19*ゴーレムの顔が気になる
「カノンのBOXの整理に、魂さんたち1,000人雇ったじゃん?」
今日のランチメニューを真剣に悩んでたら、画面の向こうにユイがやってきた。
『魔熊美味しかった?』とか聞かれるかと身構えたが、別の話題で良かった。
まだ甲田さんからは伝わっていないようだ。
「え? 給与の請求?」
「それは後でいいんだけどさ」
やっぱり請求はくるんだ。100倍速の部屋で1,000人って、どんな金額になるの?
雇用契約見てなかったけど、私に払える額じゃない気がするのですが。
「いやーその中に凄い人がいてさ、フォルダ分類から検索用タグ設定や写真の撮り方まで、全部取り決めてくれた。今まで人によって分類バラバラだったから、これは勉強になるってことで、DB管理の人たちが見学に来てたりするんだよ」
「それ前世は大手オンラインショップとかにいた人だよね」
「あのおじさんがいてくれて良かったよー」
「そのおじさんこっちに欲しい。というより、私じゃなくてその人の方が適任だったんじゃないの? 次の人生第7に来ない?」
「いやー、仕事はめっちゃ出来るんだけどね。若干パワハラ癖がありまして、現在監視中です。他の気弱な魂さんには直接関わらないように、グループリーダーが間に立って指示だけ伝えるようにしています。性格に難ありなので、来世はまだ地獄修行です」
いたよねーそういう人。
自分が仕事できる分、他の人もできる筈と思い込んで無茶ぶりがすぎる奴。上司にしたら振り回されて最悪なんだよね。仕事の出来ない上司の方がまだマシ……うーん、どっちもダメだなやっぱり。
それよりユイ、今地球のこと地獄って言わなかった?
ついに本音が出たな。
「とりあえず仕分けはしてるけど、大物をどうするかはまとめて会議しよう」
「解った。大物って例えば?」
「工場とか、原発とか、高層ビルとか」
「あー私の頭じゃどうにもならない奴だ。そっちで方針決めてよ。絶対使わないと思うけど、もしかしたら工場1個残しといて、とかあるかもしれない」
「それ多分お菓子の工場だよね」
どうして思ったことが解ったんだろう?
その後一週間、午前中はひたすら魔法の練習だ。
やっぱりウォーターボールとかウォーターサイクロンとか名前を付けた方が発動しやすい気がする。
口には出さないよ、恥ずかしいから。
森の外の色んな角度に打ち込んでいると、時々魔兎とか魔鹿とかに当たる。
一回だけ仕留められなかった魔熊が猛然と走ってきたので、必死で逃げたが、保護膜にぶつかってお亡くなりになった。
「わーびっくりした。保護膜こんなに凄かったんだ」
保護膜は小屋周辺だけではなく、今は私個人にも付与している。
森で急に魔熊がぶつかってきても、同じ状況になるそうだ。
それは安心だけど、魔熊に体当たりされても逆に吹き飛ばして成仏させる女ってどうよ。
いくら美少女でも誰も寄ってこないのでは?
水魔法以外にも、火・風・土・雷・氷も練習した。最初水だったってだけで、水が特に得意という訳ではなかったらしい。
威力は、どの魔法もあまり変わらない。
こっちの方が悪役になってきた気がする。安全なところからいきなり撃ってくる訳だから、滅茶苦茶悪役だよね。
「甲田先生、スライムとかいるの?」
「いますよ」
「いるの?」
思わず飛び上がって喜んだ。
「普通の動物が魔獣になったって話だったから、スライムは存在しないからいないと思ってた」
「森の奥にはいないんです。町の方にいけば沢山いますよ」
「おー、それは楽しみです。ゴブリンは?」
「ゴブリンは残念ながらいません」
「あ、残念じゃないです。そっちはいなくて良かったです」
スライム楽しみ。可愛いスライムだといいな。めっちゃ素早い銀色のもいたりするのかなぁ。
可愛いモフモフ魔獣とかもいたら、連れて歩きたいね。
魔素に慣れて魔法も使えるようになってきたので、旅立ちの日が近づいてきた。
BOXの整理を指示しながら、今後の方針などをユイと話し合う。
「色々考えたんだけど、ヨーロッパ周遊旅行とかしてみたいけど過酷そうだよね。特に交通が」
「電車や飛行機無いからね」
「それにこの辺、高い山ばっかりでしょう? 峠越えに馬車とかも無いよね」
「基本歩きだねー。乗馬の練習する? BOXに馬いっぱいいるよ」
乗馬? 絶対に出来る気がしない。
「車とかバイクはやっぱ無理かな? 人気のない所だけでも使えると便利なんだけど」
「うーん、魔法使いが鉄のゴーレムに乗って旅した話もあるから、車をゴーレムに偽装すればアリかも」
「おお! ゴーレムって土じゃないの?」
「土魔法だけど、鉄のゴーレムも作れるんだよ。甲田先生と相談しておくね」
「でもペーパーなんですけど。もう10年位車運転してない。トラブルあっても対応できないよ」
「もう一度教習からやり直そう」
「えー教習?」
「筆記はないよ」
「そりゃそうだわ。こっちに道路標識とかも無いだろうし」
「事故ってもBOXに入れて、新しい車出せばいいだけだし」
「あーそっか。オイル切れとかも気にしなくていいんだね」
「車やバイクも再生魔法つけとくから、壊しても平気。カノンはそれより丈夫だから、生身で崖から落ちても平気」
「いや、それはないって」
「じゃー試してみようか」
「きゃーなんか大丈夫な気がしてきたー」
そして早速次の日に車とバイクがやってきた。仕事速すぎ。
車もバイクもなかなか可愛い。
ゴツいオフロード車をイメージしてたけど、道幅狭いところにも耐えられるようにと軽だった。
四角いフォルムで、中はシート倒して寝られる広さだ。BOXがあるから荷物が場所取らなくていいよね。
色は目立たないようにグレー。可愛い色が良かったけれど、これは仕方ない。鉄のゴーレムに近い色になっている。
バイクも想像していたよりめちゃくちゃ軽くて小さい。一人で持ち上げられる重さなので、倒れても大丈夫だ。色も車と同じ。
ということで、なかなか可愛いのだけど。
「この顔は何?」
「ゴーレムに似せております」
前から見ると、ライト部分が両目になっていて、その下に口らしいラインもある。確かに顔に見える。
うーん、可愛いの? これって可愛いの?
車の方が愛嬌がある顔をしていて、バイクの方はぼーっとしてるように見える。
「こういうゴーレムがいるの?」
「第7の本に載っているゴーレムがこんな顔をしている。ただ魔石消費が激しいからあんまり距離は走らないんだって。一応カノンも本当にゴーレムなのか疑われたとき用に、ゴーレム作成の魔法を勉強しておいてね」
「可愛いのかなぁー?」
「メカ好き男子は大興奮だよ。カノン、モテちゃうね」
「それはちょっと違うと思うんだけど」
「もう顔はどうにもならないから諦めて! それより縦列駐車の練習よ」
「絶対に縦列駐車はしないと思う!」
狭い庭で練習できることは限られているので、ちょっと動かす程度で終了した。
森を抜けて町に行くときにまた練習するそうだ。運転はほぼ初心者なので、しっかり練習しないと。




