#11 神々のうた
ふと気がつけば、圭はカスミちゃんに見つめられていた。
「だいじょうぶですか?」
「えっ!? ケ、ケイ、どうしたの!?」
「ごめん、ごめん。我ながら体力の無さに驚くよね、ちょっと疲れちゃったみたい……」
「僕が乱暴に走ってきたからだよ……。ちょっと歩くね、それでもルクより早く帰れるから」
「無理しないでくださいね」
「きゅっきゅっきゅぅ……」
「ありがと……」
ちょうど小高い丘を越えるところで、森の中を抜ける道に明かりはなく、月のない深夜に真っ暗だった。
「顔色がよくなりましたね」マリモちゃんは少し微笑む。
「きゅっきゅっきゅっ!」
「ありがと、カスミちゃん、マリモちゃん、もちろんリバも」
マリモちゃんは踊るようにくるくる回る。
「二人はいつも月読宮二十三夜尊にいるの?」
「いえ、わたしはあの場所で祀られているわけではありませんから。人と触れ合うときだけ、そっと人のかたちになって、人と出会うために現れるのです。なぜならわたしたちは人の想いを受けて姿を得た存在ですから。でも神さまは確かにそこにいますよ、たとえば香取さまであれば香取の神宮に、鹿島さまであれば鹿島の神宮に。香取さまと鹿島さまは古来より強い絆で結ばれてきました。その香取さまが鹿島さまを抑え留めているのです。筑波さまと牛島の助けを得られれば、間もなく完全に抑え込めるでしょう」
「あとは僕たち次第……」
「圭さん、それは違いますよ。わたしたちも、ただあるがままに行く末を見守るわけではありません。ここは人々にとってそうであるように、わたしたちにとっても大切な場所なのですから。わたしたちの存在そのものが〝境〟なる歪んだ存在を否定します。とはいえ精霊がささやかな存在であることは事実。その意味では圭さんたち次第というのは正しいのかもしれませんね」
「ううん、ごめん、カスミちゃんやほかの精霊たちを忘れるところだった。そしてありがと」
「ふふ、圭さんは頑張り屋さんですね。でももっとまわりを頼っていいと思いますよ。なにしろ頼ってほしいと思っている人がすぐそばにいますから」
「そう、そのとおり! カスミちゃん、いいコトいう〜♪」
「ごめん、リバ。出発前にカルナさんにも同じことをいわれたよ……」
「まったくもう、ケイは!」
「ふふ」
わざと不貞腐れたような表情をするリバを見て、カスミちゃんはまた笑みをこぼした。
「わたしたちもいざとなったら戦いますよ」
「きゅっきゅっきゅっ!」
「マリモちゃんの得意技は、すばり『臭い息』です!」
(モルボル……!?)
マリモちゃんの円らな瞳と視線が合う……。
「マ、マリモちゃんはやっぱりアオコの精霊なんだ……ね。阿寒湖から遊びにきて仲良くなったとか想像してたけど……」
「またまた〜、霞ケ浦といえば、でしょう?」
(肯定しづらいです……。あと精霊が人の想いを受けて姿を得た存在なのだとすれば、マリモちゃんはいったい誰の想いを映しているんだろう……?)
圭は思い悩んで、しかし急に表情を引き締めた。
ゴーグルの中に断片的な情報がもたつきながら表示される。それは、計測不能な数の侵入者に取り囲まれていることを告げていた。




