嘘が誠に
唐津穂村は平成初期から廃村化していた。表向きには山の麓にある市に移住した、となっているが。
彼らはどこにもいない。まるで最初からいなかったように。
おだいじんこ、と持て囃された大地主の星雲寺家も分家を残して絶えていた。分家も本家筋がどうなったかも知らないほど疎遠になっていた。
ならば、彼らは亡霊だったのだろうか?
分からない。もう確認する術もなく、村は荒れ果て自然に還る。
緑さんは手を合わせ、静かに神秘性を秘めた女性へ追悼をする。
機織り女は古来から神聖視されていた。神話にも機織り女が登場する。もしかしたら実際は牛女、などではなくて、ただの神事にかかわる役割を担っていた女性だったのかもしれぬ。
外界から来た外法陰陽師からしたら、彼女は邪魔でしかない。因縁をつけて排除したかったに違いない。
土蜘蛛や人ならざる者として見なされた敗者たちがいる。
どちらが真実か、どちらが偽りか。
嘘が誠になってしまえばもはや分かるまい。
緑さんと吊田崎 草目は山にポツンと経つ鳥居を前に礼をして、車に乗る。
「ノベオリ、アンタは行かなくていいわけ?」
「あんなん、山の前に鳥居建てただけだろー」
「山自体が御神体の地域なんです」
畑のあぜ道を参道にして、質素な鳥居は山を讃える。
「……。もう遅い」
少女の身体に宿った人ならざる者は小さく呟いた。ノベオリの事件により支部や全国共通魔術師連合は慌ただしいらしい。
一体、あれらは誰だったのか。自分たちは誰と話していたのか。
(そんなものだ。実際、人なんてそんなもの)
緑さんは全国共通魔術師連合が嫌いだったが、彼らのよそよそしくそれでいてムラ社会の悪い所だけを残した組織の限界を見た。
「アー、牧歌的でイイですね! 牛が歩いていたらバッチシですヨ」
(んな訳あるか)
案内人が隣でニヤニヤと外を眺めている。牧歌的、確かにそう言えるか。
(嘘が誠になる前に、コイツとおさらばしたいな)
「嘘が誠に? なら、誠を嘘にスるのがワタシの役割!! おさらばできるとイイデスネ〜〜~っ」
ため息を噛み殺していると、運転手の三ノ宮が発車すると伝えてくる。
これからどうなるのか──分からない。また摩訶不思議な出来事に巻き込まれるのか?
「さようなら」
山伏式神が言う。意外だな、と見ていると彼女はムッとする。「何よ。私なりのルールなの!」




