第9話「俺たちはライブをやる! 探せ高村!!」
「さすがに、それは無理な提案ではないか?」
昼休みに再び集まった後、小野寺にそう言われてしまう。
「僕もそう思うよ、まだ演奏だって自信ないもん」
シゲまでも小野寺と同じで、消極的な言葉を口にする。
「ライブだぞ? せっかく出れるかもしれないチャンスを、今掴まないでどうする!」
「けど、かなでちゃんたちが出るイベントでしょう? しかももう出演バンドは決まってるんだよね?」
「まっ……まあそうだけど、俺にいい考えがある」
正直、後からイベントに参加できたバンドなんか見たことがない。
今さらイベントに出させてくれというのは難しい話だ。
「いいじゃないか、やろうぜ……ライブ」
そう話したのは、後から来た成瀬だった。遅れてきた成瀬に、話の内容を伝えるとイベントに出ることには賛成なようだった。
「俺のベースを聴きたい可愛い女がたくさんいるからな、披露するのにもってこいな場所だ。それに……」
「それに、なんだよ?」
俺がそう尋ねると、成瀬はかなでからもらった紙に目をやる。
「園芸部バンド以外に出るバンドも、名前からしてガールズバンドだろ? なら、お近づきになりたいなってな」
「成瀬君……動機が不純すぎるよ」
シゲが言うのはもっともだが、イベントに参加するのに賛成な奴がいるのは大きい。
「大丈夫だよ有本、俺のベースに任せておけ。完璧なライブにしてやるさ」
「だが、やるにしてもどうやって参加するのだ? すでにイベントは決まっているのだろう?」
「それが問題だな! おい仙道、なにか策はあるのか?」
「ああ、実はだな……」
先ほど考えていた、いいアイディアをみんなに話す。
「ははは! おめえ、それはやばいだろう」
成瀬は話を聞いた後、大笑いする。シゲたちも、不安がる顔をしていた。
「とにかくやるしかねえ、さっそく行動するぜ!」
こうして、俺たちのライブ出演をかけた動きが始まる。
「……ということで、私を尋ねてきたんですか? 仙道さん」
「はい! 先生なら、卒業生のことはわかりますよね?」
まず訪れたのは、学校の職員室。そこにいた担任であるシスターこと、鈴谷先生に俺は説明する。
「バンド……ライブ、あなたは毎日そんなことを授業も聞かずに話していましたね」
まず先生が口にしたのは、嫌味ったらしい説教だ。ぐちぐちと、俺の学校での生活態度を話す。
「ただでさえ、あなたたちは問題児だというのに……ぐちぐち」
「そんなことはどうでもいいんですよ! それで、 高村って人がどこに住む生徒だったかを教えてください」
ーーイベントの審査員である、高村という人物。
この学校の卒業生だったくらいしか情報はなく、会うためにはさらなる情報が必要だ。長いこと教師をやっている鈴谷なら知っていると思ったが、はたしてどうだろうか。
「たしかに、高村君は我が校の生徒でした。あなたほどではないですが、彼もまた問題児で」
「いや先生……そいつの過去話ではなく、 今の住んでいるところを教えてくださいよ」
「それはできません! 個人の情報を教えるなど、神への冒涜です」
ーーいや、 神様は関係なくね?
と思ったものの、やはり住所などは教えてくれるはずはない。
せめて今なにをしているかがわかれば、探すヒントにもなるだろう。
「なら卒業した後の進路とかわかります? 大学に行ったか、就職したかとか」
「高村なら、実家の八百屋を継いだって聞いたぞ? バンドやりながらな」
俺と鈴谷先生が話す横を通った、別の先生が俺に話す。
「八百屋か……となると、商店街とか探せば見つかるな」
意外な形で情報を得た俺は、立ち上がる。
「仙道さん、高村君にそこまで会う理由はなんですか?」
鈴谷先生はそう尋ねると、俺は即答する。
「イベントに出るため……そして、俺たちが最高最強のバンドになるためですよ!」
俺の熱い言葉を聞いた先生は、ため息をついてうなだれる。
「はあ、どうしてバンドをやる人たちは皆同じようなことを言うのでしょうか……あなたや高村君も」
「そりゃあ、ロックだからですよ!」
「頭が痛くなってきました……もう、お行きなさい」
そう言われた俺は、そのまま職員室を去る。
とりあえず高村の情報を手に入れ、廊下に出るとシゲがこちらに駆け寄ってきた。
「先生からなにか教えてもらえた? いきなり、職員室に行くんだもん」
「ああ! 高村ってやつは、どうやら八百屋で働いているらしい」
「……どこの町の?」
「それはわからねえ、だが高村八百屋で調べればすぐに出てくるだろう」
今の時代、スマホがあればどんな店も検索できる。俺はスマホを取り出して、さっそく調べてみることにした。
「その高村さんを調べて、晴君はなにをするつもりなの?」
「決まってんだろ? 直接交渉だよ、ライブに出させてもらうために」
スマホで検索しながらシゲに話すと、さっそく検索結果が表示される。
「おっ、学校の近くじゃないか! これなら歩いていけるな」
「え……今から行くの?」
「学校が終わってからだよ! 小野寺たちにも声をかけて、みんなで行くぞ」
シゲは微妙な顔をするが、ここまで来たら俺は止まることはない。ライブに出させてもらうために、ありとあらゆる手段を取る。
そして放課後になり、俺たちは高村に会うために歩き出した。
すべては俺たちの初ライブのために。