18*初魔法で魔獣討伐
甲田先生の魔法の授業は続き、魔法の理論や仕組みなどを習う。
魔力を動かす訓練を続け、身体強化や浄化などの魔法を少しずつ学んだ。
やったー浄化魔法ですよ。
私家事の中では掃除が一番苦手なんですよ。
アレルギー持ちだったから、埃厳禁のクセに、掃除するとくしゃみが止まらないので掃除したくないという堂々巡りだったな。
この小屋に来てから、アレルギー体質も治った上に、色々な物に浄化魔法が付与されているので、殆ど掃除も要らない。
なんて幸せ!
ミュージカルばりに箒を持って踊りながら、舞台の真ん中で腕を高らかに上げて幸せを叫びたい気分だわ。
そんなわけで浄化魔法が使えるようになって嬉しいので、大して汚れてもいない小屋のあちこちで浄化魔法をかけて回る私であった。
外から戻ったから浄化かけて、ちょっと水が撥ねちゃったから浄化かけて、寝る前には枕に浄化かけなきゃねー。
浄化が楽しくて潔癖症発症してきた。
小屋の家具や家電には、浄化と劣化防止の付与魔法がかかっているらしい。
浄化で汚れなく、劣化防止で新しいまま傷もつかない。
もう最高、前世に欲しかった。今までどれだけのお気に入りの物が汚れて、泣く泣く捨ててきたことか。
前世が魔法が使える世界だったら、節約も出来たのにーと思ったが、第7でもそうはいかないらしい。
当たり前だが、物に全て付与魔法をかけるには莫大な魔力を使用する。
そのため、人々は魔石から魔力を吸収して付与するそうだ。
しかし魔石は高いので、魔法付与にはお金がかかる。魔法が付与された商品は高いことになり、庶民は手に入らない。
売る側だっていつまでも使える商品を販売したら、新しい商品が全く売れなくなるので、商売上がったりだ。
だから商品には3か月とか1年間保証の付与を付けるらしい。
その後は汚れるし壊れるかもしれません。新しい物を購入するか、保証の延長代金を払ってください、となるそうだ。確かにそうだ。
その後劣化防止も、甲田先生から教えてもらったので、また小屋中を駆け巡るが、殆ど付与されているのでかけるものが無いよ。
食品に付与しても意味なかった。多少腐敗までの時間を稼げるらしいが、ほんの少しらしい。
だったらBOXに入れておいた方が腐らないしね。100年放っておいても大丈夫らしいから。
自分の手にかけてみたが、かかったのかどうか違いが解らない。
元お嬢だった15歳のキレイな手だ。違いなんて解る筈ないよね。
今のところ使うチャンスが無いので、劣化防止魔法は保留だ。
「体内に蓄積している魔力量が増えているようですが、何かしました?」
硬い表情の甲田先生の質問に、思わず身構えてしまった。
そんな悪いことはしていないよなー、よね?
「何故でしょう? 外に出て深呼吸してますがそれでしょうか。魔法の練習で覚えた魔法を沢山使うようにしています。あと、寝る前に魔力でマッサージしてます」
「魔力でマッサージ?」
「えーと、魔力を循環させて、体内から揉み解すというのでしょうか。特に頭の中が最高に気持ちいいです」
「はぁ」
「そして、体内の魔力を全て浄化魔法で放出してから寝るのが日課です」
「全て放出?」
「魔力ゼロにしてから寝ると、魔力量上がるって言いますよね」
「それは誰が言いました?」
凄く怖い顔の甲田さん。
あれー異世界モノの常識はまた違ったのかー。
「あ、えーと誰がではなく、前世の定説だったので、そうなんだと思い込んでました、すみません」
「私は初めて聞きました。それは知りませんでした」
「いえ、前世の話だったので、多分想像の話だったのではないでしょうか」
「可能性があるかもしれません。調べてみましょう。ところで魔力切れになると具合悪くならないですか?」
「大丈夫です。死んだように寝るので、却って寝つきがいいです。マッサージ後だからかもしれません」
「それも調べてみましょう。データを取らなくては」
もしかして甲田さんは研究オタクだったりするかも。硬い表情が幾分緩んでいるように感じられる。
「では、今日は外に出ましょう。タブレットを持って移動してください」
「はい」
小屋の外に出ると、右側に違和感を感じた。
「えええ?!」
小屋の右側に広い庭があった。囲っていた柵が広がっている。
「昨日までこんなの無かったのに。夜中に作業したんですか?」
何も音は聞こえなかったが。
「小屋のときと同じで、隣に広場を輸送させたんですよ。今日はここで魔法の練習を行います」
説明短いな。もう納得するしかない。
分子がどうのとか難しい話を聞いても、理解できる頭は無いので「そうなんだー」で良し!
「前に指から水が出ましたね。あれきり使っていませんでしたが、水魔法を強化していきましょう」
すみません、実はお風呂の中で少しずつやってました。
だって出来ると思うと、試してみたいものじゃないですか。
「端のテーブルの上にタブレットを置いてください」
「どっち向きに?」
「大丈夫ですよ。柵にカメラが付いているので、こちらからは見えます」
柵にカメラついてるの?
