フィーリ、パニクる
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「何用だ。騒がしい」
振動が止んだことに気付いて目を開ける。どうやら目的地に着いたらしい。実際にはあっという間だったんだろうけど、アタシにはなかなか長い恐怖だった。……いや、あんちゃんだし、落とされるとか吹き飛ばされるとかは一切心配してなかったよ? でも、こう状況の変化が激しいと、さ。おばちゃん、ついていけないよ……。
「ガンドルヴ、今日は絶対に呼び出すなとお前が言ったのではなかったか?」
ん? この声……。
あんちゃんの腕に抱かれたまま恐る恐る目を向けると、なぜかそこにはジークの兄さんがいた。しかも、すごい煌びやかな衣装を着て。ホント、ここ、どこ??
いつもはシンプルな黒っぽい服装なのに、なぜか今はルフの毛よりも眩しい白銀の上下を着ていた。肩には光沢ある瑠璃色のマントを羽織り、腰に巻いた漆黒の剣帯には豪華な誂えのサーベルが、胸元にはたくさんの徽章が輝いている。
ほぉー。ぶっきらぼうで近寄り難い印象のある兄さんがこうしてるとちょっとは爽やかに……見えるのは気のせいだね。銀髪に映えてるのは事実だけど、爽やかさ……は流石にない。
普段は薄い存在感がやけに増して、ゴージャスな正統派イケメン。むしろかなり近寄りがたい。
「何事ですかっ? これは……ガンドルヴ様!?」
兄さんの部下だろうか。兄さんには数段劣るけれど、同じように華やかな服装をしたヒト達がバタバタと駆けつけ、突然現れたあんちゃんとアタシに険のある視線を向けてきた。
えーと、心中お察しします。てか、アタシもわかりません。ここはどこ、アタシは何事?
「ジークマグナス、今日は素晴らしい日です! ボクはフィーリの希望を叶えることに決めました!」
「は? ……ハァ。その方らは下がれ。仕事にならん」
あんちゃんの高々とした謎宣言を聞いた兄さんが、軽く手を振って困惑しきりな部下さん達を下がらせる。その諦めたような疲れた表情に、アタシは全てを察した。付き合いの長い兄さんがコレだもん、この状態のあんちゃんは止まんないってことだよね。
ふぅ。
改めて見れば、執務室のような立派な部屋。大きな窓と資料が詰まったいくつもの本棚に、個人用の重厚な拵えの執務机と簡素ながら上質の大きな会議用テーブルが揃っている。死角になって見にくいが、隅にある応接セットも優美だ。
窓がガラリと一つ開いてるのは……。考えたくないが、やっぱり、あそこが突入口、かね?
高校の教室よりも更に広いその部屋には、眉間にがっつり皺を寄せた兄さんと、喜色満面のあんちゃん、それから、横抱きにされたままのアタシ、3人だけ。
なんか、気まずい。
「あー……あんちゃん? そろそろ降ろしてもらってもイイかい……?」
子どもだし、太ってはいないと思うから、抱っこされることに抵抗はない。歩くより楽だもんね。
背が高いあんちゃんの腕の中から見える景色に高所恐怖症の震えがくるけど、幸いなことに安定感が素晴らしいから顔の向きにさえ気をつけていれば怖くない。たださ、ここにいると状況がまったくわかんないんだよ。
「お前の我が儘は今に始まったことではないが、少しは考えろ。迷惑だ」
「進展しない退屈な会議を続けるよりもよほど建設的でしょう? あれもこれも、国家の益とするか損失とするかはジークマグナス次第ですがね」
長い足でスタスタと応接セットに移動し、向かい合って座るイケメン二人の笑顔が怖い。ジークの兄さんに至っては、完璧に作り笑いだ。だって眉間の皺が取れていない。
……てかね!? 降ろしてって言ってるじゃないかっ! なんでアタシがこんな応酬のど真ん中に……。
「それで?」
「フィーリを今すぐボクのお嫁さんにします!」
「…………」
理解できないものを見る目の兄さんと、唖然としたアタシの声がかぶった。
「は?」
と1音。
「……え、いや、あんちゃん……ロリコン? あ、いや、そこじゃなく……て、えぇ!?」
その後のフリーズから立ち直るのはアタシの方が早かった。まぁ、衝撃は激しく継続中だけど。
えー……あんちゃんがホントにロリコンなのだとしたら…………なんというか、うん、残念。悪いけど、付き合い方を考えなくちゃならないよね。
いくらアタシが可愛いからって……ねぇ? 児童婚て……平安貴族か? ないわー……。
「フィーリはたまに言いますよね、ソレ。ろりこんて、どういう意味なんですか?」
「……ざっくり言えば……あー……女性よりも女の子が好きなヒト………? ………なのかい……?」
きょとんとこっちを見下ろす顔はいつもと変わらない。揺るぎはない。
「じゃあ違いますね。ボクが好きなのはフィーリだけですよ?」
けど、えーっと…………話が通じないね、こりゃ。ははははは。
とりあえず少し、あんちゃんと物理的距離をおこう。……って、この腕、放してくれない。大して力が入ってるようには見えないのに、ジタバタ暴れても変化ナシ。
「どうしました? 危ないですよ? まぁ、フィーリの安全は絶対的にボクが保証しますが」
落とすわけないでしょう? と微笑むあんちゃんに、アタシは一体どうすればイイのやら。
「…………ハァァァァ。それで? 何を企んでいる?」
安定感抜群の腕の中で無駄に暴れて息が上がってきた頃、ようやくジークの兄さんが再起動した。
深い深い溜め息をついて、漆黒の瞳でジトッとあんちゃんを鋭く睨む。
「企むだなんて人聞き悪いですね。フィーリ、知ってると思いますが、ボクは悪人じゃありませんよ?」
「え? あぁ……まぁ……」
「お前が打算なしに動くはずがなかろう」
「滅相もない。ボクはいつでもフィーリの幸せを考えてますよ?」
「どうだかな」
ご機嫌な笑顔を浮かべたあんちゃんと作り笑顔で不機嫌絶好調の兄さん。アタシはしつこく脱出を試みながら、心の中で兄さんを応援していた。不毛で遠回りな応酬より、何より、説明が欲しい。
「フィーリの願いを叶えつつ、ボクも幸せになれる、最高のアイデアだと思ったまでです。イイでしょう!?」
「…………ハァ」
いや、兄さん!? そこで諦めないでよ!! アタシ、まったくわかってないよ!?
あんちゃん、離して……いや、話して……かな? ……もう、早くはなしてぇぇっ!!
ガヴのあんちゃん、流れを全部持って行ってしまう暴走キャラに育ってます……
あれ???
ジークの兄さん、唯我独尊キャラで誕生したのに、いつの間にか苦労性の気配が……
あれれ???




