フィーリ、カロメーロチャートを食す
アタシはトートバッグから財布を取り出すと、屋台のおじさんに3つ、注文した。念のため、受け取るついでに全部のカロメの実に触れておく。ジークの兄さんが言うことがホントなら、アタシは魔喫だから、こうすればみんなが「魔力あたり」を起こす確率は更に下がるだろう。
……思い出した。帰ったらまた杖、持たなきゃね。……ってか、そういえば、例のお盆は念の為有限鞄に入れて持ち歩いてるんだった。アタシの分のカロメーロチャートはそのお盆に乗せればイイんじゃないか? この葉っぱのお皿、慣れないアタシには使いにくいよ。
目を輝かせるミーチャに一個、恐縮する黒鬼さんに一個渡し、アタシの分はトートバッグから取り出した預かり物のお盆に乗せる。
立ち食いおやつのせいか、左手にカロメの実を持ち、右手で直に中身──カロメーロチャートを摘まんで食べるのが一般的のようだ。
改めて辺りを見まわせば、カロメーロチャートを食べているヒトは非常に多い。
確かに安かったしね。……あーそっか。これに比べれば、ウチ、暴利な高級料亭だわ……。
「うん、イイ匂いだねぇ」
甘酸っぱい匂いは、こうして間近で嗅ぐとリンゴやベリーとかの果物よりは……ちらし寿司? ツンと鼻をつく酸味と、複雑な甘味が感じられた。食べるとしょっぱいんじゃないかと思える匂いだ。元日本人としては非常に心惹かれる。
「…………ん」
我先にと口に入れたミーチャが、微妙な顔で固まった。ホクホク笑顔の黒鬼お兄さんと対照的だ。尚更に興味深い。
うーんどれどれ、とひとつまみ口に入れる。カロメーロチャートは、柘榴やあけびのように、種の周りを食べる果物らしい。
まず舌に広がったのは酸味。匂いほどには甘くない。ほのかな甘味と、絶妙な塩気。
これ……匂いの通り、酢飯っぽい。
「アタシは好きだねぇ、これ……」
ミーチャに話を振ろうとして……ヤバい。声が震える。
「……フィーリ??」
きょとんとこちらを見るミーチャの目から逃れるように顔を背けた。
「ごめん。めちゃくちゃ好きな味でさ。嬉しくなっちまってね……」
「おぉ。カロメーロチャートはお口に合いましたか!」
感涙するほど気に入った、と解釈した黒鬼さんが、アタシが存分に味わえるよう、進んでミーチャに食べ方をレクチャーしてくれる。皮にこすりつけるようにしながら中の種子を混ぜると、甘味が増すらしい。アタシもこっそりやってみた。
……あぁ…………。
この世界に来て、初めて、米のようなものを食べた。見た目はドロドロとした柘榴だし、種もある。食感だって違う……なのに。
香りが、味が、アタシの魂に響いた。どんなにそれらしい料理を作っても再現できない日本人の主食の味が、諦めて、割り切っていた気持ちを揺さぶる。
魂の次元で染み付き、求めていた食べ物。
「…………これ、買って帰りたい……」
アタシがそう呟いた時、二人は既にカロメーロチャートを完食していた。中身がすっかりなくなり、丸いまま食べ尽くされた小玉スイカみたいになっている。
言葉のわりに食が進まないアタシを黒鬼兄さんは心配してくれていたようだった。ごめんね、嘘じゃないんだ。本当に好きなんだよ。
アタシの言葉にホッとしたように笑って、
「運ぶの、お手伝いしますよ」
黒鬼兄さんは、親切に、おつかいに行ってくれた。
遅くなり、すみませんでした
お盆の一番忙しい時は超えた!!……はずです




