120*クジラの魔石
そして部屋の中心あたりに進む。
「この下に階段があります。私が来たときは間に岩があって塞がっていました。魔獣の気配がしたので岩を避けると、この下に200匹魔獣がいました」
みんなギョッとした顔をする。
「小型は殆どいなくて、中型大型ばかりで魔虎もここにいました。どうも階段が塞がったので、閉じ込められた感じでしたね。魔獣の倍以上の魔石が落ちていたので、餓死か仲間割れか」
「どうやってそんな数を倒したんだ?」
「それは昨日の話通りですよ。浄化を掛けたら魔獣が痛がって突っ伏したので、その間に仕留めました」
「200匹をか……」
「じゃあ、下に行きますよ。大丈夫、もういません!」
何故かみんなため息を吐きながら、残念な子を見るような眼をしてこっちを見ている。
「何よその目は!」
「何でもないです」
「何故に敬語!」
ぎゃーぎゃー。
魔獣がぎゅうぎゅうだった部屋も、ただの広い空間で今は何もない。
「こんな感じなので、崩落しかねないでしょう?」
「そうだな。しっかりした柱を建てて補強した方が良さそうだな。この下は何も無いのか?」
「索敵で探った限りでは解らなかったけど、何かあるかもしれない」
「うん、調べることが沢山ありそうだ」
時計を見るともう16時だ。ロープを渡す作業と休憩で時間を食った。
「それでは皆さんお待たせ致しました。本日のメイン会場へご案内します」
ちょっとかしこまって壁に開けた穴の方へ誘導する。
そして穴に一人ずつ送り込んだ。
一番後ろから入ると、殆どみんなが口をポカンと開けた顔をして突っ立っていた。私もそうだった筈だ。
そのうちみんなゆっくり動き出して、各々が見たい方向へ歩いて行く。
しばし各々の時間を過ごした。
10分程経って、申し合わせたようにみんなが集まって来る。大きな箱の周りに集合した。
「開けられないか?」
ウベール冒険長が私に聞く。
「え、どうして私なんですか?」
「力じゃ無理だろう」
「土魔法ならもっと得意な人がいると思いますけど」
チャラ男を見るが全力で否定された。
「こんな大きいの無理!」
えーどうやって開けたらいいの?
「中の物が壊れても知りませんからね!」
大体私は開けたくないのだ。ミイラが入ってたらどうするんだ。上には無くてもこっちにはある可能性はある。
「蓋の構造がよく解らないので、一旦アイテムバッグに入れてサイズを確認します」
ユイよろしく!と頭の中で叫んだ。
そんな声は聞こえる筈も無いのだが、うちの相方は私の意図を承知してくれたようだ。
『オッケー』
耳元でユイの声がする。
箱をBOXに放り込んだ。
「うわー。あんなに大きい箱が入った! 凄いな!」
「故郷のアイテムバッグは容量が大きいんです。スキャンしてどの辺まで物が入っているか確認します」
「スキャンって何だ?」
「透視機能みたいな物ですね。何が入っているかまでは解りませんが、入っているか入ってないかは解ります」
「新しいアイテムバッグにもそんな機能付いてるの?」
「さあ? でも普通使う機能ですか? 私も初めて使いましたよ」
「使わないかもねー」
「新しいアイテムバッグって何だよ?」
ウベール冒険長がチャラ男に聞く。
「えー内緒。今カノンちゃんと開発中。いずれね」
「何かまた良からぬことしてるようだな」
何だ、良からぬことって。
『カノーン、準備できたよ。分解して蓋開けておいた』
『ミイラは?』
日本語で小声で聞く。
『いないよ』
ふー、本当だな?
「蓋開いてました。重くて持ち上がらなかっただけみたいです」
「じゃあどうやって開けるんだ?」
「はい、こうやって」
BOXから箱を出してさっきの位置に置く。そして蓋だけ収納し直した。
「ああ、そっか。お宝は?」
みんな箱の中を覗き込む。
ミイラや怖いものは入っていませんようにー。
そーっと見ると、目に入ったのは沢山の金と宝石だった。
「さっきのと同じ?」
「下の方に何が入っているか解らん。しかしとんでもない量だぞ」
確かに。でもやっぱり箱の割には半分位しか入っていない。この中に別の魔獣が入っていた気がする。
後で魔石が何だったのかユイを問い詰めないと。
「これもこのまま置いておく訳にいかないから、カノン君仕舞っておいてくれるか」
「え? 私ですか? 持ち逃げするかもしれませんよ」
「他にこの量が入るバッグ持ってる奴はいない。それに持ち逃げする気なら最初から報告してないだろう」
まあ、一応信頼を頂いたと云うことらしい。
「はい、収納」
「簡単に入れたな。何億あると思ってるんだ」
「まあ、さっきも一回入れましたし」
それに、日本円なら兆持ってるからね。商業ギルドからもビタミンCで億入って来るらしいし。
「じゃあ、今日はもうお開きですか?」
「何言うんだ、調査はこれからじゃないか」
「もう18時ですよ。私先に帰ってもいいですか?」
何で急にみんなエンジンかかってるんだ。
「いや、今日は野営ですよ。女子用テントもあるから大丈夫」
「不安なら僕のテントに来てもいいよ」
何言ってるんだ、この阿呆は。
「明日はどんなスケジュールなんですか?」
阿呆は無視して、両冒険者ギルド長に向き合う。
「明日も朝から洞窟調査だな。採寸したり地図を作ったり壁画や魔法陣の絵を写したりする」
「お役に立てそうなことが無いので帰っても宜しいでしょうか?」
「え、そんなことは無いでしょう。カノンさんじゃないと出来ないことが……」
