第44話「他力本願!作り直すぜギターフレーズ!」
貸しスタジオで、シゲがオリジナルソングを見直すと話してから数日が過ぎた。
ギターパートを弾く俺とシゲは、この日も放課後で話し合っている。
「んで、シゲ……なにかフレーズはひらめいたか?」
「うーん」
白紙の楽譜を見つめながら、俺はシゲに尋ねる。まだなにも浮かばないような様子で、言葉を挟む。
机に座りギターを持つ俺は、無意識に軽く音を鳴らした。
「やっぱり、最初に作ったフレーズだとダメなのか?」
「うん、あれだと成瀬君たちが練り直したものと合わなくなっちゃうし」
「……けどよー」
ギターパートを一から作り直すと言うけど、それがどれだけ難しいか俺にはわかる。
正直に言うと、どうしても他の曲に似たギターになるのは仕方がないこと。まったく新しい音を作るのは至難の業だ。
「ギターのコード進行はそのままで、だけど真新しいリフが必要なんだよ」
シゲはそう口にして、楽譜にコードを書いていく。
俺はそのギターコードを見て、鳴らしてみることにした。
「まあ、たしかに簡単なジャンジャカだとパッとしないなあ」
「晴君は歌いながらだからね、難しいパターンはなるべく避けたいよ。それより……」
問題は自分が弾くギターをどんな形にすればよいか。シゲはそう考えているようだった。
「あれ? あんたたち、まだいたの?」
教室に入ってきた上原は、俺たちに気がつくと声をかけてきた。
「あ、上原さん。どうしたの? 忘れもの?」
「ちっ! うるさいやつが現れやがったな」
俺がそう嫌味を言ってる中、上原は机にある楽譜を見つける。
「それ、新しい曲のやつ? なんか、白紙だけど」
「うん、実はギターのパートを作り直していたんだ」
「へえ、ちょっと楽譜を読ませて」
シゲは楽譜を手渡す。上原は受け取り、それを読み始めた。
「上原さんもギターを担当してたよね? 見た感じ、どうかな?」
「おいおい、シゲ……よりによって、こいつに見せるなんて」
同じくバンドを組んでいる上原は、言わばライバルバンドの一組だ。
そんなやつに、まだ未完成のオリジナルを見せるのは、どうかと俺は思った。
「うーん、悪くはないけど。ギターがちょっと単調ね」
「やっぱり……ベースやドラムには合わないフレーズだよね」
シゲが初めに作ったギターのフレーズを見た上原は、すぐにそれが単調だと気づいて話す。
成瀬が指摘していたことを、楽譜を見ただけで言い当ててしまう。
「テンポ的に速い感じでしょう? なら、ここはこんなリプにするといいんじゃない?」
そう言うと、上原はペンでタブ譜を書き始める。スラスラと書いて、あっという間にサビのところまで作ってしまった。
「すごい……僕が考えたものより、いいフレーズになった」
上原が書いたのを見たシゲは、驚いた顔をしている。同じく楽譜を見ていた俺も、思わずうなずいてしまう。
「ああ、これなら成瀬が弾いていたベースラインに絡ませても違和感がなくなるかも……」
シゲが最初に作ったギターのフレーズとは違い、より疾走感があってテクニカルなフレーズ。それを、上原は意図も容易く書いていた。
「曲のイメージは譜面を見ればわかるし、このパターンがいいと思ったわ」
「すごいよ上原さん! ねえ、晴君。このフレーズを採用してもいいかな?」
「まあ、待てシゲ。ギターの音色を聴かないと、本当に良いものかわからねーだろう」
シゲはそう目を輝かせながら、俺に尋ねてくる。たしかに、タブ譜を見た感じは曲のイメージとして完璧だ。
だが、実際に弾いたギターの音を聴かないとなんとも言えない。
そう話すと、上原は俺のギターを奪って椅子に座る。
ギターのペグを回してチューニングを手際よくした後、弦を押さえ始めた。
「そう言うなら、弾いてみせたげるわ。よく聴いてなさいよ」
「おっ、おい! なに勝手に俺のギターを……」
俺がそう言おうとした時、上原はギターを弾き始める。
俺のギターはそこまで値段が高いモデルでない。高級なギターに比べれば、音の良さは悪いほうだ。
にもかかわらず、上原が引くと生音なのにいい音に聴こえてしまう。
ギターを弾く人が違うだけで、ここまでギターが変わるのは驚きだ。
それよりも、弾いているフレーズが俺に衝撃を与える。
コード進行のパターン。弾く右手の小刻みな動き。それらから生み出される音が、俺を高揚させる。
「まあ、だいたいこんな音ね」
弾き終わった上原がギターを止め、そう俺たちに向かって話す。
「すごいすごい! 実際に音を聴いたけど、イメージにぴったりだよ。ねえ、晴君」
「うっ……ああ、そうだな。ぐぬぬ……」
なぜか嬉しそうにしているシゲは、俺に尋ねてくる。
俺は悔しい気持ちになりならがらも、そう答えるしかできなかった。
「まあ、このフレーズはあくまで例えだから。そのまま使うものよし、さらにアレンジしてもいいかも」
「これをさらにアレンジ……かあ」
シゲは上原が書いたタブ譜を見ながら、小さく口にする。
「結局は、あんたたちがそれをどう表現するかってことね。さて、あたしはそろそろ行くわ」
そう言うと、上原は席を立って教室を出ようとしていた。
「ありがとう、上原さん。僕、頑張ってみる」
「ちっ、さっさといきやがれ!」
「晴君……せっかく上原さんがフレーズを考えてくれたのに、お礼を言わなきゃだよ」
手を振りながら、上原を追いやる俺にシゲは呆れながら話す。上原が去った後、改めてあいつが書いたタブ譜を見つめた。
以前に歌の歌詞を考えていた時は、かなでにアドバイスをもらっていた。
今回はまさかの上原に、アドバイスをもらってしまったのは、どうにも悔しい。
「それで晴君、僕はこのまま上原さんが作ってくれたのを使いたいんだけど」
そう思いふけっている俺に、シゲはあいつが作ったフレーズを使いたいと言いやがる。
「まあ、俺たちがぐだぐだと話し合っても決まらないからなあ」
「じゃあ、ギターパートはこのフレーズで決まりだね!」
たしかにこのタブ譜通りに練習すれば、成瀬たちも納得するだろう。
だが、上原が作ったのをそのまま使うのは俺のプライドが許さない。
「いーや! シゲ、これをさらにアレンジし直す! もっとすげえ弾き方があるはずだ」
そう、これは俺たちが作り上げる第二のオリジナル曲。俺たちが練り直さなければ、意味はないけれど。
「ええ……じゃあ、また一から作るの?」
「いや、これはこれで……利用価値はある! こいつを基準に考えよう」
俺は悔しい声を滲ませながら、シゲにそう答えた。
ーー認めたくないが、上原のセンスには敵わない。
そう俺は思ってしまった。




