ドルゴーン夫妻、別荘を買う
かなりのご無沙汰になってしまいました
すみません
PCで内職始めたら予想以上に忙しくて
「貧乏暇なし」理論をうっすらと実感するはめになっております
ご機嫌なあんちゃんと緊張しきったアロ。それに通常モードのアタシとバラクさんも乗せて、竜車が空を飛んで行く。
あれからアタシは遣いを出してあんちゃん家に乗り込み、助力を請うた。二つ返事で快諾されて、むしろアタシは今、そこはかとない不安を感じている。
「ま、間もなく………マシリでしゅ……ですわっ」
噛んだ……。アロ、緊張のあまりベタな感じに……。あはは、真っ赤になってるし。
「あんちゃん、ちょっと打ち合わせイイかい?」
見ないことにするのも女の情け。そんな泣きそうな顔しなくても、あんちゃんの注意は引きつけといてあげるよ。
……あ、でもごめん。複雑過ぎる顔してるバラク父さんまでは手が回んないわ。そっちのフォローは諦めとくれ。
「イイですが……打ち合わせ、要ります? ボクとフィーリがいつも通り自然体で夫婦として……」
「今回は! ディミヌエさんの警戒心解くのが一番だから。別荘を買いたいって名目であわよくばマシリを案内させたいんだよ。
だからあんちゃん、別荘を買いに来たって設定、絶対に忘れないどくれよ? アタシのワガママに渋々付き合ってくれてる、って感じでさ。あんちゃんが今更別荘に興味を示すなんて妙に思われちまうから、絶対に先走んないどくれね?」
「わかってます。楽しみですねぇ、妻の貴重なワガママを叶えてあげるんですから」
……ハァ。あんちゃんがこんなに信用ならなく見えるのは初めてだ。
マシリの現状を確かめるための潜入調査。そんなスリル満点なことをするのは二回の人生を通算しても未経験。
アタシはめちゃくちゃ緊張して竜車に乗り込んだのに、あまりにも場がバタバタとしていて、それどころじゃない。緊張なんてモンはもはや忘れた。これがアタシの緊張を和らげてくれるための演技ならイイんだけど……全員「素」ってのが問題というか頼もしいというか……。
話が噛み合わなくなるレベルで浮かれているあんちゃんに、滑稽なほど緊張しまくっているアロ。それを無言で見つめながら百面相し続けるバラクさん。
こうやってみると、むしろアタシが一番冷静だろ、ってぐらい混沌としている。
やいのやいのと騒いでいるうちに見えてきたのは、前方の広大な湖とその縁に広がる深い森。点在する切り開かれた箇所こそが、話題の別荘なのだろう。アタシにはどれがディミヌエ家の敷地なのかわからない。けれど、徐々に見えてくる別荘はどれも、個性的でインパクトがすごかった。
どの敷地も屋根の色が違っていて、しかも、庭が屋根と同じ色合いになっている。白い屋根の別荘の庭には白い花が咲き乱れ、赤い屋根の別荘の庭には赤い花がたくさん、青い屋根の別荘の庭には空を写す鏡面のような池があった。
その中で一際目を引くのが銀の屋敷。お日様の光を眩く反射するのはソーラーパネルのごとき銀色の金属が貼られた四角い屋根だ。
「ねぇあんちゃん。あれ、なんだかわかるかい? ほら、あのデコボコした銀色の……」
「どこですか? ……あぁ。悪趣味ですね。エルジェの鱗ですよ。こんなに大量に使っているのは初めて見ました」
どうやら、庭に所狭しと置かれた銀色に輝くオブジェと屋根はどちらも、金属製ではないらしい。
数千年を生きるとか言われてるあんちゃんが「初めて」って……なかなかだよね?
「エルジェ……?」
「淡水魚型の魔物です。あの湖にいるんでしょうね。わりと大きな魔物ですが、それでもこれだけの規模を鱗で装飾しようと思ったら何千匹分も必要になります。成金趣味というか自己顕示欲の塊というか……関わり合いになりたくない感性の持ち主なのは確かです。まぁ、関わらなくてはならないんですけどね……」
溜め息混じりの言い方は、あんちゃんには珍しく、嫌悪感がはっきりと表れている。いつもニコニコしていて本心の読みにくいあんちゃんなのに、今は眉間に皺が一本。
……へぇ。そういう顔すると、雰囲気が違って見えるね。イイじゃないか。
「おそらく、あれがディミヌエ屋敷ですよ」
「……え?」
凛々しい横顔に驚いていたところに予想外のセリフを投下され、アタシは目をまたたいた。
まさか、あんちゃんが忌避するレベルの悪趣味屋敷が目的地だとは思わなかった。まぁ、建てたのはご先祖なんだろうけどさ。それにしたって、ねぇ。
「中庭に降ります」
呆気にとられて銀色屋敷を見下ろしていると、ふいにバラクさんが口を開いた。今日は御者兼護衛兼お目付役兼保護者の彼は、どうも、従者としての気構えと父親としての情に挟まれて内心大混乱しているらしい。
ま、アロはなんだかんだ言いつつ実際美人さんだからね。子煩悩父ちゃんとしては心配だろ。
徐々に高度をおとしていく竜車。
最近ようやく上空からの景色を楽しめるようになってきたアタシだけど、やっぱりこの瞬間は馴染めない。飛行機の離発着よりは安定感があるとはいえ、この重力がかかる感じがなんとも言えず恐ろしい。
背筋の低い位置がゾワゾワしてきて、アタシは思わず、目の前にあったあんちゃんの腕にしがみついた。
「大丈夫ですか?」
「ごめ……ひっ」
まったくもって大丈夫じゃない。
高度を下げつつ、背の高い木を避けるようにぐいんと曲がった感覚に手が震えてくる。こればっかりはアタシの意志じゃどうにもならない。病気じゃない以上、高所恐怖症が完治することはないから、慣れるしかないのはわかっている。……けどっ!
「こうすれば少しは落ち着きます?」
ガクガクビクビク震えていると、ふいに背中にあんちゃんの温もりを感じた。
「あ……りがと……」
気づけば、隣にいたはずのあんちゃんがアタシを膝にのせ、包み込むように支えてくれていた。もう幼児サイズじゃなく中学生サイズだから、重いんじゃないかとは思うけど、今はそんな疑問には蓋をする。
だってこれ、最上級の座椅子っぽくて安心するかも!
シートベルトのごとくあんちゃんの腕がアタシのお腹に回されているし、心なしか体に感じる重力が少ない。うまく分散されているのだろう。
背の高いあんちゃんだから、顔はアタシの頭の上。思い切り寄りかかっても、見た目よりがっちりとした胸板が受け止めてくれる。
うん、これ、すごくイイ!
「遠慮しないでくださいね」
「…………間もなく到着致しますわ」
やけに楽しそうなあんちゃんと、なんだか面白くなさそうなアロの声を聞きながら、アタシは強張っていた体から力を抜いた。
季節の変わり目、皆様ご自愛ください




