#2 努力することくらいしか
「ところで『ティッセ司令』ってゆうのは、ルクフェネがそう呼ぶようにいったのん?」
「いえ、ティッセ司令は『ルクフェネ』でいいと」
「ならそれでいいんじゃな〜い? それより圭クンには抵抗はないのん?」
「むしろティッセ司令……ルクフェネの役に立てるかどうかのほうが不安で。わからないわけではないですよ、ウィーディルビルグ総督がおっしゃることも」
カルナは人さし指を振って、ちっちっちっ。仕方がないので圭はいい直す。
「カルナさんがいうことも。でも素人の僕から見てもルクフェネはすごいです。きっとずっと努力に努力を重ねてきたんだと思うんです」
「……」
カルナは不意に表情をキリリとさせた。すぐにもとに戻ってしまったけれども。
圭は首を傾げるが、カルナはこれに関しては触れる気がないようで話を変える。
「それでね〜、ひとつ聞きたいことがあるんだけどいいかな〜?」
「は、はい、もちろん」
「採用試験の結果はこっちにも来てるから確認させてもらったんだけど、どうしてこんなに早くセーグフレード語というか原セヴァ語をマスターできたの?」
「落ちこぼれなりの工夫なんです」
「?」
「勉強だけは得意なほうだと思っていたんです。でもそんなものはただの思い上がるというか、自惚れに過ぎなかったようで、中学校に上がったら英語の授業についていけなくなりました。英語というのは外国語の一つです。それまで勉強の仕方なんてまるで考えたこともなかったからとても焦りました。それでも結局のところ、僕にできるのはがむしゃらに地道に努力することくらいしかなくて、それでなんとか乗りきったというわけです。工夫も何もなくお恥ずかしい限りです。そのときの経験からセーグフレード語は理解できていますが、まだ読み書きだけで聞き取りはやっと。話すのなんてまだまだ無理です」
「はあ……」
圭の答えに、カルナは気の抜けた返事をした。
カルナとしては、原セヴァ語を理解している時点でセーグフレード語を話せるかどうかは、もはやどちらでもよいことだった。そもそも圭は会話をしながら休まず文字を打ちつづけている——ブラインドタッチで。
(努力することくらいしかねえ。なんか誰かも同じこといってたかな……。あー、これってあれだ……)
カルナは得心したような困惑したような、それが入り交じったような表情を一度に浮かべて何かをいおうとしたものの、口には出さずに飲み込んだ。
「? あ、でもルクフェネやカルナさんこそ、簡単に日本語を話しているように聞こえますけど?」
「圭クンがセーグフレード語を理解できるのとはぜんぜん違うよ、これは交易の民セヴァのDNAだもん♨」
「DNA……ですか?」
「ようするにもともと言語能力が発達してるの。発達させてきたっていったほうが正確かな? 異文化交流で相手の言葉を話せるのは強力な武器なんだよね、気持ちの伝わり方が天と地ほどに違うっていうか。で、交易ってなると相互不信=取引の破談だから、なおさらだよね」
「なるほど」
「合成した本人の声で機械翻訳の結果を同時再生する、っていうのもできるんだけど、まあ不気味の谷に落ちまくりだよね。谷を越えても胡散臭い詐欺師にしか見えないって感じ」
かくて長い時間を掛けて言語能力を発達させてきたセヴァは多言語を操ることができる、ということらしい。
「セヴァであれば誰でもできることだから、圭クンがセーグフレード語を理解できるのとはぜんぜん違うってわけ♨」
「そうですか……」
(さてはあまり納得はしていないな)
カルナは思う——顔には出さないけれども。




