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アイテムBOXに北海道丸ごと入っているので、異世界でも食べるものには困りません  作者: 柚木 冬


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50/88

49*ボート楽しくなってきた!

 市場の売り上げは、

 月曜 43,000デナリ

 火曜 13,000デナリ

 水曜 15,000デナリ

 木曜  8,500デナリ

 金曜 18,500デナリ

 土曜 22,000デナリ

 週合計120,000デナリとなった。


 十分ではなかろうか。月10万デナリの場所代も回収できた。原価0なのはいいよね。


 ただ冒険者ギルドで、3日に一度魔獣の買取で100万デナリ位稼いでいるので、屋台出す意味あるの? と何度も思うが、それはそれ、これはこれ。


 ローマ語の練習と、この国の常識を知るために、屋台やり始めたんだもんね。

 屋台で稼ぐ気なら、もっと稼げそうな商材いくらでも持ってるし。



 土曜の夜は一人お疲れ様会で、冒険者ギルド長お勧めの店に魔熊煮込みを食べに行った。

 あんまり考えたくないが、目の前の肉は十中八九私が屠った魔熊だ。


 味はギルド長の言う通り、この町で食べたものの中で一番だった。


 これはジョージの食堂に加えても良い味だ。ジョージの食堂は地球の物しか扱っていないが、第7の運営の食堂にはきっとあると思う。

 高級レストランだったので、1万デナリも取られた。


 ワインはイマイチだったよ。えぐみがあって酸っぱいというか。

 コップの底に漉し切れなかったクズが沈殿してたので、思わず浄化魔法を掛けてから飲んだら、アルコールまで抜けてしまった。アルコールも浄化すべき対象らしい。


 家に帰ってから缶ビールを飲んだ。やっぱりこっちの方が普通に美味しい。



 ゴーレムの方はまだまだだ。

 魔法の前に図工教室とか行った方がいいんじゃないの? とユイに笑われる。

 チキショー今に見てろ。




 またまたやって来ました日曜日。

 今日は海に行く日だ。

「よーし、いい天気だ。風もないし、絶好のボート日和だ」

 無理やりテンションを上げて、動かない自分の体を鼓舞する。


 梶山船長のボート講習、先週のことを思い出すと走って逃げたい気分だ。

 健康体すぎて仮病は無理か。

 電車の遅延も無理か。

 親戚もいないから忌引きも無理か。

 誰か助けてー。


 誰も助けてくれなかったので、とぼとぼと海岸を目指す。


 北門の門番さんは先日と違うおじさんだったが、優しい人だった。

 やっぱり可愛い女の子だと得する気がするな。

 ただでっかい魔法ギルドのバッジ付けているクセに、商業ギルド証を出したのが気になったらしい。

 世の中には魔法使いだけど商人の人もいる筈だが、少ないかな。


 歩きから途中でバイクに乗り換えて、先日の海岸に着いた。


 梶山船長は絶好調で、まず前回のおさらいをさせられる。

 ロープワーク、ボートを出して係留、各種備品のチェック、ボートの点検、給油。

 今のところは船長も優しい。間違っても許してくれる。何度もやり直しさせられるけど。


 しかし、エンジンを入れた途端、梶山船長にも海の男スイッチが入る。


 きっと画面越しじゃなくて自分で乗りたいんだよ。こっちに来て私の代わりに運転してくれないだろうか。

 でも、来世は地球で転生する人なのでそれは出来ない。


 500年後に地球人類が滅ぶ話も梶山船長は知らないので、その話題はしてはいけない。輪廻転生したら過去のことは全て忘れるし、いくら梶山船長といえども500年も生きないから、聞こえても支障はないのだが、一応運営の規則だ。


