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シモウサへようこそ!  作者: 一ノ宮ガユウ
6. 異変
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#8 精霊

挿絵(By みてみん)


 ルクフェネはゆっくりと境内へ降りてくる。圭は両腕で受け止めて、そのまま抱きかかえるように身を低くした。


(静かに……。この空間全体がいまおかしいんだ……)


(……!? 抱き締められてる!!)


 息遣いまでわかる距離だ。ルクフェネは顔を真っ赤にして我慢した。


「さざめきが引いたみたいだよ」


「うん……。(もう少しあのままでいたかったのに……)」


 境内の杜を静かに夜風が渡る。さやさやと葉が揺れる。


「いったい……。あっ! ルクフェネ!」


「うん!」


 欅の根元に小さな女の子が倒れていた。ルクフェネは素早く指先で紋様を描く。


「安らぎと温もりで《シェルネカ・ウユキウルカエ》優しく癒そう《・クーリレ・ムーローリア》」


 柔らかな温もりが女の子を包み込む。女の子は苦痛に呻いて、それからゆっくりと目を見開いた。


 深い森から見上げた木洩れ日の空を思わせる瞳だ。切りそろえられた髪は翡(ひ)翠(すい)と同じ色をしている。


 起き上がってきょろきょろと周囲を見回す。その表情は思っていたより幼い。


「だいじょうぶ?」


「は、はい……」


 少女の体はどこかふわふわしている。半透明で向こうがうっすらと見えていることと、蛍のように仄かな光をまとっているからかもしれなかった。


「僕は圭で、この人はルクフェネだよ。敵ではないよ……っていいたいんだけど、ごめん、いまのところよくわからない」


「圭……ルクフェネ……」


 こころに刻みつけるように女の子は繰り返す。そして小さく頭を下げた。


「だいじょうぶ、お二人の温もりを感じます。助けてくれてありがとう」


「きみはこの欅の精霊……なの?」


「あなたがたの言葉でいえば、おそらくそのような存在なのでしょう。この欅、いつのころからか〝地蔵ケヤキ〟と呼ばれるようになった欅がわたしです」


「名前は……?」


「どうぞお好きなようにお呼びください」


「それなら、ケヤキちゃんでいい?」


「ジゾウでもいいですよ」


「ケヤキちゃんで……」


 ルクフェネの手を借りてケヤキちゃんは立ち上がった。名前を得たからだろうか、その姿はずっとはっきりして、向こうが透けて見えることはもうない。


「——ケイ!? 聞こえる!?」


「リバだ、聞こえるよ!」


「ボクのいるトコわかるよね!? すぐに来て!! あの人の様子がおかしいんだ!!」


 自動的に変形したゴーグルが圭の両目を覆う。画面の中の輝点はリバの現在位置を教えていた。


「機能がだいぶ回復してる……」


「ほんとだ……でもまだ時間が掛かるはずなんだけど」


「たぶん珠兎(トゥロネ)のヤツをやっつけたからだよ!!」


「すごい!! さすがリバだ!!」


「依り代だから、またどうせ出てくるんだろうけどね! でもそんなに早くは復活しないよね、ルク!」


「うん、大手柄! 怪我とかしてない?」


「してるけど、平気!」


「すぐ行く! ルクフェネ、急ごう!」


(オーデ、草原の空を(フールアロ・ペア)ともに渡ろう(ッタ・コラ・オーエフ))


 ルクフェネは指先でユクルユフェーアを紡ぐ。仄かな光をまとうイヌワシの幻影がふわりと降り立った。ケヤキちゃんはそのくちばしに優しく触れる。オーデは瞳を細めて応える。


「圭、先に行ってるよ!」


「追いかける! 東へ一キロ、小貝川に堰があるところだからすぐにわかるよ! 急いで!」


 ルクフェネはケヤキちゃんを抱きかかえてオーデの背に乗った。オーデはふわりと浮かび上がれば、すぐに風を掴んで飛んでいく。


挿絵(By みてみん)


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