表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら戦国時代の米問屋だった ~武将でも剣豪でもない俺が、兵糧で天下統一を支えます~  作者: 水原伊織


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
58/102

第五十八話 近江屋の頼み

翌朝。


宿へ差し込む朝日で目を覚ますと、昨夜受け取った木札が枕元に置かれていた。


近江屋の屋号が刻まれた、小さな木札。


だが、その重みは金貨何百枚にも勝る。


「若旦那。」


庄吉が障子を開ける。


「近江屋から使いの方がお見えです。」


「もう来たのか。」


俺は身支度を整え、すぐ近江屋へ向かった。


---


店へ入ると、番頭頭の善吉が深々と頭を下げた。


「弥助殿。」


「朝早くから申し訳ありません。」


「何かあったんですか。」


善吉は周囲を見回し、小さな声で言った。


「実は……近江屋が困っております。」


「近江屋が?」


京一の豪商ともいわれる店が困るなど、想像もつかなかった。


---


応接間へ通される。


善吉は帳面を広げた。


「こちらをご覧ください。」


そこには、各地の支店から届いた報告が並んでいた。


近江。


美濃。


伊勢。


尾張。


堺。


それぞれに荷の到着日が書かれている。


俺はすぐ違和感に気付いた。


「到着日がばらばらですね。」


「はい。」


「荷は届く。」


「ですが、予定通り届きません。」


善吉は深いため息をついた。


「商売が大きくなりすぎたのです。」


---


俺は帳面を見続ける。


原因はすぐに分かった。


「荷が集まってから出している。」


「その通りです。」


「だから遅れる。」


例えば美濃から荷が二日遅れる。


すると伊勢の荷も待つ。


尾張の荷も待つ。


結果、全部遅れる。


現代なら誰でも知っている。


ボトルネックだ。


---


「善吉さん。」


「はい。」


「全部まとめるのをやめましょう。」


「え?」


「荷は揃うのを待たない。」


「準備できた分から出す。」


善吉は目を丸くする。


「しかし。」


「荷車が無駄になりませんか?」


「なります。」


俺は素直に答えた。


「ですが。」


「荷が止まる方が、もっと損です。」


---


善吉は腕を組んで考え込む。


「なるほど……。」


「一台で百運ぶより。」


「五十を二回運ぶ。」


「その方が全体は早く回る。」


俺は頷いた。


「物流は速さだけじゃありません。」


「流れを止めないことです。」


---


その日の午後。


近江屋の番頭たちが集められた。


俺は地面に簡単な図を書きながら説明する。


「荷を待たない。」


「積めるだけ積む。」


「戻ってまた積む。」


最初は半信半疑だった番頭たちも、話を聞くうちに表情が変わっていく。


「確かに。」


「待っている時間が長すぎた。」


「だから蔵がいっぱいになっていたのか。」


善吉が深く頭を下げた。


「勉強になります。」


「いえ。」


俺は首を振った。


「前世……。」


危うく口を滑らせそうになり、咳払いをする。


「……以前、似たような失敗を見たことがあるだけです。」


庄吉は苦笑していた。


また変な言葉が出そうになったことに気付いたのだろう。


---


夕方。


試しに一つの支店で新しい方法を始めることになった。


結果は、その日のうちに現れた。


「善吉様!」


若い番頭が飛び込んでくる。


「尾張行きの荷が半日早く出ました!」


「伊勢便も蔵が空き始めています!」


善吉は驚いたように俺を見る。


「半日……。」


「たった半日。」


俺は笑った。


「物流では、その半日が大きいんです。」


---


その夜。


近江屋の離れで、小さな宴が開かれた。


藤兵衛はまだ床についていたため姿は見せなかったが、善吉が盃を掲げる。


「弥助殿。」


「近江屋を代表して礼を申し上げます。」


「いえ。」


「私は少し考え方を話しただけです。」


善吉は首を横に振る。


「違います。」


「我らは商売のやり方を変えました。」


「その価値は計り知れません。」


---


宴も終わり、宿へ戻ろうとした時だった。


伊三郎が血相を変えて駆け込んできた。


「弥助様!」


「どうした?」


「近江屋ではありません!」


「え?」


「堺です!」


息を切らしながら伊三郎は叫んだ。


「堺の商人たちが、山本屋との取引を望んでおります!」


俺は思わず立ち止まった。


堺。


日本最大の商業都市。


ついに山本屋の名は、戦国随一の商人たちが集う町にまで届いたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