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幻想夢現遊戯  作者: らんたお
第一章
14/141

13

 今後についてちゃんと考えようと思ったわけだが、その後も懲りずにダンスに誘ってくるアルテミス先輩のせいでどうでもよくなった。

 いい加減にそれは諦めてくれ! 絶対に踊りませんからと何度言ったか知れないが、やっとパーティーが終了する。これでやっと解放されたんだなぁと安堵の気持ちが押し寄せてきたのだが。何かが変だった…


「これは一体何ですか?」

「キャンプファイヤーだよ」


 おかしい…確か去年は、普通のキャンプファイヤーだったはずだ。それなのに、今目の前で起きていることは…


「ドラゴンが、中央で火を噴いてるんですが…」

「あぁ、大介は幻想界版のキャンプファイヤーを知らないんだったね」


 なんだそれは。地方によって異なる風習のような違いかなと理解したのだが、どうやら違うらしい。


「数年前にね。夢現界のキャンプファイヤーを夢現界育ちの子から聞いた校長が、幻想界らしいキャンプファイヤーも作ろうかってことで考案したんだそうだよ?」

「数年前? ということは、それ以前はどうだったんですか?」

「それ以前は、古式ゆかしき精霊祭りだったんだ」

「…そっちの方がよかったのでは?」


 明らかにその精霊祭りの方が歴史が古く、多分重要な儀式であったのだろう。それなのに、その精霊祭りを差し置いてあろうことか普通の学校の林間学校でやられるような安易な夜間行事にしちゃうだなんて…

 幻想界育ちも楽しめるようにと、夢現界版のキャンプファイヤーと1年交代なのだという実にどうでもいいことも教えてもらったわけだが。校長先生は一体何を考えているんだ?

 とっても楽しそうに火を噴くドラゴンの姿を前に、楽しそうで何よりですねと思ってしまう。遠い目でそれらを眺めていた時、お前のテンションはいつ低くなるんだと聞きたくなるようなハイテンションさで皇凛が突撃してき…たが、翻した。

 いつもいつも、そう易々と俺にタックル出来るとは思うなよ。俺だって学習するんだからな。

 何よりもこの顔、明らかに何か下らないことをお願いする時のそれじゃないか。


「大介! お願いがあるんだけ」

「断る」

「むぅ~! 聞いてもないのに断らなくたっていいじゃん!」

「聞くまでもないから」

「大介のケチ!」


 ケチで大いに結構。皇凛の我が儘に付き合わされて、後悔させられるくらいならいくらでも言われてやろうではないか。毅然と皇凛のお願いに耳を貸さないでいると、皇凛は不満を漏らしながらも隣にいたアルテミス先輩にも駄目元でお願いしていた。


「じゃあ、アルテミス先輩! お願いします!」

「何をかな?」

「実はですね。昨日、大介が森の奥の湖畔で正体不明の魔物に会ったんですよ!」


 興奮しながらそう暴露した皇凛に内心慌てた。というのも、確かに年齢不詳の正体不明な人には会ったが、それが魔物かどうかは分からないのだ。このような話をやたらと人に話すような奴ではないはずだが、一体何を考えての暴露なんだか。

 そもそも、話す相手が悪すぎる。李先輩やサンダース先輩辺りだったらまだしも、この人だぞこの人。今だって、話を聞いた瞬間アルテミス先輩の視線が俺を捉えたわけだが…何を考えての視線だったのか分からないが怖い。

 一瞬向いたその視線が再び皇凛に戻ってくれたのは大変喜ばしいが、緊張感は相変わらず。


「それでですね。俺達、今からその湖畔に行こうかと思うんですが…」


 ん? 何だって!? アルテミス先輩の存在を一切無視し、皇凛に詰め寄る。


「皇凛! 何考えてるんだ! 魔物が増える夜中に、生徒だけで単独行動は駄目だって規則で決まっているのを知ってるだろ!」

「もぉ~急に大声出さないでよ。ビックリするじゃん…」


 いや、俺を怒らせるお前が悪い。いい加減、問題行動ばかりするのを止めてくれないか?

 幻想界は夢現界ほど安全ではない。俺達みたいな未熟な魔法使いが夜遅くに外を出歩けるほど平和でもないのだ。大人ですら、夜は2人一組となって行動するのが普通なのだから。

 全く何を考えているんだかと、頭の痛い気持ちで諌めていたら、アルテミス先輩も同意してくれた。


「皇凛、僕も大介と同意見だよ。昼間ならいざ知らず、夜は駄目だ。諦めなさい」

「でも…」

「例え李先輩が承諾してても、行っちゃ駄目だからな」


 間髪入れずそう言うと、何で分かったんだと言わんばかりの驚いた表情で見つめられた。そんなこと、俺達って言ってる時点で李先輩を含んでいることなんてお見通しだ。あの人が、皇凛のお願いを無下に出来るわけもないし。

