#12 王の娘
カルナは光の壁を遠望してコヨを振り返った。
「なるほど、こういうことだったか。防衛局と〈宇宙の扉〉を完全に囲みましたよと。さて、あなたと珠兎の関係はもう無くなったはずだから、今度はこちらに協力してもらうよ」
「侮蔑の言葉がまずあるかと思いましたが」
「時間がもったいないからね。それに何度もメッセージを送ってくれていたでしょ?」
「リバさんの嗅覚を奪いましたよ」
「それくらいはしないと珠兎に疑念を抱かれると考えたからでしょ?」
「……わかりました」コヨは静かに頷いた。
「カルナさん、状況は理解しましたが、これが意味するのは……?」
「いま〈宇宙の扉〉は珠兎の支配下にある。制御権はまだ総督府にあるけどあたしたちは直接アクセスできない。珠兎は支配の実効性を理由にシモウサの領有を主張する……というより、もう始めているはず。各国がそれを認めれば、シモウサは珠兎のものとなって返らない」
「そんなことが……。でもそれは簡単に認められるものなんですか?」
「テロそのものだからね、どんなにセーグフレードをよく思わない国でも認めない。認めた瞬間、次に同じことが自分たちに降りかかったときに否定する根拠を失ってしまう。秩序なんてあったもんじゃないよね。ただセーグフレード内で政治的な影響力を持っていて、それなりの正当性を持っていたらどうか?」
「珠兎とはいったい……」
「……」
カルナは答えない。口を開いたのはルクフェネだった。
「わたしから説明する。こんなことになってしまって、内緒にしておくわけにもいかないから」
「……」
「圭、珠兎がわたしの身内、叔父上だということは、カルナとわたしが話したときに聞いていたよね?」
「うん……」
ルクフェネは制服の裾を折って裏地を見せた。意匠として使われているのは王家の紋章だ。
「蒼穹軍では伝統的に王族以外が王家の紋章を使うことはないの。わたしのフルネームはルクフェネ・ティッセ・ペセトエイセ、母上はデンテナ・ティッセ・ペセトエイセ、セーグフレードを統べる王。つまりわたしは王の娘なの」
ルクフェネの声はさばさばしている。ただそれは吹っ切れたというわけではなく、ただの諦めだった。
(圭の顔は……見れないかな。どんな表情をしてるんだろ……? 驚いてるのかな……? でもやっぱり見れないかな……)
「サルヴォ・ティッセ・ペセトエイセは母上の兄君で、わたしにとっては叔父にあたる人。母上が王位を継承したのはわたしが生まれる前のことだから、もうずいぶん前のことになるけれど、叔父はいまだにそれが不満なの。王が絶対的な権力をもっていて、かならず長子が王位を継承していた時代を懐かしむような人だから、それが王に選ばれなかったいちばんの理由なのに。いまの叔父には何の権限もないし、王位継承権もとっくに否定されている。でもきっと叔父はあることないこと吹聴して回って、根回しを進めていると思う。誰にどういうことを吹き込めばなびくか、そういうことだけはよく知っている人だから」
「ひとつ聞いていい? ルクフェネは次の王になるの?」
「わからない、兄と妹がいて、選ぶのはわたしじゃないから。選ばれれば王になると思う、それがわたしの責任だから。選ばれなければ、それが兄であっても妹であっても、全力で支える」
「わかった」
うつむいた視線の先にあるのは水辺にたゆたう星明かりだけだ。気配から圭がいなくなったことはわかったけれど、ルクフェネが動けたのはカルナの声を聞いてからだった。