怖いな、変なことできないじゃん。いや、変なことはしないけどさ。
お風呂の中の水魔法は見られていないと信じよう。
前世の私じゃ『誰が見るかよ』って感じだけど、今の私は超絶美少女だからね。
いや、甲田さんを疑っているわけではありませんからね。
道場のいかついマッチョな師匠って感じだし。
「では森に向けて、水を出してみましょう。この間より沢山素早く出すことを意識して」
心の声は聞こえないようで良かった。いや、本当に疑ってませんよ。
ウォーターボールとか、技名は無いらしい。呪文も無くて良かった。
水の神よ、我に何だかかんだか与えたまえ、とか言わなきゃならないんだったら恥ずかしくて死んでたかもしれない。
大体記憶力皆無だから、毎回『あれなんだっけ?』とかなっていそうだし。
技名も全然いらないんだけど、名前付けておいた方が発動しやすい人もいるらしい。確かに、毎回何リットルで水速何メートルで直線的に発動とか考えるのも難しい。定義付けの意味で、ウォーターボールはこれ、ウォーターサイクロンはこれ、とか体に覚えさせると楽かもしれない。とりあえず色々練習してみて考えよう。
「水放出!」
まずはこれ。
森に向けて、前より勢いよく水が飛んでいった。水道管に結んだホースから水が迸った感じだ。
ギャー
森から何か声が聞こえた。
え?
「あれ、魔獣がいたのかな。何か声がしたね?」
「しましたね。あっ大変です、甲田さん! 『BOXに収納しますか?』と言われました。とりあえず『はい』でいいですか?」
「はい。何がいたんですか?」
慌ててタブレットに戻ってBOXの中をチェックした。
最近使ったアイテムがまず表示される仕組みなので、今入れたばかりの物が表示される。
『オルソ(魔獣)』が1個入っていた。
森の奥深くは魔素が濃くて、普通の動物が狂暴化して魔獣になるそうだ。
オルソは熊だった気がする。説明を確認したらやっぱり熊の魔獣だった。
魔熊でいいや。
とりあえずBOXから取り出してみた。
庭のど真ん中に大きな熊が出てくる。
一人ぎゃーと叫んで、距離を取る。
めっちゃくちゃでっかいんですが。
仰向けに寝てるけど、私の身長より遥かに大きいよね。
本当に死んでる?
BOXは生きている状態でも収納できるから、まだ息があったりしないだろうか。
「あー大丈夫ですよ、死んでます。BOXで生きているものは青で表示されますが、違いました。いや、カノンさん、見事なお手並みですね。見えてたんですか?」
「本当に死んでます? 大丈夫ですか? 見えてないですよ。森に水飛ばしただけですよ」
「これまた伝説が出来ましたね。初水魔法で魔熊を倒した女になりましたね」
「全然嬉しくないです」
どこにいたの? いくら保護膜で覆われているからって、こんな大きな熊がすぐ傍にいたの? こっわ。
未だ近寄れずに遠くから恐る恐る窺っているが、どうも心臓のあたりを直撃したらしい。胸のところに穴が開いている。
よくもたまたま直撃したものだ。
それに、そんなに威力あった? ホースでピュー位の勢いだった筈だけど。
「えー、どうしましょう、これ。魔獣肉って食べられるんですか?」
「初水魔法で魔熊を倒した挙句、食べようともしていると、坂口さんにお伝えしておきます」
「ぎゃーーーやーめーてー、甲田さんそれはやめてーーー」
「嘘ですよ。食べられますが、魔熊の肉は固いです。日本の牛肉とかに慣れていると、ちょっと美味しくないですね」
「で、どうすれば良いんでしょう、これ」
「BOXにまた戻しておけば? 町の冒険者ギルドに行くと引き取ってもらえますよ」
「へー、冒険者ギルドって本当にあるんですね。ネット見たけど、商業ギルドや手工芸ギルド、鍛冶ギルド、農業ギルドとかは見付かったんですが、冒険者ギルドは見付からなかった」
そそくさとBOXに魔熊を仕舞った。青で表示されていないかを確認する。大丈夫、お亡くなりになっている。
ちなみにネットとは、タブレットの第7検索のことだ。色々な情報がインターネットの様に載っている。
但し、地球よりかなり情報量が少ない。地上にはネットが無いので書き込む人いないもんね。専ら情報源は、第7の運営の人の書き込みだ。
「冒険者ギルドありますよ。ハローワークみたいなものですね。魔獣討伐や傭兵や街中の雑用とかの仕事を受発注できるそうです。冒険者という明確な職業は無いので、何でも屋ギルドな感じですね。魔法使いもよく登録しています。水が出せる冒険者は重宝されますよ。水不足にも助かりますしね」
「この水って飲めるんですか?」
ずっと聞きたかったことを聞いてみた。飲んでお腹を壊さないかが心配だったのだ。
何しろ自分から出てきた水だし、元は魔素から出来ている訳だから、到底飲めるとは思えないんだけど。
「飲めますよ。殺菌する必要が無いので、砂漠でも困りません」
「飲めるんだ!」
「結構美味しいです。水道水と違ってカルキくさくないし、軟水ですね。その辺りは硬水でしょう?」
「ペットボトルの水しか飲んでなかったんで、違いに気付いていなかったです」
「硬水で毎日髪を洗うとあまり良くないって聞きますから、気を付けてください」
「そうなんですか?! 毎日洗ってました。気を付けます」
水魔法の発動の続きを行う。もう熊はいらないから、危ないからあっちに行っててね。
結局、本日の獲物は魔熊1匹で終わった。いや、もっと倒したかった訳ではないよ。




