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おかん転生 食堂から異世界の胃袋、鷲掴みます!  作者: 千魚
2 光の洞穴亭 in 王都
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フィーリ、天然酵母パンを焼く①

「ちょっと待ってておくれね?」


 あー……コレはあんちゃんに怒られるかねぇ……。でも、腹空かした子どもなんて無視できないし……仕方ないよねぇ……?

 アタシは貯蔵庫からオルニの唐揚げとサラダ、試作一号のラユッス酵母パンを取り出した。




 それはつい今し方のことだった。

 明日に料理教室を控え、アタシは今朝からずっと、天然酵母のパンを捏ねていた。やはり酵母の活動はどれも速く、その日のうちにはシュワシュワと発酵し始め、今日はついに準備万端、焼成できる。アタシはお菓子作りなみにドキドキワクワクときめいていた。


 ラユッス酵母は色が淡く、年代物の梅酒のような香りでバランスがイイ。ベワズー酵母は濃い赤色で、甘ったるいワインのような匂いがしている。発酵力はベワズーの方が強そうだけど、菓子パンではなく食事と考えるなら、ラユッスの方が好まれるだろう。

 酸味が強い柑橘系のヤンヤは、思った通り、飛び抜けて発酵力が強かった。香りも爽やか。酸味が問題だが、そればかりは焼いてみないとわからない。


 ちなみに今日の試作に先立って、昨日はふと思い出した「パンの元種」ってヤツを作ってみた。アタシ自身はこの世界に生まれ変わって初めて天然酵母を使ったが、そういえば昔、天然素材派のママ友の一人が天然酵母パン作りにハマっていた。バナナ酵母やりんご酵母、オレンジ酵母なんかの自家製酵母パンをいただいたことがある。酵母の味がはっきりわかって、「こりゃ好き嫌い分かれるわ」と思ったものだ。

 柑橘系の酵母の発酵力が高いことは、当時彼女から教えられた。その彼女がそういえば、「できた天然酵母を液種のまま使うより、強力粉と練った元種にした方がよく膨らむ」と言っていたような……。


 とはいえ、その元種とやらの作り方を詳しく聞いたわけじゃないから、勘頼り。瓶から取り分けた少量の液種と麦粉を混ぜ、別の容器で一晩置いた。

 半信半疑で今朝それぞれの元種を覗き、アタシのテンションは急上昇。ふかふかに膨らんでいたのだ、元種もどきが。


 その元種で見る発酵力が、ヤンヤ、ベワズー、ラユッスの順で強かった。

アタシは早速、いつものパン作りの要領でそれぞれの元種を使い、一次発酵をさせていく。厨房に漂うパン種の匂いに頬が弛んだ。

 ヒトの味覚なんてあっさり変わるものらしく、昔はちょっと苦手に感じた天然酵母パンも、今ではめちゃくちゃ美味しく食べられる。むしろ化学調味料なんてナイからね。味覚は今の方が鋭いくらいなのに、不思議なものだ。


 ガス抜きをして丸く成形したものを金属製の板に並べ、二次発酵。膨らんだ表面にナイフで一筋切れ目を入れ、熱しておいた石窯に金属板ごとそっと突っ込む。

 さすがに三種類を同時に焼けるサイズの窯じゃないから、時間差で焼く予定。一次発酵二次発酵とそれなりに時間がかかったせいで、時刻は既にお昼近い。合間合間で夕飯や明日の料理教室の仕込みもしているが、やっぱり予想以上に慌ただしくなってしまった。


「ん、匂いは悪くないね」


 一品目、発酵力最弱のラユッスパンの焼ける匂いが漂い出した。香ばしい、麦の匂いに、程良い酸味が薄く香る。

 もう少しかねぇ? 次に焼く準備をしていたパン生地の並ぶ鉄板から顔を上げ、アタシはふと、ソレに気付いた。


「おや」


 作業台から石窯に目を向ける途中。店の窓、閉め切られたカーテンにぴょこぴょこと映る、小さな人影。


 あんちゃん達のお遣いだろうか。

 ……でも、だったら許可証を持って勝手口から入ってくるはず。

 この店にはあんちゃんと、あんちゃんにせっつかれた兄さんの防御魔法がいろいろとかかってる。どちらかの許可があるか、アタシの招きがある者しか入店できない、超テクノロジーの過保護システム。現代科学もびっくりな高性能防犯措置が施されてる。まぁ、現時点には女児の一人暮らしだし、ありがたいよね。

 ちなみに防犯措置の一環で、万が一入店後にアタシに害を為そうとした者には、なんだか激烈に恐ろしいことが起きるらしい。安心だけど……詳しくは聞かなくてイイかな。ホント。怖いから。


「何だろね?」


 だからアタシは、警戒せずにシャアアッと軽くカーテンを開けた。

ごはん代わりのマフィン、スコーン、ケークサレも大好きです

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