47*いつの間にか習得してたよ
まだ10日たっていないが、市場に行くまで時間があるので、魔法ギルドに寄ってみた。
朝でも冒険者ギルドより混んでなくて良い。
やっぱり魔法使いは夜型のイメージだよね。夜遅くまで研究に没頭してしまうから、朝は低血圧で起きれないなんていう勝手なイメージがある。
あ、先日の女性……アルマさんがいた。
近寄って声を掛けてみる。
「おはようございます」
「あ、カノンさん! 良かった! 昨日認定証とバッジ届いたんですよ。宿に行ったらもうカノンさんいなくて、どうしようかと思ってました」
ああ、そうか。住所不定になってるんだった。でも廃倉庫を住所として申告していいのか?
「10日経ってないから、まだだと思ってました」
「何か用事があって来られたんですか? 手続き進めちゃっていいですか?」
「あーはいはい大丈夫です。お金も払うんでしたっけ」
「30万デナリになります」
急に笑顔で言ったわ、この子。
大丈夫、冒険者ギルドから分捕ってきたから、3日に一度100万稼ぐ私にとっては端金だわ、おほほ。
やっぱり屋台出す必要ない気がしてきた。
まあ、屋台は言語マスターのためだもんね。
金貨3枚(30万デナリ)と先日貰った仮の認定証を出した。
アルマさんは書類に記入しつつ、この間聞いた説明をまた繰り返して、認定証とバッジを渡してくれた。
「おめでとうございます。今日から正式に上級魔法使いです」
バッジでかっ! 冒険者ギルドと商業ギルドの二回り大きいわ。
着替える度に3つ付けるのが非常に面倒くさいから、3つ縦に並べてリボンに付けて、そのリボンごと取り付けるだけにしようと計画してたのに、魔法ギルドバッジだけが5cm位あるので異常に目立つ。
周囲を見てもそんなに大きいのを付けている人は見当たらない。
「大きすぎないですか?」
「上級バッジだからです」
ニコリと笑うアルマさん。もし特級になったら10cm位になるんじゃないの? 絶対要らない。
「ちゃんと付けて下さいね。バッジ付けずに魔法使うと罰則ですから」
マジかー。邪魔だなー。
今すぐ付けろと目で脅すアルマさんに怯み、嫌々ながらバッジを付けた。大きい上に重くて下を向いてしまう。要らないんですけど。
「カノンさんに早速魔法使いの初仕事依頼があるんですが」
「え? 仕事? えーと、今市場で屋台出してて、この後も行かないといけないんですよね」
「屋台って何ですか? カノンさんが屋台? 食べ物ですか?」
「あー違います。雑貨ですね」
アルマさんはちょっと残念な顔になった。食べ物が良かったらしい。
「雑貨というとどんな?」
自分の髪についたシュシュやヘアクリップを指差す。
「こんなのとかです」
「かわいいー、行きます。場所どこですか?」
「えっと奥の方で、フルーツ屋さんがある辺りなんですが、解ります?」
「はいはい、よく行きます」
「多分16時頃には店じまいしちゃうと思います」
「行くとしたらお昼なので大丈夫です」
思わぬところで営業してしまった。このために来たわけじゃないのに。
「アルマさんに相談があったんですよ」
「何ですか?」
「治癒魔法の練習をしているんですが、きちんと発動しているのかどうかが解らなくて、みんなどうやって訓練してるのかなって」
「ああ、なるほど。じゃあ治癒魔法かけてもらえます? 昨日ナイフで指切っちゃったんです」
気軽にアルマさんが自分の手を差し出してきた。
ほんのかすり傷程度で、もう傷口はおおよそ塞がっているが、少しだけ血が滲んで見える。
「そんな簡単に。もし失敗して悪化しちゃったらどうするんですか?」
「いやこの程度悪化してもたかが知れてますし、治癒魔法使える人もいるからその時は治してもらいますよ。数日で治るでしょうが、手を洗ったときとか地味に痛いんですよね」
「だったら治癒使える人に治してもらったら?」
「この程度じゃやってもらえませんよ。悪化したときに助けてもらいます」
「解りました。じゃあ、ちょっとやってみます。恨まないでくださいよ」
彼女の指に向けて、自分の手をかざした。詠唱した方が効果が上がるよねきっと。
「治癒!」
傷に向けて魔力が飛んでいくのは解るが、エフェクトは無し。癒しの緑の優しい光とかがエフェクトで出てくれると気分が上がるんだが。
見ると、傷が無くなっていた。おお、きちんと発動したじゃないか。
