表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら戦国時代の米問屋だった ~武将でも剣豪でもない俺が、兵糧で天下統一を支えます~  作者: 水原伊織


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
60/102

第六十話 荷は夜明けを待たない

夜明け前。


港には、すでに何十人もの人足が集まっていた。


提灯の明かりだけが、静かな海を照らしている。


「若旦那。」


庄吉が眠そうな目をこする。


「まだ船も着いてませんよ。」


「ああ。」


俺は港を見つめたまま答えた。


「だから来た。」


---


しばらくすると、一人の老人が歩いてきた。


津田屋宗玄だった。


「ほう。」


「そなたも気付いたか。」


「ええ。」


俺は笑みを返す。


「勝負は船が着いてから始まるんじゃない。」


「着く前に始まっている。」


宗玄も満足そうに笑った。


---


やがて水平線の向こうに帆が見えた。


「南蛮船だ!」


港が一気に活気づく。


人足たちが駆け出し、荷車が並び始めた。


しかし。


そこで俺は荷車を動かさなかった。


「若旦那?」


庄吉が不思議そうに俺を見る。


「まだですか?」


「まだだ。」


---


船が岸壁へ着く。


縄が渡される。


荷揚げが始まる。


その瞬間、港は混乱に包まれた。


「こっちだ!」


「いや、先に反物だ!」


「酒樽を運べ!」


荷車同士が道を塞ぎ、人足たちが互いに怒鳴り合う。


積み荷が岸壁に山のように積み上がっていく。


庄吉は目を丸くした。


「すごい人です……。」


「だから動かない。」


俺は静かに言った。


---


「庄吉。」


「はい。」


「見てみろ。」


俺が指差したのは、港の出口だった。


荷車は皆、岸壁のすぐ横まで乗り入れている。


その結果。


帰る荷車。


入る荷車。


人足。


商人。


すべてが一か所へ集中していた。


「渋滞だ。」


思わず前世の言葉が漏れる。


「じゅう……?」


「道詰まりだ。」


「なるほど。」


---


「荷車を三十間後ろへ下げる。」


「え?」


「岸壁まで人足が運ぶ。」


「荷車は出口だけ担当する。」


庄吉は目を見開いた。


「そうか!」


「荷車を中へ入れなければ……。」


「道は空く。」


「その通り。」


---


山本屋の人足たちは、荷を肩へ担ぐ。


岸壁から荷車までは歩いて運ぶ。


荷車は積み終わると、すぐ市場へ向かう。


空になれば戻る。


岸壁へは入らない。


その繰り返しだった。


---


昼前。


混雑していた港に、少しずつ変化が現れる。


「あれ?」


「山本屋の荷車だけ止まらないぞ。」


「次がもう出た!」


「早い!」


堺の商人たちも驚き始める。


宗玄は腕を組み、静かに笑っていた。


「なるほど。」


「荷車を運ぶのではない。」


「流れを運んでいるのか。」


---


昼過ぎ。


勝負は決した。


山本屋の荷は、予定より一刻も早く市場へ届いた。


一方、多くの商人はまだ港で荷を積んでいる最中だった。


庄吉が興奮して駆け寄る。


「若旦那!」


「終わりました!」


「全部です!」


「ご苦労。」


俺は人足たちへ頭を下げた。


「皆のおかげだ。」


---


夕方。


宗玄たち会合衆が集まる。


「勝者。」


宗玄がゆっくり口を開く。


「山本屋。」


誰も異論を唱えなかった。


むしろ商人たちは笑っている。


「負けた。」


「だが勉強になった。」


「岸壁へ荷車を入れないとはな。」


俺は首を振る。


「皆さんの港だからこそ思いついたんです。」


「人が多いなら。」


「人を使う。」


「荷車が多いなら。」


「荷車を減らす。」


「場所に合わせる。」


それだけだった。


---


宗玄は静かに立ち上がった。


「約束通り。」


「今日はそなたから学ぼう。」


「代わりに。」


「明日は我らが教える番だ。」


俺は笑顔で頭を下げた。


「お願いします。」


商売に勝ち負けはある。


だが。


学ぶことに終わりはない。


---


その夜。


港を歩いていると、一人の南蛮人が近づいてきた。


見覚えのある顔だった。


「ディエゴ?」


以前、米を買い付けに来た南蛮商人だった。


「ヒサシブリ、ヤスケ。」


片言の日本語で笑う。


「オモシロイ、ハナシ。」


「聞きマシタ。」


「何ですか?」


ディエゴは懐から、一枚の羊皮紙を取り出した。


そこには、日本近海だけではない。


さらに西の海まで描かれた巨大な海図が広がっていた。


「モット、ヒロイ、セカイ。」


「ミテミマセンカ?」


弥助の物流は、ついに日本という枠を越え、海の向こうの世界へとつながろうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