 まぁ、李先輩だって最初は駄目だといって宥めていたはずだろうが、結局は皇凛に言い包められてしまったのだろう。本当に情けない人だなぁ…いい人ではあるんだけど。

 俺達に逃げ道を塞がれた皇凛は、困ったように後ろを振り返った。そこには遠くの方から皇凛を見つめる李先輩がいて、目が合うとこちらに近付いてくる。

 皇凛の縋るような視線から、駄目だったんだなと困ったように皇凛を見下ろした。


「だから言っただろう? 皇凛」

「でもさぁ…」

「大体、行ったところであの人がまだ居るとも限らないだろ? 昨日はお昼だったんだし、夜も居るとは限らない。何より、昨日は居たからって今日も居るかどうかは」

「そのことなんだけど」


 畳み掛けるように言い聞かせていると、それをアルテミス先輩に遮られる。なんだろうとアルテミス先輩を見た瞬間、皮膚の上にちくりちくりと見えない何かに刺されている様な感覚に身震いした。

 一瞬にして這い上がる、嫌な予感。怖い…怖いんですけど!

 纏うオーラが黒く見える。いや、俺は占い師じゃないからオーラとか見えないけど、なんとなく、そう表現したくなるような何かがアルテミス先輩の背後から立ち上っているのだ。

 にっこりと、いつもの笑顔を見せる先輩。でもその雰囲気からは、不機嫌さが見て取れる。


「昨日、放課後に会ったのに、そんな話聞かなかったなぁ」

「いや、別に言うほどのものでもな」

「そういえば、昨日は君の口から聞けると思ってた二時限目の出来事も、聞かされてないなぁ」


 俺の抵抗を捩じ伏せ、嫌味を口にするアルテミス先輩。その怒りは理不尽そのものなのだが、本人を前にして言えない雰囲気である。大体、なんで一日の出来事を一々アルテミス先輩に話さねばならないのか。


「取り立てて、言わなければならないという義務もなかったような気がするのですが?」

「つれないなぁ。僕と大介の仲でしょう?」

「俺と先輩の間には、普通の先輩後輩の繋がりしかありませんが」


 なんかこの会話、前にもどこかで言ったような気がする。そう、確かに仲がどうとか似たようなことを言っていたのだ。宮田先輩も…

 段々と、俺を見るアルテミス先輩の笑顔が深くなる。どうして!?

 視線が怖い…なんて思っていると、それ以上追及されることなく先輩は話を戻してくれた。


「まぁいい。ところで、お昼に会ったとかいうその人はどういう人なんだい?」

「さぁ? ただ、もうここには来ちゃいけないとか言った後、後ろを振り返ったらもう居ませんでした」

「後、なんかその人に不穏なものを感じたんでしょ?」


 身を乗り出すようにしてキラキラな瞳で聞いてくる皇凛に、これ以上状況をややこしくしないでくれと思うが無理そうだ。生来の探究心が爆発している気がする。ホント迷惑な…

 不審だったとは言っても、警告をしてくれたのだから悪い人ではない気がするんだよな。それを魔物だなどと言い切っちゃうのはいかがなものか。憶測で決めつけてはいけないだろう。


 同意を求める皇凛の視線に、確かに不思議な感じの人でしたよと申告して置く。魔物という意見にはどうにも賛同できなかったからだ。


「危害は加えられなかったのかい?」

「はい。むしろ、年齢不詳なこと以外は本当に普通で…いえ、なんだかおっとりした感じの人ではありましたけど、それだけですね」

「年齢不詳?」

「はい。性別も分からないですけど、辛うじて男ではないかなぁと思われます。それから、ラビットフェアリーを抱いてました。ですから、魔物ではないのではと…」


 はたと、なんで俺はこんなことをアルテミス先輩に言ってるんだろうと疑問に思う。先生達にすら言っていないことなのに、それを何故言わされているんだ?

 まぁ、分からないことを年長者に聞くことは悪いことではないが。アルテミス先輩はしばし思案した後、真剣な面持ちをした。


「それは、昨日の二時限目の出来事とは関連はないのかい?」

「関係があるとは思えませんが…何故です?」


 そう問うと、アルテミス先輩は言い辛そうに…と言うより、至極真剣な眼差しと真面目な口調で言った。


「幻想界では、立て続けに不可思議な現象が起きるのは何かの前触れだとされているんだ。全ての出来事は一本の線で繋がっているっていう教えでね。だから、昨日の出来事がそれに当たるのではないかと思って」

