#8 仲間
「着地した! 西北西へ5.5キロの地点!」
圭に動揺はない。それさえ推定の範囲内なのだ。冷静に分析を続ける。
ルクフェネはシルペーレを大気に戻して空いた指先で紋様を描いた。
「オーデ、草原の空をともに渡ろう」
仄かな光をまとうイヌワシの幻影がふわりと降り立つ。半透明の向こうにはそのままの空と街並みが見える。
(頼んだよ、オーデ)
ルクフェネが背に乗って首筋を優しく撫でれば、オーデは目を細めた。圭はリバの背に飛び乗った。
「じゃ、作戦のとおりにね!」
「うん!」
「リバ、よろしく!」
「任せてよ!」
リバは翼を広げてふわりと浮かび上がった。そしてほんの軽く羽ばたけば、一気にトップスピードまで加速した。
風を感じながら、圭はゴーグルのなかに投影される情報を確かめる。
ジェレンは鳥の姿を模したロボットだ。胴体は丸く、翼は扇のように幾何学的な形をしているからブリキのおもちゃのようだ。しかしその見た目に反して俊敏で高速移動を得意とする。体高はおよそ1.5メートル。
「ケイ! 間にあいそう!?」
「だいじょうぶ! 想定どおりに機能停止したから! 地面にぶつかる寸前に急減速して方向転換したんだ、そのまま衝突して大破したように装って! でもそれってジェレンがいちばん得意じゃない行動!」
「まっすぐ一直線ってときはすごく速いんだよね!」
「かなりのエネルギーを浪費させたはずだし、いま自己修復中でさらに消耗すると思うよ! でも僕たちの役目はルクフェネが到着するまでの足止めだよ、欲張っちゃだめ!」
「りょーかい!」
リバは素直に頷く。
(きのうケイは『防衛局の仲間だよ』ってボクをグミに紹介してくれた。すごく嬉しかった。ロボット一体なら、ほんとはボクとケイでやっつけられそうだけど、でもケイのいうとおりにしよう。仲間だもん)
風が切り裂いて飛んでいく。
(圭は先の先のそのまた先の、たくさんのことを考えた上で判断してる。ケイはいつでも正しいから信じよう。珠兎は「従え」ってボクにいった。従うことと信じることの違いをボクは説明できない。どちらも考えないでそれを相手に任せてしまうだけだし。でもきっと違う、うまくいえないけど。ケイを信じてるボクはとても嬉しい。いまはこれで十分)
リバはさらに強く羽ばたいて目標地点へ急ぐ。
オーデはリバからかなり離されていた。その背の上で、ルクフェネは圭から送られてくる情報をゴーグルの中で確認していた。
ふと、オーデは振り返って黄金色のくりくりした瞳をルクフェネへ向けた。
「気にすることないよ」優しく首筋を撫でてあげる。「オーデとは草原の空をいっしょに渡りたいの。競走したいわけじゃない。だから引き離されても平気、ね?」
オーデはようやく納得して向き直る。
ルクフェネはシルペーレの矢を命中させたことを思い返して笑みを零した。
(圭が肩にそっと手を添えて支えてくれたようだった。不思議に失敗する気がしなかった。胸がとても温かい。何でだろう……?)
上空の風に踊る髪が鼻をくすぐる。
(おととい防衛局に来た圭の幼馴染の人、名前は確か木葉つぐみ。よくわからないことばかりだったけど、もうちょっときちんと対応すればよかったかな……。……。あれ何だろ、今度は胸がチクチクする……)




