#5 躍るサンバ隊
「今日はほんとにありがと。そろそろ防衛局に戻るね」
「いつでもおいで。香取さまにご挨拶は?」
「いけない、まだだった! 若葉さんにもお礼いいたい。どこにいるか教えてくれる?」
「もちろん。せっかくだからいろいろ見ていきなよ。帰りも電車に乗ってのんびり帰るとかさ」
「うん、そうする!」
社務所を出ると、若葉さんは弥生さんと竹箒で境内を掃除していた。気がついて手を振ってくれる。ルクフェネは元気に駆けていった。
そんなルクフェネの後ろ姿がカルナはいとおしい。
(遠い遠い星、遥かな〈宇宙の扉〉の向こう。よかったじゃん、素敵な恋の相手を見つけられて)
ここ数年のルクフェネは、見ているだけでカルナは辛かった。
(特別扱いなんてされたくない、ほかのどんなことでもなくて、ただ自分が自分であることで認められたい——これがルクフェネの行動原理のすべてだった。ひたむきに努力に努力を重ねて全力で突っ走って、思うようにいかなくて、打ちひしがれるときもあって傷ついて、それでも走ることをやめなくて。ここに来たのも逃げただけ、なんていって、あたしがいくら否定しても聞かなくて。逃げた結果だっていいじゃん、大切な何かを見つけられたのなら)
そんなカルナの双眸は優しい。遠い日を見るようで、いまのルクフェネの姿が眩し過ぎるようで。
しかし。
(チャッラーン!!)
カルナの脳内では数百発のクラッカーがいっせいに弾けた。
色とりどりキラキラの紙吹雪が舞い上がって、くす玉が割れて、風船が飛んで、鳩が放たれ、スモークに包まれた幻想的な世界にシャボン玉が浮かんで、それから銀テープをまき散らすキャノン砲がドーン。
そしてファンファーレとともにラテンのリズムがはじまったかと思えば、ド派手なサンバ隊が踊り出した。
(ルクフェネ、おめでとー!!)
パフォーマンスを終えたサンバ隊は盛り上がる会場に大満足。高揚した表情のままに抱き合ってお互いのパフォーマンスを讚える。夜空には次々と大輪の花火。
(あとは圭クン!! よくよく考えれば『可憐で素敵だ』なんてさらりといえちゃうあたり、女の子に対する感覚麻痺も悪くはないんじゃない!? ルクフェネをよく思ってくれてるみたいだし、ある意味、わかりやすいし!! あとは超真面目過ぎるところと自信過少(?)を何とかせねば! 下手したらとんでもなく高い目標を設定して、それを乗り越えられたら告白します、なんていいかねないし……あり得る!! なんかいま、ものすごくしっくりきた、カチッてはまった!!)
慌てふためくサンバ隊、ぬうっと下から出てくる何か。
(落ち着きなさい、カルナとやら)
(ハッ! あ、あなたは牛久大仏!)
(高さ120メートルもあるのに周囲に高い建物がないから、いまいち高さが実感できないでお馴染の牛久阿弥陀大仏ぞよ。街中にある高さ100メートルの仙台大観音のほうが違和感・異様さ大で映え映えというのも残念なことよのう)
(そ、そうですね、大仏さまにそんなお悩みがあったとは……)
(ときに相馬圭とやらは、あの娘が王族であるのは知っておるのかな?)
(まだ知らないかと。開かれた王室ではありますが、未成年の王族については情報発信を控えるというのが基本スタンスでございまして。でも圭クンは知ることになっても、変わらずルクフェネに接してくれるものかと……)
(たわけが!!)
(ヒィ!!)
(より相応しい存在になるのだと、おまえが想定したよりも遥かに高〜い目標を設定してしまうぞ!!)
(ハッ!! 確かに……!! それはとってもマズイデス!! 是非なにかお知恵を……)
(健闘を祈るぞい……)
ハスの花びらが舞い散って浄土の世界がさらさら〜と消えていく……。
「マズイ、マズイ、マズイ、ズイマー!!」




