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アイテムBOXに北海道丸ごと入っているので、異世界でも食べるものには困りません  作者: 柚木 冬


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31/82

30*初日からやらかしたらしい

「ええっと、何を撃てば?」


 試験も丁度終わったのか、休憩なのか、受験者たちがぞろぞろ建物へ戻って行く。

 そこにギルド長と知らない私がいるものだから、何かあるのかと数人が興味で立ち止まり、気付けば後ろに大人数が見ていた。


 ちょっと何で見てるのよ、緊張するでしょうが。別に何でもない新人なんだから、さっさと帰ってよ。


「じゃあ火魔法を撃ってみて」

 ギルド長が的を指さして言った。


 構えて、心の中で「火弾」と唱える。火の弾が的を貫いた。

 火弾はやっぱり迫力あるけど、水ほど慣れていない分威力が弱いな。


「はぁ?!」

 後ろから大声がして、慌てて後ろを振り返る。大勢が私を見ていた。


「何あのスピード」「え?詠唱は?」「魔道具じゃないの?」「あり得ないでしょ」「ど真ん中だよ」「貫いたよ」「さっき水魔法も同じだったよ」


 みんな一斉に喋り出して、私に掴み掛かりそうな勢いで寄って来る。うわー。


「こらこら、お前ら下がってろ。魔道具は持ってないぞ。魔石を持っていないか確認した筈だ。おい、アルマ、魔石確認したよな?」


「しましたー! 持ってませーん!」

 ギルド長の質問に、お姉さんが遠くから答える。


「そうだ。この子の実力だ。お前らもこの位撃てるよう頑張れ」


 ギルド長煽らないでー。

 町に来た初日に大勢から反感買うのは嫌です。

 転校初日に先生から褒められると、イジメの対象になったりするんだよ。


「でも! 詠唱は?」


「はい! 詠唱します! もう一発撃ってもいいですか? お姉さんもうちょっと避けて下さい。はい、では土魔法いきます。土弾!」

 詠唱しないとダメっぽいから、口に出してみる。


 山の精霊よなんちゃらは無理なので、技名のみで。「ファーイーアーーボーーーール!!」と同じってことでいいよね。


 実は土弾は威力が半端ないので、途中から封印していた。

 最初は森の小石をそのまま飛ばしていたのだが、弾の硬度を高めていったら、水晶位の固さになってしまった。

 魔熊も貫通して後ろの木にまで損害を与えてしまったので、しばらく使っていなかった。


 今日は少し柔らかい弾を想像して発射する。

 ……筈だったのだが、詠唱を思い切り口にしたことで、魔法の威力が上がってしまったらしい。


 あっという間に的を貫き、的の傍にいたお姉さんは思わず尻餅をつき、遠くにあった大木がメリメリと音を立てて倒れた。



 あ……やらかした。



 グラウンドに倒れている一本の大木。なんかシュールな光景だ。


 それ以上は被害は出ていないようだ。裏がすぐに民家じゃなくて良かったー。


「わっはっは、すっごいなーお嬢ちゃん!」

 私の腕をバンバン叩いて、ギルド長が笑う。バンバンやめてちょっと。


「なーアルマ、これ合格でいいよな? こんなに目撃者いるし十分だろう」


「はい、私も合格だと思います」

 お姉さんは大木の様子を確認に走って行った。


 いや、本当申し訳ないです。


 弁償? その位のお金はあるし、いっそ違う大木を植えてもいい位だけど、ギルドの思い出の大木とかだったら困るんですけど。


 受験生や他の職員の皆さんは、さっきからずっとフリーズしていてまだ起動していない。


「あと、範囲魔法は何か使えるか?」

「範囲魔法、ここで撃って大丈夫ですか?」


「わっはっは、ギルド全て燃やされても困るしなー」

 また私の腕をバンバン叩く。バンバンしないでって。


「あ、いいのがあります。これなら問題ないと思います。範囲浄化魔法!」


 アニメの様にキラキラしたエフェクトは残念ながら無い。でもグラウンド中の人はキレイになった筈だ。


「どうですか?……ぶほっ」

 言葉の途中でギルド長の顔を見て、思わす吹き出してしまった。


 厳つい顔をしたギルド長の髪の毛がツヤツヤサラサラ。

 特に髭がツヤツヤサラサラ。

 やばいっ笑い死ぬっ。耐えろ、私。


「お前、髪の毛めっちゃキレイになってるぞ」「あ、朝のスープのシミがない」「おー靴が新品に戻った」「あんなに痒かった体が痒くない」

 風呂入れよ。


 周りの人たちも再起動して、一斉に騒ぎ出した。

 みんなサラサラの髪をしている。


 そしてまたギルド長を見て……ああっ、ダメだ、笑いが止まらない。


 そんな私の状態に気付きもせず、ギルド長はまた私の腕をバンバン叩きながら話し掛ける。


「おーし、合格だ! ちょっと書類作るから部屋に戻ろう。アルマ早く来い!」


 笑いを必死に堪えて死にそうになっている私を引っ張って、ギルド長が歩き出す。


 後ろからお姉さんが、私のバッグを持ってついて来てくれたようだ。

 忘れてました。ありがとうございます。でも今喋れる状況じゃないので、すみません。



 ギルドの部屋に戻ると、人が沢山いた。

 グラウンドから戻って来た人たちや他の職員でごった返している。


 なんかさっき来たときより明るいなと思ったら、壁の木材がキラキラしている。

 まさかと思って床を見たら、沢山踏み荒らされた筈の床材もキラキラしていた。見上げると天井もキラキラだ。


 あー、これはもしや範囲浄化魔法の影響?


