フィーリ、どん引く
本日は1ページのみ投稿です
いつもより少しだけ長めです<(_ _)>
いやぁ……アタシ……さ、えっと…………見てイイのかね、これ……?
「す、すいやせんした! ホント!!」
涙目で土下座する一つ目の大男。
彼は、運がイイのか悪いのか……ちょっとアタシには判断つかない。
「死刑」
「ひぃ……っ」
能面のような無表情でアタシの隣に立つジークの兄さんがそう言うと、一つ目の大男さんはガクガク震えながら泣き出した。
下手したら……チビるんじゃないか、このヒト。……それはホント勘弁しとくれ……ただの路地裏とはいえ、汚れたら嫌だし、見たくないし。そもそも大の男がイイ歳こいて涙目な時点で見たくない……ってか、見てられない。
「……兄さん? ね、もう十分だよ」
仕方なくアタシは不機嫌全開の兄さんを止めに入った。怖いけど。
まったく……こんなダークな兄さんも、あんな情けない大男さんも、ホント、情操教育に良くないからさ? 子どもなアタシに見せないどくれよ……。グレるよ、そのうち。
実は兄さんが何か恐ろしげな魔法でも発動してるのか、土下座一つ目大男さんが相当な見かけ倒しなのか……。
威圧も殺気も感じないうえ魔力もないから、アタシには確かなことはわからない。「実は即死カウントが発動中」みたいなことがあっても、一切気づかない自信がある。
……けど、兄さんのゴミを眺めるかのような冷たい無表情は…………普通に怖いよ。
「しかし、この男はおまえの荷物を……」
「ホンッッットにすいやせんっしたっ!!」
「ハァ。だからもうイイってば。結局荷物、無事なんだし。心配してくれてありがとよ。
あ、ほら、ジークの兄さん、今度はあっちに行ってみようよ」
「…………ハァ」
買い物に来ただけなのに、実はこのやり取り、今日三回目。あのさ、ため息つきたいのはこっちだからね?
なんだってこの兄さん、こんなピリピリキリキリして喧嘩っぱやいんだろ……。
「こっち!」
ジークの兄さんの筋張って細い手をとり、アタシは力の限りに引っ張った。
子どもの力じゃ動かないのは知ってるけど、早く大男さんから離れないと今以上の粗相をされてしまいそうだ。今日イチ情けない掏摸さんだよ。
「すいやせんっしたぁぁぁっ!!」
背中に響いてくる悲鳴のような謝罪の声。むしろ、背を向けてるんだからもう、存在を主張しないで欲しいと思う。
でもまぁ、歩き出したジークの兄さんはまったくの無反応。たぶん、興味を失っている。
くわばらくわばら。一難去ってまた一難……は、流石にもう御免被りたい。そろそろアタシも本気でしんどい。
「……ふぅ」
冷や汗を拭うのも何度目か。街ブラしてるだけなのに重労働してる気分だ。精神的に既にぐっったり疲れてしまった。
いやぁしっかし、この兄さん……暗そうで淡々としてて世の中に無関心そうなくせにキレやすそうだなぁとは思っていたけど。まさか、ホントにヤバいヒトだったとはね……淡々と相手追い詰める手腕、マジ怖い。
あんちゃん! 友人は選ぼうよ!! これ、アタシ一緒にいて大丈夫!?
「まったく……。子どもは気まぐれで困るな」
……はぁ!? 飛び出しそうな言葉を飲み込み、アタシは無言で兄さんの手を引く速度をあげた。
アタシ達は朝食後、あんちゃんの竜車を借りて王都の隣街、イムラに来ていた。昨日、いつものバザールで噂を聞いて……イムラは反物で有名な街なんだそうだ。アタシ、服は柄物が好きなんだよね。細かいヤツなら尚イイと思う。
今まで使い道なかったから、お小遣は貯まってる。久々のオシャレ、爆買いするぞぉっ! ……と意気込んだのに。なんかそれどころじゃないんだけど。
ちなみに、ジークの兄さんは今日はアタシの護衛役だ。護衛…………ねぇ。護衛役を止めるための護衛が欲しい。……てか、アタシ1人のがまだ良かったんじゃないかと思うレベルで大変だよ。兄さんと二人きりで長時間、ってのが初めてだから、知らなかった。
そもそも、昨日の夕飯で「イムラに行きたい」と話をしたアタシに、ガヴのあんちゃんが反対しまくったのが苦労の始まり。竜車を貸したくないわけじゃなく、1人で行くなんてとんでもない、と。
で、信頼できる護衛役の同行が竜車を借りるための条件に組み込まれた。
本当はあんちゃん本人が同行したがったが、残念ながら仕事を抜けられないらしい。……いや、正確には、アタシが王都に来て以来あちこちに同行しようとするものだから、仕事のスケジュールが狂いまくって……先日、ついにバラクさん達に泣かれてしまったんだそうだ。だから当面はお仕事優先。
……て言うあんちゃんも血涙流しそうな顔だったけどね。仕事は大事だから仕方ない。てかバラクさん。気持ちは分かるけど泣くなよ、おっちゃん……。
それにしても、ジークの兄さん。あんちゃんに無理やり頼みこまれて同行することになったから、本心は嫌々なのかもしれないが。今朝アタシの顔を見るなり「子守か……」とか言いやがった。
ふざけんじゃないよ、アタシをなんだと思ってるんだい。中身は経験値高めのレディだよ? はぁ。もうご飯作ってやんないからね!?
……とか思ったけど、こうして何度も掏摸から救ってもらうと、あながち間違いではなかったのかもしれないと思えてしまう。
「ねぇ……兄さんてさ、仕事、何してんの?」
なんとか大通りに戻って手近な呉服屋さんに入ったアタシは、繋いだ冷たい手を放しつつ、ジークの兄さんを仰ぎ見た。
ガヴのあんちゃんと同じくらいの地位にいるのは間違いないが、アタシはあんちゃんにも兄さんにも、仕事の内容を訊いたことがまったくなかった。今だって、どうしても知りたいってわけじゃないけど……こんな危険人物にできる仕事って、なんなわけ? 興味がある。部下とかいたら、そのヒト、ホントお気の毒だし。
「…………飾り」
「飾り? 装飾業ってことかい? あー、建築系か」
「…………」
思ったより庶民的だね。あ、でも、王城担当とかなら偉いのかも。
……うーん、確かにこのヒトは接客業とかより職人のが向いてるし、大成するかもしれないね。
相変わらずムスッとした兄さんの横顔を見ながら、アタシはクスリと心で笑った。ぐるりと小さな呉服屋の中を見回すと、色とりどりの反物達。
「じゃ、センスはイイんだろうからね。兄さん、いっちょアタシに見立てておくれよ!」




