぽいのが店を訪れるが、数点だけの購入は普通に販売している。
日に二度訪問は許そう。
三度目の訪問時に女装してきたので大笑いしてしまった。
笑っている私を見て、ジェマをはじめ周囲のお客さんがキョトンとしている。
人の顔が覚えられない私だけど、さすがにこれは気が付くわ。
「お客さん、女装はないって。午前中とお昼にも来たでしょ。そのときは男だった筈なのに」
触れちゃいけないデリケートな発言だったらごめんなさい。
頭に被ったスカーフで顔も隠し、何も買わずに逃げていった。
やっぱり触れちゃいけなかったのかも知れない。ごめんね。
別に商品がもっと欲しいなら直接言ってくれれば、いつでもクマグッズ売ってあげるのにね。