治癒魔法を覚えたぞー。
「アルマさん大丈夫ですか? 気分悪いとか無いですか?」
「え、ああ、何だか温かいです。手だけじゃなくて体じゅうポカポカします。カノンさん、成功ですね。キレイに治ってますよ。この辺でしたよね? キレイになりすぎてどこに傷があったか思い出せない」
成功だ。良かった良かった。でも小さな傷程度じゃ大した魔法じゃないだろうし、大きな怪我や病気も治せるようになりたいから、どう訓練したらいいんだろう。
「あれ、ちょっと待ってください。左腕のここに古傷があったんですが、どうしてこれも無くなってるんでしょう?」
「え?」
「折角だからついでにこれも治してもらおうと思ったら、もう既に無いんですが! さっき右手でしたよね? 何故左腕も一緒に治ってるんですか?」
そう言われても私だって、右手薬指に集中して魔法かけた筈なんだけど。
一度に治って良かった事案なのに、何故そんなに怒るんだ。
ほんわか可愛い系だった筈のアルマさんが、物凄い圧を掛けて詰め寄って来る。
「えーわかりません。多分詠唱したおかげで効果が上がったんだと思います。魔力量が多い方と言われたので」
「そうだった、裏の大木を倒した上級魔法使いということを一瞬忘れてました。普通の初級魔法使いだと最初のうちは小さな傷しか治せないんですよ。……何? どうしたの?」
奥にいた職員が寄ってきて、アルマさんへそっと話し掛けてきた。
「私今朝からすごくお腹痛かったのに、何故か急に良くなったんだけど。たまたまかもしれないけど、タイミングが良すぎて」
「え? どこにいた?」
「奥の執務室にいたんだよ。急に治癒されたときみたいに温かくなって、こっち覗いてみたら、丁度その話してたから。もしかして範囲治癒魔法?」
二人が振り返ってこっちを見る。うわ、怖い。
アルマさんが勢いよく立ち上がって、部屋中に声を掛ける。
「さっき急に体調が良くなったり、傷が治った人はいませんか?」
「え? 何?」「二日酔いの気持ち悪いのが治った気がする」「また飲みに行ったの? いい加減にしなよ」
周囲の人たちが寄ってきた。他にお客さんもいるんだけどー。
「範囲治癒魔法がかかった可能性があるの。トマスさん! 骨折治ってませんよね?」
名指しされたトマスさんは部屋の隅にいて、急に呼ばれてびっくりした顔をしている。
左手に包帯を巻いて三角巾で吊っていた。
「いや、さすがにそこまでは無理でしょう」
トマスさんの周りにいた人たちが彼に詰め寄り、無理やり三角巾を取る。
ちょっと待って! 悪化したらどうするの!
「やめろっておい。あれ? 痛くない」「治ったんじゃないの?」「おっ、腕伸ばしても痛くないぞ」「治ったー」
いやー骨折中に腕動かして変な方向にくっついたらどうするのー。
「あたしちょっとトイレで昔の火傷の跡見てくる」「あ、俺も手術跡気になる」
何人かがトイレに走っていった。
「肩こりが」「ぎっくり腰が」「咳が」
トマスさんはブルンブルン腕を振り回して、「治ったぞー」と笑っている。
トイレから戻ってきた男が「手術跡が消えたってどういうことだよ!」と叫んだ。
カオスだ。もうこのままそーっと逃げ出したい。
「さすが上級魔法使い!」「すげー上級魔法使いすげー」「カノン様―!」
あ、逃げる前に見付かった。みんなの視線がこっちに集中する。お願いだから様呼びはやめて。
お客さんたちはポカンとしてはしゃぎ回る職員たちを見ていたが、そのうち自分の体をきょろきょろ見渡し始めた。
ヤバい収拾つかない、どうしたらいいんだろう。
そのうち誰かがギルドを飛び出して、寝たきりの自分のおばあちゃんとかを連れてきそうだ。
治癒院に治癒魔法使いがいるそうだけど、そっちと敵対すると困るよ。拉致監禁されちゃうよ。
発動しているのか全然解らないと治癒魔法を何度も何度も試していたおかげで、全く知らない間にレベルアップしていたようだ。
蘇生とかも実は出来たりしないよね? 教祖にされると困るからそれはやめて。
職員と盛り上がり中のアルマさんに、「時間だから市場に行くねー」と声を掛けて、ダッシュでギルドを出た。
所在もバレているしすぐに確保されそうだが、とりあえず今だけは勘弁して。
こんな私に誰がした。
「ユイ、甲田さんに文句言っといてよー」
ブツブツ日本語で呟きながら、市場に向かう。




