28*魔法ギルドに行ってみた
端的に私の身に何が起きたかをまとめると、トイレの中にスライムがいた。
あんなに会えるのを恋焦がれていたスライムが、トイレの中にいたのだ。
私をびっくりさせてやろうと、ユイがずっと黙っていたらしい。マジで許さん。
何でも消化してしまう特性を持つスライムは、危険性も殆ど無いので、ゴミ処理用として重宝されているらしい。
一般家庭ではトイレにスライムがおり、ゴミが出た際もトイレに捨てるとスライムが処理してくれるそうだ。家庭の排水程度ならスライム一匹で十分らしい。
洗濯場や銭湯や工場など、水を沢山使うところには、専用の水処理施設があり、スライムが沢山飼われているそうだ。
食べ過ぎてスライムが大きくなると分裂する。
冒険者ギルドでスライムの売買が出来るそうだ。
なんて合理的でエコなシステム。
でも、どうしてため息が出てしまうんだろう。
スライムトイレに入る心の準備が出来なかったので、とりあえず簡易トイレを取り出した。
狭い部屋にギリギリ入ってよかった。再生魔法が付与されているので、毎回取り出したときは新しいトイレだ。掃除不要なことに感謝。
スライムトイレは向き合えるまで、しばし封印。
では気を取り直して、町の散策に出掛けよう。
距離も近かったので、まずは市場を覗く。
丁度お昼だったので、屋台が賑わっていた。
フードコートみたいに真ん中がイートインスペースになっている。
町の人が並んでいる中を横切って、折角だから私も何か食べようと店を見てまわる。
さすがイタリア、パスタがある。
トマトがまだ無くても、オリーブオイルやチーズが有名らしい。また海が近い町なので、魚介類も多い。
散々悩んで、貝のパスタを注文した。400デナリ、安い。
人の少ないテーブルの端に座って、初第7料理を食す。
この時代の料理に期待は持っちゃいけないけれど、どうかなー。
香辛料も一般には広まっていないだろうし、塩味だけかも。
なんて思っていた自分を殴ってやりたい。
さすが食に拘るイタリア。
ちゃんと貝の出汁も出ていて、ガーリックやハーブで味も引き立ててある。載っている具材は少ないけれど、パスタの量は多い。これで400デナリは安いよ。
地球の味にはそりゃ及ばないけど、これでトマトや香辛料入ってきたらどうなっちゃうの。企業努力が感じられるお味でした。感謝。
飲食店以外の他の店も覗いていく。普通の店の他に、屋台形式の店が結構出ている。
一般の人でも屋台を出すことが出来るのかな。後で商業ギルドで聞いてみよう。
隅から隅まで回り尽くしたかったけど、今日はすることが山積みなので、どの店も覗かないでさっと見るだけに留める。今度じっくり見に来よう。
まずは魔法ギルドだ。
とんがり屋根だったり、ファンタジーな建物を期待していたが、普通の建物だった。
またしてもアイボリーの建物で、周囲の建物より大分大きい。この町にはアイボリーの家しか無いのか。
中に入ると人はあまりいない。広いフロアに2~3人。まだお昼休み中だったのかな?
