27*どんどん地図が増えていく
「まあ解ったよ。そんでお嬢さんは、これからどこに行くんだい?」
「市場に行こうと思ってます」
「アリッチェを出た後どこに行くのか聞きたかったんだが、アリッチェに住むつもりなのか?」
「一緒に来た商人さんのいるレインディナに行くつもりなんですが、だいぶ遠いんですよね? 怪我した足もまだ痛いので、少し休んでからと思って」
超健康体なので大嘘だが、少しこの町に滞在する理由が欲しかった。この国の常識を身に付けるまでの間ね。
「治癒院で治癒魔法かけてもらえばいいよ」
横から若い門番が笑って言った。
「治癒院?」
「あー、地図書いてやる。治癒魔法かければすぐ治るぞ。でもちょっと金かかるから、まずはいくらか聞いてからにしな」
「ありがとうございます。そうだ、魔獣の革を売るのは冒険者ギルドでいいんですか? それが売れたら治療費になるかもしれない」
「おーそうだな。1匹や2匹じゃ足りないと思うけど、冒険者ギルドで売れるぞ」
「冒険者登録もして身分証明書作ってもらうといいよ。さっきの外国のは使えないからね」
門番のおじさんが社員証の話をする。そりゃ使えないよね、知ってた。
「はい、行ってきます」
「じゃ冒険者ギルドも地図に書いてやる」
「魔法ギルドもいるんじゃないか? 魔法使えるって言ってたな?」
「あとはー? 商人なのか?」
「旅のお金が少ないので、屋台とかやりたいなと思ってるんですが」
「だったら商業ギルドも書いておくな」
「えーと、全部身分証明書を作らないとダメなんですか?」
「いや、そんなことないけどな。ただ登録してないと後でうるさい」
「ギルドに登録していると、メリットがあるんだよ。色々割引があったり、普通入れないところに行けたりする。普通の人は、州の移動には許可がないと行けないんだけど、冒険者や魔法使いや商人は仕事があれば行き来できる。ただその代わり登録料が高いところもあるから、きちんと話を聞いて決めなさい。あと、外国人の女の子だと色眼鏡で見られることもあるから、きちんとギルドに登録しておいた方がいいよ」
おじさんいい人だー。第7に来ていきなりいい人に会えて良かった。
あんちゃんの方も地図書いてくれて優しい。
めちゃくちゃ心配だったけど、いい人に会えて良かったよー。
まぁ、嘘八百並べてるのはこっちの方なんで、申し訳ないことこの上ないですが。外国人の女の子なのは間違いないです! 中身32だけど。
「解りました、ありがとうございます、地図も。あ、お勧めの宿はどこですか?」
「俺のお勧めは、ティトの宿。飯が上手い」
「いや、あそこは女の子向けじゃないだろう。男ばっかりで危険すぎる。金は持ってるのかい? ちょっと高くなるけど、女主人がやってるグレタの宿がいい」
「そうだな、野郎は危険だな。グレタの宿って馬車道の?」
「そう、この辺だな」
地図に宿も追加してくれた。
この二人いい人すぎるな。
結構長い間話しているけど、私に構っていて大丈夫だろうか。南門は殆ど人が通らないらしいから、暇なんだろうな。左の門番さんだけ置いてきてしまって、申し訳ない。
「じゃあ宿の空室確認してから、冒険者ギルドに登録して、魔獣を売ってから宿に行きます。あとは、魔法ギルドと商業ギルドに行きます。登録する順番ってありますか?」
「魔法がメインなら魔法ギルドが先の方がいい。冒険者ギルド行ったときに二度手間にならないよ。商業ギルドはどっち先でもいいんじゃないか」
「じゃあ、宿、魔法、冒険者、商人ですね。解りました。ありがとうございます」
「おー頑張れー」
「はーい、地図ありがとうございました」
「何かあったらまた聞きにおいで」
「ありがとうございました」
二人に何度も頭を下げて、ようやく歩き出す。
二歩進んだところで、私は振り返った。
「市場の場所も、地図に書いてもらっていいですか?」
解りやすい地図の筈が、色々な場所を付け足したせいでごちゃごちゃ見にくい地図になってしまった。
何度も頭を捻った挙句、ようやくグレタの宿に辿り着いた。
この町は、アイボリーの石の建物ばかりで、どれがどれなのか解りにくい。
地図が無いと確かに迷子になるよ。地図があってもなりかけたし。
宿にも大きな看板など無い。ドアに小さく書いてあっただけだった。こんな小さな文字でみんなよく解るな。
「いらっしゃい! 初めて? 一人?」
入ってすぐに威勢のいい声がした。貫禄のある女性がいた。
「あっはい。一人部屋空いてますか?」
「何泊? ご飯は?」
「えーと、とりあえず今日だけ。ご飯は付けてください」
「夕食だけね。朝食は無いから他で食べて。3,500デナリ。前払いだよ。鍵はこれ」
空き室があって良かった。初めての第7の宿、どんな部屋なのかドキドキするね。
急な階段を4階まで昇る。
この体になって体力ついたから全然平気だけど、踊り場も無い足場の狭い急な階段だと4階は辛い。
前世の体だったらハアハア言っていると思う。
引っかかる鍵を何度も回して、開かなくて泣きそうになったときに、ようやく鍵が開いた。
入った部屋は案の定狭く暗い部屋だった。
まず窓が無い。
有るは有るけど、ガラスじゃなくて木の窓なので開けるといきなり全開になる。まだ少し肌寒い今日は全開は辛い。
でも換気はしたいので、少しの間だけ開ける。寒い空気と一緒に日の光が入って来た。
ほぼベッドしか無い部屋だ。
机もソファもクローゼットもなし。荷物を入れるための大きな木箱だけ置いてある。
勿論お風呂なんてある筈もなし。
部屋に来る途中にトイレを見掛けたので、共同トイレなのだろう。
あんまり入りたくないが、市場調査を兼ねて行ってみる。
「おお」
ザ・昭和初期って感じの想像通りのトイレだった。和式のボットントイレ。
近くに質の悪い紙が重なって置いてある。
でもこれは想像より若干マシだ。木の棒で拭けとかだったらどうしようかと思った。
最悪浄化魔法があるので、拭かなくてもいい……か? それは女子として許されることなのか?
BOXからトイレットペーパー出せばいいのか。
だが、和式便器の上のフタを開けた途端、私は悲鳴を上げることとなった。




