#10 ロスト
「まずった!! ……。……あれ? もしかしていま『違う』っていわなかった!? ああっ、そうか『角度を変えて受け流す』って……!! ご、ごめん!!」
「気にしないで、しっかり説明しなかった僕が悪いんだよ!」
圭は答えてゴーグルの中に投影される情報に全神経を集中させる。
(でもちょっとまずいことになった……。逃げられてはいないし、周囲にいることは確かだ。でも位置情報を完全にロストした……。リバにかなわないことはさっきの一撃でわかったはずだ。とすれば、次の標的は……)
圭は四方を探る。
「どの方向から来る……?」
その上空、ルクフェネはいつの間にかオーデに見つめられていることに気がついた。
「……? 物思いに沈んでた……。え……どこ……?」
慌てて周囲を見渡せば、ルクフェネはすでに目標地点上空にいた。
(どこに降りたらいいのかわからないから、オーデは旋回していた……? いつから、どのくらいの間!? あ……圭の様子がおかしい……。一度に四方向に障壁を築いてる……、緊急事態だ……)
セグレンデの二つ耳を通して圭の焦りが伝わってくる。ルクフェネは慌ててゴーグルのモードを切り替えた。
(……いた、圭は無事だ。あっ、でもシルペーレの紋様が消えてしまっている……。あれがないとジェレンの動きは追い切れない!)
地上では、圭は全神経を研ぎ澄まして周囲の動きに警戒していた。リバも耳に意識を集中させる。
(どっちだ……?)
(ロボット相手じゃ、ボクの鼻は役に立たない! でもどこからだって来い! 聞こえた瞬間にケイとの間に割り込んでやる! ボクはどうなったってかまわない! 絶対にケイは守り切る! どこだ、どこからだ……!)
(いたっ!!)ふたたび捕捉された情報がゴーグルに表示される。(えっ……上!?)
圭は振り仰ぐ。ジェレンと視線が交錯する。両翼の刃が鋭く光る。相手の目に映った自分の姿が急激に大きくなる。
「ケイッ!!」
ジェレンは地面に激突する。粉砕されたコンクリートが弾け飛ぶ。粉塵が舞い上がる。そこへ、ルクフェネは降り立った。
ルクフェネはゴーグルを着けたまま周囲を見回す。その眼前のジェレンはまるで無傷で、ルクフェネを小馬鹿にするようにふわふわと浮かぶ。何者かの声が重なった。
「遅かったな、砕け散ったようだ。これで二つ耳とやらももはや意味を成さないというわけだ。
そこにはただコンクリートの瓦礫が散乱するだけ。ルクフェネは指先で紋様を描いた。古代の大剣が実体化して左手に治まる。
「圭がいない……」
「ほほう! 怒りのままに我を斬るか!?」
声はほくそ笑んだ。
(こやつ、日ごろ感情をあらわにしないだけに、頭に血が昇りやすい。安直に挑発に乗るとは、まったくもって芸が無い。返り討ちにしてくれよう)
ジェレンはいつの間にか有利な間合いに入っていた。
「圭がいない。でもリバもいない。ここにはね……」
ルクフェネは口許で笑った。次の瞬間、急速に接近した何かがジェレンを吹っ飛ばした。
「ただいまっ! ルク! もちろん圭も無事だよ!」
「ルクフェネ!」
「うん」
建物の外壁に激突したジェレンは、しかしまだ無傷で、四方に広がる亀裂のその中心にできた穴から強引に体を引き剥がした。
「何が起こったのか分からぬが、主導権はまだ我が手中に有るのだ!」
「おしゃべりはもう少し余裕があるときにしたほうがいいと思う」
ルクフェネはすでに上空高く跳躍していた。フォンティニーレを振り降ろす。一刀両断、ジェレンは真っ二つに割れた。
「かくなれば、こやつらもろとも自爆を……なっ!?」
「だからいったでしょ、おしゃべりはやめなって」
「……!?」
ルクフェネに思い切り蹴り上げられ、左半分が見ているのか右半分が見ているのか、もうわからなくなった視界はどちらにせよ空だった。
ジェレンは上空で大爆発した。
(我が足下に屈せよ——ヨディーレの……)
指先でユクルユフェーアを紡ごうとしてルクフェネはやめた。四散したジェレンの残片がパラパラと降ってくる。




