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第10話「いざ、八百屋へ!俺たちはバンドマンだ!」

「ズンチャカ! ジャンジャンー、ズンチャカ」


 学校を出た俺は耳にイヤホンをしながら、音楽を聴いている。ロックな音楽が流れては、つい口ずさんでしまうもの。


「ものすごい……音量だな、耳が壊れないものなのか?」


「晴君は普段からあんな感じだよ? さすがに爆音はちょっとね……ははは」


「ああ? なにか言ったか?」


 俺が気分良く聴いていると、シゲたちはこちらを見ながら口を動かしていた。


 イヤホンを片耳だけ外して、そう尋ねる。


「おまえの聴いてる曲が耳障りだってよ、 少しは周りを考えらんねーのか?」


「んだとう成瀬! ロックな音楽を聴くのも、バンドマンのやることだろうが!」


 ちんたら歩きながら皮肉る成瀬に、俺は怒号を飛ばす。


「というか……成瀬君も一緒に来てくれるんだね」


「俺のクールなベースサウンドを奏でるイベントだからな、当たり前よ」


「仙道、その高村というOBがいる八百屋とはまだなのか?」


 しばらく歩いて街のほうへ向かう途中、小野寺がそう尋ねる。


 すでに学校からだいぶ離れてきたが、それらしい店には着いていない。


「もう少しだよ、このあたりなはず」


 スマホのナビを頼りに、目的地である八百屋を目指している。


「でも晴君、本当に大丈夫なの? いきなり押しかけてきちゃって、それに……」


 そう言いかけて、シゲは背負っているギターケースを持ち直している。


 小野寺以外は全員、ソフトケースを手に持っている。もちろん、中には楽器が入っている。


 周りから見たらまさしくバンドマン。


 俺たちが、音楽をやっていると思われているのは間違いない。


「意味はあるのか? 出演交渉に行くのに、楽器など持って行って」


「そりゃあ小野寺、俺たちがバンドマンだってことを知らせるためよ」


 バンドをやっているやつなら、多少は説得しやすいんじゃないかと俺は答える。


 俺の熱いロック魂を知れば、高村もそれに応えてくれるはずだ。


「ようは熱意よ熱意! やる気と根性を見せりゃあいいんだ」


「あ、ああ……そうだな」


「そう簡単に上手くいくのか、僕は不安になってきたよ」


 ーーったく、こいつらときたら。


 あれこれ喋っている間に、目的地である八百屋に着く。


 でかでかと八百屋高村と書かれている看板を前に、俺たちは立ち止まった。


「しかし、こんなところで働いているやつが本当に有名なバンドのメンバーか?」


 昔ながらの店構えをしているだけに、想像が出来ずにいた。


「どっ、どうするの晴君? 中に入る?」


「当たり前だろシゲ! 中に入って聞かねーと来た意味がねえだろ」


 とは言え、いざ目の前にすると緊張してくる。


「誰が最初に声をかけるのだ?」


「俺はパス、こういうのガラじゃねえから」


 成瀬はそう話すと、スマホをいじり始める。小野寺やシゲも、その場に立ち止まったままだ。


「ええい……俺が行くぜ! おまえらはそこで待ってろ」


 これじゃあなんのために全員で押しかけたかわからない。


 俺は一呼吸して、店へと向かう。


 ーーくそ、なんて話す? ライブに出させてくれと言うのか? いきなり。


 初めはどう言おうか考えていると、タイミング良く店員が現れた。


「いらっしゃい! ん? 学生さんが店に来るのは珍しいなあ」


 中年の男が現れ、俺を見ながらそう話す。


「あ……すみません、ここって高村さんのお店ですか?」


「んん? ああ、そうだよ。俺がここの店主だが?」


 まさかの有名なバンドマンが、こんな中年のオヤジだったのかと驚く。


 俺たちの学校のOBとはいえ、ここまで年齢が離れていたのは予想外だった。


「じっ……実はですね、今度やるイベントにでして」


 ーーどわぁぁぁ! 俺らしからぬ言い方をしてしまった。 ガツンとお願いするんじゃなかったのか。


 ライブに出るためならば強気でいくと言っていたのに、まるで逆。小さな声でどこか弱々しい感じな喋り方をしてしまう始末だ。


「イベント……?」


 そう聞き返した後、俺が背負うギターケースを見つけるとなにかに気がついたらようだ。


「ああ、ちょっと待ってな……おおい! 玄次郎(げんじろう)、こっちに来なー!」


 店主の男はでかい声で店の奥に向かって、誰かを呼ぶ。


「なんだよ親父、店の配達ならまだだろうが」


「おめえに用があって来たんじゃねえか? ギターを背負ってきてるお客と言えばよー」


 そう話す姿を見ている俺の前に、体格のいい男が現れた。


「……なんだ? おまえたちは」


 俺に気がつくと、機嫌が悪そうに尋ねてきた。


「あんたがグライドサマーってバンドの高村か? 来月やる、ライブイベントの審査員で……」


「ああ? そうだ、俺がバンドをやっているってよくわかったな」


 てっきり先ほどの店主がそうだと思っていたが、とんだ恥をかくところだった。


「俺たちはあんたが通っていた学校の生徒で、バンドを組んでいる」


「へえ、ということは軽音楽部か?」


「いや! 俺たちは部活でではなく、ガチなロックバンドを目指してやってんだ!」


 自己紹介など、今はしている場合じゃない。


 俺はここに来た目的を、声を大にして言う。


「来月にライブハウスでイベントをやるんだろう? それに、俺たちのバンドも出させてくれ!」


 まだバンドを組んで日が浅い。しかし最強最高のロックバンドになるためには、ライブをやっていかなければならない。


 なにより、かなでたちの園芸部バンドなんかには負けたくないという思いもあった。


 俺は深々と頭を下げて、高村にそうお願いをする。


 一瞬、なにを言われたのかわからない高村。そして、わずか数秒で答える。


「え……それは、さすがに無理」


 それを聞いた俺は、頭をゆっくり上げた。


 ーーもう、こいつを殴るしか方法はない。


 どんな手段でも、俺たちはライブに出る。たとえ、それが暴力でも。


 そう思った俺は右の拳を握りしめ、やつの顔面に向かって突き出した。

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