第八十三話 道を守る者
東海道。
それは日本中の人と物が行き交う、大動脈だった。
しかし、その道を支えているのは街道だけではない。
宿場。
橋。
渡し場。
荷置き場。
そして、そこを守る人々。
弥助は朝早くから街道を歩いていた。
「若旦那。」
庄吉が息を切らしながら追いつく。
「また歩くんですか。」
「歩く。」
「昨日も歩きました。」
「だから今日も歩く。」
弥助は笑う。
「道を見るには。」
「道を歩くしかない。」
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一行は、とある宿場町へ到着した。
そこは東海道でも重要な中継地点だった。
しかし。
「妙ですね。」
庄吉が周囲を見る。
「人が少ないです。」
本来なら荷を運ぶ人足や商人で賑わっているはずだった。
だが、宿場はどこか静かだった。
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宿場の主人に話を聞く。
「最近、荷が減っているのですか?」
弥助が尋ねる。
主人は困った顔をした。
「はい。」
「以前は毎日、多くの商人が泊まっていました。」
「しかし最近は……。」
「別の道を使う者が増えています。」
「なぜです?」
主人は声を落とした。
「通行が危ないからです。」
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その夜。
弥助たちは詳しい話を聞いた。
最近、街道沿いで荷の遅延が増えている。
荷車の車輪が壊れる。
橋の修繕が遅れる。
人足が集まらない。
一見すると、ただの偶然。
しかし。
弥助は違和感を覚えていた。
「偶然にしては。」
「多すぎる。」
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翌日。
弥助は街道を確認する。
すると。
「……。」
道端に落ちていた木片を拾う。
庄吉が尋ねる。
「何ですか?」
「車輪の一部だ。」
「壊れた荷車の?」
弥助は首を振る。
「違う。」
「壊すために置かれたものだ。」
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松平忠吉が表情を変える。
「つまり。」
「誰かが意図的に?」
弥助は静かに頷いた。
「道を止めようとしている。」
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報告を受けた本多正信は、すぐに状況を理解した。
「なるほど。」
「荷札制度では防げない部分を狙ったか。」
弥助は地図を見る。
「情報を整えても。」
「道そのものが止まれば意味がない。」
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その夜。
徳川家の屋敷。
正信は家康へ報告する。
「何者かが東海道の流れを妨害しております。」
家康は静かに尋ねた。
「黒幕は?」
正信は一瞬黙る。
「まだ証拠はありません。」
「しかし。」
「山本屋の弥助を警戒する者がいるのは確かです。」
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一方。
街道沿いの古い蔵。
数人の男たちが集まっていた。
中央にいるのは、東海道問屋の一人。
「荷札制度は潰せなかった。」
「ならば次だ。」
「道が使えなくなれば。」
「商人たちは昔のやり方へ戻る。」
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そこへ、一人の老人が入ってくる。
「焦ってはいけませんな。」
全員が頭を下げる。
「源兵衛様。」
黒潮屋の源兵衛だった。
「弥助は。」
「力で押せば押すほど強くなる男です。」
「ならば。」
源兵衛は地図を広げる。
「戦う場所を変える。」
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翌日。
弥助は宿場の人々を集めた。
「お願いがあります。」
「何でしょうか。」
「道を守る仕組みを作りたい。」
人々は困惑する。
「我々にですか?」
「はい。」
「役人ではなく?」
「皆さんです。」
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弥助は説明する。
「道は。」
「徳川様だけのものではありません。」
「商人だけのものでもない。」
「この道を使う全ての人のものです。」
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まず始めたのは、
**街道見回り組**
だった。
宿場ごとに担当を決める。
道の異常。
橋の傷み。
怪しい動き。
すぐ報告できる仕組みを作る。
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最初は半信半疑だった人々。
しかし。
数日後。
荷車の破損が減った。
橋の修繕も早くなった。
「本当に。」
宿場主人が驚く。
「我々でも道を守れるのですね。」
弥助は頷いた。
「道を作るのは人です。」
「ならば。」
「守るのも人です。」
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その報告を聞いた源兵衛。
しばらく黙っていた。
「またか。」
玄蔵が尋ねる。
「何がです?」
源兵衛は苦笑する。
「弥助は。」
「問題を見ると。」
「必ず人を味方に変える。」
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しかし。
源兵衛の手元には、もう一枚の書状があった。
そこには、
東海道だけではなく。
さらに先――
江戸へ続く道の情報が書かれていた。
「道を守る者が増えたなら。」
「次は。」
「道を必要とする者を動かす。」
玄蔵が顔を上げる。
「次は何を?」
源兵衛は静かに答えた。
「商人の心を揺らす。」
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東海道の改革は、道具や制度だけでは終わらない。
人の流れ。
金の流れ。
そして、人の心。
弥助が挑む本当の戦いは、そこにあった。