「そういえば、昨日はやけに災難ばかりでしたね。登校早々、宮田先輩に会ったり」

「確かにそれは災難だったね」


 間髪入れずににっこり肯定している先輩。そこまで宮田先輩が嫌いなのかぁと呆れた。

 まぁ、生理的に宮田先輩の存在が受け付けないと言うならばしょうがないが。事実俺も、あの人のテンションには付いて行けないしな。


「他には?」

「全部事細かに言うんですか?」

「そこは、君の独断で端折って欲しいかな」

「分かりました」


 とは言っても、何がいつもと違う…アレか? 『魔神の后土』と二時限目と湖畔の人とドラゴンの卵…

 しかし『魔神の后土』に関しては、俺が知っていたとなると皇凛のことも言わなければならなくなる。使い魔召喚の儀式が行なえなかった、と言えば追及はされないか。


「昨日は、使い魔召喚の儀式が出来ませんでした」

「あぁ、そうだったね。確か…」

「『魔神の后土』での事件だね!」


 上手く俺が隠したというのに、皇凛があっと声を上げてつい口を滑らせてしまう。大馬鹿者がぁ。

 最悪なことに、ここにいるのはサンダース先輩ではないのだ。泣く子も失神する、アルテミス先輩なのだ。言うなれば、『泣かぬなら 弱みをバラしてしまうぞ ホトトギス』な人なんだから。

 その証拠に、まるで探るかのような瞳で皇凛を見下ろしているアルテミス先輩。


「事件? どういうことかな? それは、僕が知っているものと一致しているのかな? そもそも、何故それを君は知っているのかな?」

「あ、いえ…あのぉ…」


 チラリと俺を見て、助けてと目で訴えかけてくる。本当にどうしようもない奴だなぁと思いつつ、致し方なく助け舟を出してやることにした。

 かなり命懸けな助け舟だが、上手く気を削ぐくらいならできるだろう。


「皇凛は地獄耳ですからね。大方、おしゃべり好きなセイロフさん辺りにでも聞いたのでは? 彼は、ここでは右に出るものがいないほどにおしゃべり好きな料理人ですから」


 うっかり口を滑らせた可能性は高いですよと言えば、勿論納得はいっていない…というか、庇おうとしていることも見抜いた上で、アルテミス先輩は追及の手を緩めてくれた。

 その代わり、皇凛にお灸を据えて…


「そう、ならば今回は咎めないよ。だけど、規則に反するようなことは今後一切絶対にしないようにね」

「うっ…はい…」


 さすがの皇凛も反省の色を見せた。そうであってくれないと俺も困る。

 李先輩は皇凛には甘いから、俺以外に説き伏せられる人物がいないし…そんな俺の説教ですら効いているとは言いがたいが。


「そんなことより、昨日のことを究明しないんですか?」


 話を戻すようにそう問いかけると、アルテミス先輩の視線から逃れられてほっと息をついた皇凛は、今度こそ大人しく座っていた。そう、もう何もするな言うな。


「じゃあ、他には何かあるかな?」

「他には、2時限目でのブラックウルフの出現と、湖畔の人との遭遇、帰宅途中に見つけたドラゴンの卵です。でも、昨日の出来事が俺の身にだけ起こっていることではないように思えるのですが…」


 特に、『魔神の后土』での恐れ多き悪戯書き事件などは、明らかに俺の身にだけ降りかかったものではない。その事件が、一番この中で重大だしな。

 俺が考えるに、昨日の出来事全てが繋がっているのであれば、俺以外にも何かの不思議現象に遭遇している人がいるはずだし、不審な人との遭遇ぐらいは別に大事ないことのように思う。

 ブラックウルフ出現は俺の魔力の暴走だし、ドラゴンの卵は憐れな卵だった可能性がある。繋がるにしては小事に思えた。


 気にするほど大きな出来事って『魔神の后土』だけのような気がしますがと言うと、アルテミス先輩が新情報を教えてくれた。


「一昨日、少数民族ルーゼルの中に、夜中に突然発狂する者がいたそうだよ」

「デサント郊外の小さな集落に住んでいる人達ですよね。確か、ルーゼル民族は古来から呪い師をしているんだとか。その人達が発狂、ですか?」


 とても優秀な占い師として知られるルーゼル民族の、とても穏やかじゃない事実に驚く。しかも、あの辺りは『魔神の后土』のある地区と近い。

 何か関連性を疑いたくなるのも分かる。あれ? そういえば…


「アルテミス先輩のご友人に、確かルーゼル民族の方がいらっしゃいましたよね?」

「よく覚えていたね。そうだよ。彼も発狂した中にいてね。未だに、昏睡状態だそうだ」


 驚いて何も言えなくなってしまった。発狂の末、昏睡状態だなんて…

 なんと口にしていいか躊躇われ何も言えなくなっていたが、アルテミス先輩は動揺してはいなかった。元々落ち着いた人だったが、あえて冷静になろうとしているような気がした。


「『我、契約の魔物 我が主の帰還 この世に終焉は来たる』これの意味が、ただの悪戯では片付けられないのは確かだね。一昨日と昨日、夜間の魔物の数が人里付近でも見受かられたそうだし、僕達に動揺を与えないように大人達は隠そうとしているけど、隠しきれていないのが事実だよ。今に、生徒内でもこの話題が広がるかもしれない。だからこそ、出来るだけ自分の行動には慎重でなくてはいけないよ。例え構内でも、一人歩きはしないようにね。皆にも、不安を与えない程度にそう伝えておいてくれるかな?」


 真剣な表情を崩さないアルテミス先輩にそう問われては、俺達も黙って頷くしかなかった。

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