とりあえずブラブラと中を歩き、何があるのかな、どこで登録するのかなと眺めていると、奥の方にいる女性に呼びかけられた。
「どうしましたー?」
「あ、登録に来たんですが」
「あーはい、ちょっと待っていてもらえますか?」
女性は持っていた大きな荷物を奥に運び、何かしているようだ。しばらくして小走りで戻って来た。
「すみませーん。試験で人が出払っちゃっていて、お待たせしました。そこの椅子に掛けてください」
「忙しいところに来ちゃってごめんなさい」
「いえ、大丈夫ですよ。登録ですか。魔法ギルドは初めてですか?」
20代前半位に見える落ち着いた女性だ。
茶色のワンピースで、所々に臙脂のアクセントが入っている。頭には幅広のヘッドドレスだ。
服装も落ち着いた感じなのに、頭だけで急にメイドさん感が漂うな。
みんな髪が長くて仕事のときに邪魔だからまとめているのだろうけど、この国の流行は早目に変えたいところだ。
「初めてです。この町に来るのも初めてです」
「そうなんですか。外国の方ですか?」
「はい、東の国から来ました。言葉があまり慣れていないので、変だったらごめんなさい」
「いいえ、とってもお上手ですよ。国には魔法ギルドはありました?」
「いいえ、魔素がとても薄い土地だったので、魔法使いも殆どおらず」
全くいなかったと思うが、私の与り知らぬところで存在したかは解らない。
きっと国の秘密組織にはいたんだと思う。特殊任務とかこなしていた筈だ。
「そうなんですか。外国の魔法使いが来られるの初めてなので、後で魔法を見せて頂くことになりますが、宜しいですか? 一定の水準に達していないと登録をお断りする可能性もあります」
「はい」
大丈夫なのかな。何の魔法を見せればいいんだろう。水弾と土弾位しか使っていないのだけれど。
「では、この国の魔法ギルドについてお話しますね。ローマ帝国では千年以上の歴史を持つ国家機関です。国の魔法研究や魔道具の開発、有事の際の防衛任務が主な目的です。ローマ帝国に定住されるおつもりですか?」
「しばらくは滞在したいと思っているのですが、周囲の国も旅行してみたいです」
「この国に滞在している間は、義務が発生します。それは問題ないですか?」
「戦争に駆り出される可能性があるということですか?」
「ここ100年戦争は起きてませんし、近隣の国とも平和条約を結んでいるので、戦争の可能性は低いと思いますが、有事の際はそうなります。ただ、魔獣討伐の仕事の方が多いです。魔獣が近くの村を襲うときがあって、その対応に魔法使いも応援要請されることがあります。この町の傍にもエルゼダンテの森があり魔獣が沢山います。定期的にハンターが間引いていますが、近くの村に降りてくることがあります」
私も結構間引いたから、お役に立てただろうか。
そういう意味では既に国の仕事をしていたと言えるし、その程度なら問題ないかな。
「わかりました」
「魔法使いのレベルに依って、初級・中級・上級・特級と分類され、クラスアップするためには試験があります。今日バタバタしているのはそのためで、今ちょうど裏で試験をやってるんですよ」
「そうなんですね」
「上の階級になればなるほど、仕事の報酬が増えたり、貴族家に雇用されたり、国の魔法研究機関に入れたり、国の要職に就けることもあります。魔法ギルドで扱う装備や魔法書や魔道具が安く手に入るメリットもあります」
「魔法書って何ですか?」
お姉さんは首を傾げた。
「色々な魔法について書かれている本ですよ」
「読んだらすぐに魔法が使えたりします?」
「読むだけでは無理ですよ。練習を沢山しないとダメですよ」
可笑しそうにお姉さんが笑った。
開くだけで魔法が使えるような本は幻想でした。残念。
「ただ階級が上がると納めて頂く年会費が増えます。これはギルドに預けている保証金とお考えください。毎年事故で魔法が暴発してしまう魔法使いが出て、そのときの治療費や周辺の修理などに充てられます。それを超える分は自費支払いになりますが。初級は年会費が初年度無料になっていますので、ご安心ください」
クレジットカードの勧誘みたいなことを言うな。
「2年目はいくらですか?」
「次年度からは年間2万デナリ。分割払いも可能ですよ」
ちょっと高いけど仕方ないね。
「わかりました」
「それでは申込みされますか? まずはこちらの申込書にご記入お願いします」
紙は、南門のものと比べると随分上質だ。向こうはほぼ黄土色だったのに、こっちはベージュ。
魔法ギルド結構儲けているな。国家機関だからな。年会費かー。
ペンの方も軸に彫刻もされて高級品っぽいが、ちょんっと付けるのは変わらない。彫刻がある分、指が痛い。無い方が書きやすいよ。
氏名/年齢/性別/出身地/住所/使える魔法/国の従事経験/健康状態
出身地はホッカイドー
住所は無いので、さっきチェックインした宿を書く。住所不定だな、私。
火、水、風、土 でいいか。混在魔法とかどこまで書いていいかキリが無いし。
従事経験なし
健康状態良好
「今日町に着いたばかりなので、住所がまだ無いんですが」
「大丈夫ですよ。どこに泊まっているか解れば。まあ魔法こんなに使えるんですか? 有望株ですね」
「普段は水ばかりですが」
「水魔法が得意なんですね。飲み水にも困らないし、水魔法使いは優遇されますよ。まずは実務試験ですね。規定以上の魔法が確認されたら本日仮登録になります。演習場に行きましょう。裏手にあるので、そっちの出口から出て先に行っててください。私は準備してから行きます。今試験中なので、静かにお願いします」
「はい、わかりました」
言われた通りにまっすぐ行って出口から出る。