 グラウンドにかけたつもりだったんだけど、ここまで影響するとは。

 そっか、口に出して言ったからか。やっぱり無詠唱に限るね。


 全員髪の毛もサラサラで肌艶も良さそうだ。


 さっきまで私の魔法を魔道具じゃないかと疑っていた人も、私を見る目がニコニコに変わっている。

 浄化魔法が嬉しかったようで、良かった良かった。


 メテオとか撃たなくて良かったよ。

 一度くらい撃ってみたいけど、この町吹き飛ばしそうだから無理だな。


 深呼吸を繰り返して、ようやく笑いが収まった。

 何とかギルド長の顔が見られるまでに戻った。ああ、良かった。


 アルマさん(お姉さん)にバッグを返してもらう。やたらと軽いバッグに突っ込まれなくて良かった。いっぱい入っているフリだけの大きいバッグだから。


 ギルド長とアルマさんが向かいに座る。


「それでえーと、カノン、登録に来たんだよな。登録は勿論OKだ。そして上級試験合格ということで、上級魔法使いに認定する。学科は免除だ。認定証とかバッジは十日位かかるから、また取りに来てくれ」


「とりあえず登録証と、バッジ出来るまでの仮の認定証発行しておきますね。冒険者ギルドとか登録してます?」


「えーと、これから登録しようと思ってましたが。えっと……上級?」

 初級スタートなんじゃないの?


「それなら冒険者ギルドにはこれを見せて下さいね。ギルド長、一筆書いておいてください。その方が話早いですから」


「ええ、めんどくさいな。アルマ書いておいてくれよ」

「私が書くよりギルド長の方がいいんですって」

 大きいギルド長が、小さく丸まって書類に記入する。アルマさんには弱いようだ。



「初級・中級・上級・特級の階級があると先程お話しましたが、さっきの試験は中級昇格試験でした。カノンさんは無関係ながらも、他の受験生より高い得点を出しましたので、まずは中級に認定させて頂きました。更に上級昇格試験には、複数種の魔法か範囲魔法のどちらかが必要です。カノンさんは水・火・土ともに基準を遥かに超える威力で、更に範囲魔法も使えることが証明されたので、実績が無くても十分上級魔法使いの資格ありと認定させて頂きました。特級にはギルド登録3年以上、国の業務に従事経験ありの規定があるので、今はまだ無理ですが、是非そのときには挑戦してください。狭き門ですが、カノンさんの実力ならこれから磨いていけば可能性があると思います」


「はぁ」


「それで上級の年会費ですが、30万デナリになります」

「はい? 2万デナリでは? 初年度無料は?」


「初年度無料は初級の場合のみなので、一年以内に昇級するとその時点で解除されます。大丈夫ですよ、分割できますので。ちゃんと支払えるお仕事も紹介するので、心配ありません」


 えー。


「あと演習場の大木ですが」


 弁償ですか? やっぱり弁償ですよね? 木なら沢山持ってるんですけど、新しく植えるのはどうでしょうねー。桜の木とかキレイですよー。


「撤去費用はカノンさんの年会費から引いておきますので、ご心配なく」


 アルマさん笑顔が怖いよ。

 何だったら撤去もこっちで出来るけど、変な能力はまだ見せない方がいいよな。


 登録と同時に上級認定されたのに、それ以上マズイことになりそうだ。

 すぐにローマに運ばれて、国に縛り付けられて、実験動物扱いされたらたまらない。

 人畜無害な女の子を演じなければ。


「年会費は払いますが、次回認定証貰うときでいいですか?」


「大丈夫ですよ。分割もできますからね」


「書いたぞー。これを冒険者ギルドのギルド長に渡しなさい」

 小さく丸まっていたギルド長が、むくっと起き上がって大きくなった。


「ありがとうございます」

 さっさと退散しよう。

 これ以上いると、もっとお金を取られそうだ。


 出る前にトイレを借りるとまたスライムがいたので、スライムを見ないように目を瞑って済ませた。下から噛まれたりしないよね。

 簡易トイレ出したかったけど、誰か来ると困る。トイレットペーパーは私物を使ったけどね。


 スライムに慣れるのにはしばらくかかりそうだ。


 あれ? と既視感を覚えた方もいると思います。この話は、一番最初のプロローグのシーンですね。向こうは端折っていますが、大体同じです。

 死からスタートすると重くなっちゃったので、カノンがやらかした明るい話を一番最初に持ってきていました。

 引き続きよろしくお願いします(*^^*)


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