「特にないですよね。魔獣の群れは討伐したので、護衛のハンターがいれば十分かと思います。私が出来ることなんて、魔獣討伐と大きなアイテムバッグだけですから。壁画や魔法陣取り外して全部運んで欲しいとか言われたらお手伝い出来ますが、取り外すのはお願いしますよ」
「うーん、そうか、今は特に無いのか……」
「そういうことなんで帰ります」
「ああっ!」
スタスタ歩いて行こうとしたら、引き留める声がしたので振り返る。
「どうしました?」
「昨日のパンはまだありますか?」
「ああ、はい」
「人数分購入させて頂けませんか。昨日の分も払い忘れてしまったので払います」
「是非よろしくお願いします」
ギルド長が揃って頭を下げられると仕方ない。私に出来ることはもう一つあったか。
「解りました。20人位いるんでしたっけ。一人パン2個で、色んな種類混ぜておきますか」
ハンバーガーがお気に召したらしい。
「沢山食べるのもいるので、一人3個で」
「はーい。ポテトとオニオン。ドリンクは、やかんに入れておきますね。20人分だとやかんが随分多くなるなぁ。やかんは今度返して貰えればいいです。あ、カップも必要ですね。このアイテムバッグに入れたのでギルド長に渡しておきます。アリッチェに戻ったら返してください」
「ああ、ありがとうございます。それじゃあ20人分と昨日の5人分で25人分かな」
「私の昨日の夕食も入ってませんか?」
「会議の食事だからいいんだよ。じゃあ私が出そう。お釣りは要らないよ」
ウベール冒険長に金貨1枚渡された。
「えー多いですよ。じゃあ頑張ってる皆さんに、その分美味しいワイン付けちゃいます。明日に触るので、飲み過ぎないでくださいね」
「ありがとう」
もう引き留められないうちに、遺跡部屋から隣の穴に移動してすぐ、「ウベール洞窟 帰還!」 帰還した。
「きゃー、びっくりしたー! おかえりなさーい、カノンさん」
突然目の前に現れたので、ジェマがびっくりしたようで、心臓を押さえている。事前にピンポンとか鳴るようにお願いしておこうかな。それはそれでびっくりするか。
「ただいまー」
「ご飯食べました?」
「まだこれからー。ジェマは?」
「まだこれからです」
かわええのぉ。おっさんたちに囲まれていたから、癒され加減半端ないわ。
エンジーナにジェマを送ったら、きっとジェマロスになっちゃうね。
「カノンさんカノンさん、ビッグニュースです」
部屋に引き上げると同時に、ユイが話し掛けてきた。
「何がビッグニュース?」
「その前にクイズです。地球で一番大きな動物は何?」
「えー、ホッキョクグマとか? いや、前に聞いたな。動物じゃなかったような。魚だっけ? あっ解った! クジラ!」
「クジラは魚じゃないけどね。大体正解でいいよ。正解はシロナガスクジラでした」
「あーそうだ。シロナガスクジラだった!」
「クジラでした」
「うん、解った」
「クジラでした」
「うん、解ったってば、何?」
「クジラの魔石が入ってました」
「……あの大きな箱に?」
「残念ながらシロナガスじゃなかったけどね。ザトウクジラの魔石」
「ザトウクジラも大きいの?」
「15mくらい」
「でかっ! あの中にザトウクジラが入っていたと。誰が入れた? どうやって入れた? 何のために入れた?」
「まるで謎だよねー。箱だけで重いのに、ザトウクジラを運ぶ手段なんて無いじゃん。自分から入ったとも思えないし、魔石以外の骨も無い」
「じゃあ魔石だけ入れたんだ。普通の宝箱かな。供物とか? 謎は深まるばかり」
「次回 すべての謎が明かされる!」
「多分無理だと思うよ」
「俺たちの冒険はこれからだ 完」
「打ち切りかい。謎はどうした? 伏線回収してから終わって」
「現実の謎は殆ど解明されないものだ。名探偵がいない限り謎は謎のままだ。おやすみー」
寝ようとしているユイを引き留める。
「ちょっと待ってよ。帰還ブレスレットとても重宝しているんだけど、手首に着けるとブラブラしちゃって、手を動かすとぶつかるのね。留まるようにならないかな」
「元々手首につける仕様じゃなかったしねー。大体カノンが帰還キーホルダーって呼んでたクセに、いつから勝手に帰還ブレスレットなんて名称変更してるわけ?」
「あ、本当だ。かたじけない。でも手元に無いと不安なんだよ。洞窟が崩落したとき、BOXから取り出す余裕なんて無いじゃん。でもずっと持ってると討伐中邪魔なんだよね」
「そして一度付けちゃうと、洞窟じゃなくても普通の町中でも手元から離したくなくなるでしょう?」
「さすがユイさん、よく解ってらっしゃる」
「職人チームに、使い勝手の良いデザイン依頼しておくわ」
「フォーマルでも使えそうなデザインを」
「いつフォーマル着る機会があるんだよ」
「無いけど、最近貴族と関わり出来ちゃったから、家に呼ばれたりすると困るじゃん」
「いよいよチャラ男に嫁ぐ気になった?」
「10億%あり得ないわ。あれ絶対来世虫だよね」
「ノーコメントでお願いします」
「あはは」
「そういえば小屋の内装の件、送ってあるから早く決めておくれ」
「インテリアコーディネートの件ね。明日暇になったからジェマと一緒に見るわ」
「あ、暇になったなら梶山船長が話があるらしいけど」
「いやあ、忙しいなぁ。おやすみー」
「おやすみー」
そうだ、ジェマも魔素に慣れたならそろそろ魔法訓練開始かな。




