#3 白兎伝説
「圭クンのほうから質問は? もうだいたいのことはわかってるみたいだけど♥」
「あ、それなら一つだけ……」
「!」カルナは鼻息荒く身を乗り出した。「ふんふんっ!! なになになに!?」
「セーグフレードのみなさんがここに拘った理由はなんでしょうか? つまり現在セーグフレード領シモウサになっている地域に。セーグフレード側から指定があったと聞いています」
「よくぞ聞いてくれました〜♫」
わーいわーい、拍手喝采パチパチパチって感じで。
「まずね、まずね、セヴァが雪兎を神聖な存在として大切にしていることは、知ってるよね〜?」
圭は頷いて、デスクの上に置かれたルクフェネの帽子を手に取った。深い夜の色の帽子には、大きな雪色の羽飾りが両側に付いている。
「この羽飾りも由来は雪兎の両耳なんですよね?」
「そうそう♪ だから新しい交易地を開くときは、選択肢があるのならなるべく兎に縁のある場所を選ぶってわけ。日本には秋の夜長に月のうさぎを愛でる習慣とか、白兎が凶暴な鮫を手玉に取って活躍する伝説とか、賢い兎が極悪狸を炎の魔法で成敗する御伽話とか、あったりするでしょ?」
「そうとも……いえますか……ね?」
(十五夜のお月見と白兎神話と、あと『かちかち山』のことかな……?)
旧暦の八月十五日の夜、団子や季節の野菜を供え、芒を飾ってお月さまを観賞するのが十五夜のお月見だ。ただその対象は月であって兎ではない。確かに月の模様を餅を搗く兎に見立ててきたけれども。
そして白兎神話(因幡の白兎)では、兎は鮫を手玉に取って海を渡ったものの、それを活躍というのはどうか。あと最終的にはしっぺ返しを受けているし。
「かちかち山」に関してはだいたい正しい気がするけれども「炎の魔法」というのは確か無かった気はする。
「なんだかいろいろ誤解がある気がするんですけど……」
「いいじゃん、いいじゃん♪ 兎にも角にもまずは日本のどこかってことで!! イェーイ♬」
ハイテンション。
「でねでね! それなら日本のどこがいいかなって考えてたら、しもうさ!! ビビビッて感じ!?」
「なるほど……?」
思いかけて圭は脳内で否定した。
下総は甲斐とか土佐とか、駿河とか出雲とかと同じように昔の地名だ。甲斐が山梨県、土佐が高知県で、駿河は静岡県のだいたい真ん中、出雲は島根県の東のほうだ。因幡も鳥取県の東半分だったはず。
どういうわけか下総は千葉県と茨城県にまたがっていて、特に茨城県内では茨城=常陸と思われているからまったく馴染がない。当の元・県民であるところの圭でさえ、地域学習の授業で聞いたことがあったかとどうかというくらいで、まるでピンと来ない。
あと圧倒的に誰も知らないし読めない。たぶん美作とタメを張るくらいだろう(美作ってどこでしたっけ?)。
(読めない……。ん?)
そこまで思い起こして圭は複雑な表情を浮かべた。
(下総はもともと下総のはず、確か)
しもうさ、ではなく「しもふさ」である、本来は。「思ふ」が「思う」であるように現在は「しもうさ」と読むだけ。兎とは関係がない。
「しもうさ♥ 『霜兎 霞たなびく 月を愛で やがて華めく 春を思ふ』って感じ!? 風流だね〜♨」
(気に入ってもらえたのなら、それでいいのかな……)
「ま、そういうわけだから♪ 今後ともよろしくね〜♥」
「こちらこそ……」
通信を終えてから圭は「あ」と声を漏らした。
(伝えるの忘れたけど……、まさか知っているよね……)
実は、セーグフレード領シモウサと下総国の範囲は一致しない。北へ半分ずれているのだ。日本政府もどこからどこまでかよくわからなかったらしく、あと成田とか浦安とか取られると困るし、ちょっと茨城県のほうへずれるけど水戸は残るからいいんじゃね? 的な。




