#14 かくかくしかじか
香取神宮。
「そ、そう……? あれれ、すごく嫌な予感がしてきたんだけど、もしかして圭クンまだ何も行動に移していないとか……?」
「行動……? すいません、何のことでしょう?」
「いやいやいや、いいの、こっちの話だから! じゃ、ま、またね〜」
カルナは頭を抱えて天井を仰いだ。
(何も起こってなかった!! しまった〜、圭クン超真面目だった〜! どうしよ〜、作戦を練らないと! とりあえずいったん落ち着かねば!!)
社務所を出て境内で深呼吸。杜を渡る清々しい大気はいつでもカルナを落ち着かせてくれる——のだがそうでない日もある。
(弱ったな〜もう……)
「あら、カルナさん。お疲れさまです」
「若葉さん、お疲れさまです。ご休憩ですか?」
「はい、これから重た〜い御祈祷のご予約が入ってるんです。かなり気合いが必要なので全力でリフレッシュしようかと!」
「それはたいへんですね、陰ながら応援しております……!」
「ありがとうございます。カルナさんはどうされたんですか、何かお悩みのようですけど?」
「実はかくかくしかじかでありまして……」
「まあ! それはたいへんですね! わかりましたっ、わたしにお任せください! ご予約の御祈祷が終わり次第、不肖若葉、ルクフェネさんと圭さんのために全力で御祈祷させていただきますっ!」
「わあ、ありがとうございます! でも、ご無理のない範囲でお願いしますね……」
「いえ、一意専心で臨みます!! では!!」
「ああ……なんかたいへんなことに……」
「——あの、あの、あの……、そ、総督さんでいらっしゃいますか……? すすす、すいません、な、何の許可も取らずに勝手に話しかけてしまって……」
「あ、はいはい、そうですよ〜♪ 許可なんていりませんよ〜♪ 棒持ってます? 自撮り棒」
かくかくしかじか、って令和の世でも通じるの? それはともかくカルナは参拝客(観光客)のリクエストに応じる。パワースポット巡りのOL二人組だ。
「カルナさん、お手伝いしますよ!」
「弥生さん、すいません……」
若葉さんがいないので四苦八苦していると、授与所から巫女の弥生さんで出てきてくれた。
「これくらいお安い御用ですよ! カルナさんのお陰でお店も軌道に乗って、パティシエールもようやく熟睡できるようになりましたので」
「いえいえ、そもそも絶品ですから、ただそれを皆さんにお勧めしただけですよ。ちなみにこれは内密のひそひそ話ですが、また潜入調査をした暁には極秘情報の横流しを是非に……」
「もちろんでございますよ、ほほほ」
弥生さんは三人の怪獣(お子さんともいう)を抱えるお母さんだ。巫女といえば若いきゃぴきゃぴ(死語)の少女か、あるいは本人がもう何かしらの化身なのでは、と疑われるクラスの老婆である、との世の風潮に抗って、三十代後半になろうと関係なく巫女を続けている(『アラフォー』という言葉は存在そのものを認めない)。ちなみにクレ・ドゥ・ヴートのパティシエールは妹である。
恋愛成就と縁結びに御利益のある御守りをしっかり紹介してOL二人組を見送ると、今度は拝殿のほうから制服姿の女の子がやってきた。中学生だろうか。
「あら、きちんと神さまに御挨拶してからなんて感心だわ。みんなカルナさん見つけると何も目に入らなくなっちゃうのよ」
「はい、兄から失礼のないようにと教えられました」
「しっかりとしたお兄さま。今日は学校はお休みだったの?」
「授業はないです。スポーツと文化の日というのがありまして、わたしはこの近くへ部活の遠征に来ました。カルナさんにはその兄がいつもお世話になっているので、ご挨拶させていただこうとお邪魔しました」
(!? 兄がお世話になっている……!?)
「まあ、これまた感心。部活は体育系? スポーツの御守りもあるから、よかったら授与所にも寄ってくださいね」
「もちろんぜひ!」
「ではカルナさん、また〜」
「え、あ、またよろしくお願いします〜。……。あの……『兄がお世話になっている』って聞こえたんだけど……」
「あ、御挨拶に伺ったのにそれが遅れてしまいました。あらためまして、相馬花といいます。兄の圭ちゃんがいつもお世話になっています」
「これはご丁寧に……シモウサ総督のカルナ・ウィーディルビルグです……。ちょっとびっくりしちゃった。いわれて見れば目許がそっくり」
「ありがとうございます、とても嬉しいです。姉も同じ感じです」
「えっ、お姉さまもいらっしゃる……?」
「はい」花はスマホの画面に三人並んだ写真を表示して見せた。「姉の凛ちゃんです。あ、これは酔っぱらって帰ってきた凛ちゃんが圭ちゃんに抱きついて眠るの図です」
「ずいぶん仲がよろしいようで……」
「そうなんです! 凛ちゃんも圭ちゃんも優しくて、花も……あ、また花っていっちゃった、わたしも凛ちゃんと圭ちゃんが大好きです♥ 凛ちゃんはお作法について細かいのがほんのちょっと困りますけど」
「そ、そうなの? 花さんのことを考えてくれてのことでは……?」
「でも、自分はお風呂のあとパンツいっちょーでウロウロしてるのに、変だと思いませんか!?」
「り……理不尽かもね……。い……いつも?」
「いつもです! ちょっとぷんぷん案件なんです!」
「そ、そだねー」
花を見送ってからカルナは大いに悩んだ。
(なんかいろいろわかってきた気がする……。圭クン、女の子に対する感覚が完全に麻痺してるんじゃ……。ああ! お互いに絶対好きどうしなのに片方はそもそも鈍感、片方は感覚麻痺! 若葉さ〜ん、やっぱり全力祈祷でお願いします!!)




