#9 存在
圭はプランシェ(ケリンチョ・モード)に乗って狭い県道の路肩を進んでいく。車やバイクはもちろん自転車にも追い抜かれる。
(どうして僕にはできないことばかりなんだろ……?)
答えなどあるはずないのにいつも頭に過るのはこの自問自答だ。
勉強だけは得意なほうだと思っていたから高校は進学校を選んだ。だけどうまくはいかなかった。中学のころは学年トップクラスの成績だったのに高校ではまったく通用しなかった。つまりお山の大将だったわけで、しかも周りにはどんどん追い抜かれていく。
そんななかセーグフレード領シモウサが成立、新しく引かれた国境線、外との往来はできなくなって都内の大学へ進むことも不可能に。なけなしのモチベーションさえ失ってしまった。
それなら新しく開かれた道を進むのはどうだろうか?
見つけたのはセーグフレード領シモウサ防衛局の補佐を募集する案内。決めるのは早かった。退学届けを提出した日の午後にはもう防衛局を訪れていた。
でも思い切りがいいとか潔いとか、そんなカッコいいものじゃない。不退転の決意なんてはじめから持ち合わせていない。単なる思考停止であって全速力で逃げているだけだ。
振り返らないのはただ単に振り返るのが怖いから。
小さいころからずっとそうだ。思ったようにうまくできない。そしていまも足手まといになっている。
圭は上空遥か先を行くルクフェネを見つめた。
(僕はルクフェネに必要とされる存在になれるのかな……)
誰かを羨ましいと思ったことはない。誰かを妬ましいと思ったこともない。
いつでも感じるのは劣等感ばかりだ。そんなときには胸が苦しくなって何も見えなくなって、ただただ動けなくなってしまう。目の前にあるのは闇ばかりで前にも後ろにも進めやしない。
不思議なのは、あんなにも優れたルクフェネを見てもネガティブな気持ちにはならないことだ。きっとあまりにも差が大き過ぎて劣等感を感じることさえできないのだ。
どちらにせよ足掻くしかない。持って生まれなかったのなら頑張りつづけるしかない。取り柄はそれくらいしかないのだから。
圭は思いを払い除けるように首を振って、それからゴーグルの中の画面を確かめた。画面に表示された情報は、あとから得られた数値を加えて精度が上がっている。
侵入者の足跡は途絶えたままだ。けれどもそれは、どこかに潜伏して息をひそめているということを意味する。動けば察知できるわけだから。
最新の推定では、98パーセントの確率で取手駅から東へ3.7キロの地点を中心とした半径50メートルの円内、場所は小文間地区だ。
小文間地区は市の南東にあって、南を利根川、東を小貝川に接するところだ。集落のある南側がこんもりとした高台、残りは広大な田園地帯の一画を構成する。
ルクフェネの眼下には、田植えを終えて間もない水田が緑にきらめいている。右耳の通信機に圭の声が届く。
「いたよ!」
「!」
ほぼ同時にゴーグルを通した視界の中に光点が出現した。水田と高台の際、斜面に茂る木々の陰だ。