「よしちょっと慣れて来たな。いい調子だぞ。今日は海岸沿いを少し運転してみよう。北側には港があるから、南を回ってみよう」


 さっきまで怒鳴ってたクセに、急に優しいことを言う。これだから悪い人じゃないんだよなーと許してしまう。


 でも作業体のロボット顔だし、全く惚れないよ。中身絶対じいさんだし。



 指示の通りにハンドルを切った瞬間、急に風が変わった。


 風向きが変わったのは勿論だが、視界がぱっと開けたような気がした。

 徐々にスロットルを開きスピードを上げる。


 うっわー

 地中海のエメラルドグリーンの海。


 まだ浅いところを走っているので、海の底が見えそうだ。

 そうだ、ここはまだ環境汚染が起きる前の手付かずの自然の海なんだ。

 スキューバとかやったことないけど、気持ちいいんだろうな。


 結構スピードは出ているが、少し慣れてきた。

 スピードが遅いときの方が安定しないので怖い。これはバイクと同じかも。


 周囲を見渡す余裕が出てきた。

 左側は広い海、右側はアリッチェの町を抜けて田園風景だ。

 これはエルゼダンテの森からやって来たときの反対ルートだ。もう少しでエルゼダンテの森に着くだろう。

 あのときの海岸も見えるだろうか。


 あっという間に右側は深い緑になった。

 こうやって外から眺めると、緑豊かな自然という雰囲気には思えない。


 深い緑から底知れない恐怖を感じる。あんな怖い森にずっといたんだ。

 エルゼダンテの森と聞いて、若い冒険者たちが怯えるのも解る。

 こんな深い森なら、魔熊も100頭以上いるよねー。

 日本だったら普通の熊でも100頭見付かったら大事件だよ。


 ただ走らせているだけだから結構慣れてきた。


 ボート楽しーい。


 すれ違う船はいない。

 視力5.0で見ても全く見当たらない。


 外国の商人をギルドで結構見掛けたから、もっと頻繁に往来しているのかと思ったが、今のところ視界に入る船はなかった。

 一応、運営で梶山船長とユイが遠くの船も監視しているので、動きがあれば教えてくれる筈だ。


 このボートも保護膜とプロジェクションマッピングで、海に同化して姿を隠しているが、動いているのでどうしてもズレてしまうところが出てくるようだ。

 遠くからは水面のゆらめき位に思うが、近くなるとバレてしまうらしい。近ければ姿が見えなくても、音や波でバレるけど。


 そのため、ボートにもゴーレムに似せた顔がついている。ゴーレム魔法早く頑張らなくてはなー(遠い目)。


「船長、ヤバいヤバい、ボート楽しくなってきた」

「そうだろそうだろう、海楽しいだろう。でもそういうときが一番危ないから、注意を怠るなよ」

「はーい」


 右の海岸線に、森じゃない空間が見えてきた。


 きっとあのときの海岸だ。

 岩場に囲まれて海岸まで降りることが出来なかったけれど、エメラルドグリーンの海を見て泣きそうになったよな。ほんのちょっと前なんだけど懐かしい。

 降りるつもりはないが、少しスピードを落とす。


「寄って行くのか?」

「寄りません! 魔獣いっぱいいるんですよ」

「狩りが好きだと聞いていたが」

「それは誤った情報です」


 もうどうでも良くなったので、またスピードを上げた。ボートが大きく跳ねる。

「気を付けろー」


 またしばらく走って半島の端まで到着した。今日はここまでだ。ぐるっと回って帰ってくる。


 ボート楽しいわー。

 でもこの位の距離がいいかも。これ以上走るとしんどいと思う。手も痺れて来たし、治癒をかけておこう。


「そろそろ海岸だぞー」

 海岸線見てても似たり寄ったりで、どこに停めるのか全然解らない。


 タブレットがナビ替わりになってるんだけど、色々初心者には難しすぎて操船しながらはキツい。

 だから普通は同船者が必要なんだね。今は、梶山船長とユイ頼みだ。


 停船準備に入り、行きの海岸に戻って来た。


「梶山さん、私考えたんですけど、ちょっとやってみてもいいですか?」

「うん?」


 ボートを停めてエンジンを切り、ボートの横に土魔法で桟橋を作る。アンカーは下ろしていない。

 桟橋に降りて、ボートをBOXに入れる。桟橋から海岸へ歩く。

 そしてまた桟橋に戻ってきて、BOXからボートを出す。乗り込む。桟橋を壊す。


「これで良くないですか?」

 係留作業は必要ない。BOXと土魔法があるからなせる業だ。


「あ、ああ」

 唸るような声を上げる梶山船長。


「勿論、ロープワークや係留方法はタメになりましたよ! 人目のあるところでは必要になるから、覚えて良かったです。でも一人きりで誰にも見られないときには、こっちの方が時間節約になるかなと思いまして」

「……ああ」


 落ち込まないでくださーい。

 声の感じから、梶山船長がめっちゃ落ち込んでいるのが伝わってくる。


 人目のあるところは逆にボートを見られては困るから、係留する訳にはいかないんだよね。

 仮に見られてしまった場合は、さくっとアイテムバッグに仕舞うしかないだろう。


 例え座礁してもBOXに入れて出せば良いのだ。

 保護膜と再生魔法掛けているので、余程のことが無い限り船体は無事だ。

 念のためボートのコピーも用意してある。


「じゃあ、今日はこれで終わりだ。お疲れ様。次回はまた日曜ということで」

 梶山船長は覇気の無いまま帰って行った。


「悪いことしちゃったかな?」

とユイに聞く。


「まー大丈夫でしょ。ボート平気そうで良かったね」

「楽しかったー。でも怖い。いくら体が丈夫でも、海に落ちたらきっとパニックになると思うんだよ。落ち着いて行動できる筈がない」


「うーん、多分大丈夫かなー。パニックになっても、保護膜がある限り1時間は息続くから、その間に落ち着くよ」

「はぁ? どういう仕組みよ、それ」


「そういう仕様。それに例え死んでも運営に戻って来るだけだから再トライできる。ただその体は勿体ないからピックアップできればいいんだけど。もし出来ない場合は、新たな転生体探して、また森の小屋(スタート地点)からスタートになるね」


「何でライフあといくつあるみたいな話になってんの? 全く初耳なんですが」


「体丈夫だから死なないって言ってたじゃん。ああ、寿命は別よ、老衰はどうにもならない。80位まで生きたのに、スタート地点からやり直せっていうのは酷だしね」


「わーわーわー聞こえない聞こえない。もう最近町で規格外扱いされるけど、全てはこの転生体が悪いんじゃないかな。もっと普通に作れなかったのかな」


「めっちゃお金かかってるんだからね、その体。ピックアップできないような場所に落として来ないでよ」


「あーもう何も聞こえないし聞きたくない。魂が聞くことを拒絶している」


「ま、死なないから安心しなさいってことよ」



 今日のボートは楽しかったのに、一気に疲れた。

 早く帰ってまたゴーレムの続きをしようか。


「完璧な体なのに、工作が苦手ってどういうこと?」


「それは転生体のせいじゃないよ。手先器用なんてパラメータ無いからね。カノンのせいだよ」

 ああ、やっぱり。私も落ち込む。


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