フィーリ、こきつかわれる
閑話終了、本編に戻ります
開店が延期された食堂のテーブルに、謎の物体が並んでいる。
……なんかさ。アタシとしては隠れ家レストランを目指してたのに、出来てみたらやっぱり大衆食堂の雰囲気だったんだよね、この店。
ま、動線完璧だから別にイイんだけど……そうだよね、アタシ、コックとかシェフとかいう柄じゃないもんね……妥当なとこか。
「……で? なんなんだい、コレ」
一緒に玉子焼きを頬張った日から数日。乾季の訪れを身にしみて感じるこの頃だ。王都、寒い、本気で。原生林区より風が強いし、空気も冷たい。今でコレなら、乾季真っ只中はどんだけなのか。想像するだけで恐ろしい。
とはいえ室内は空調施設完璧だ。ぬくぬくとした食堂、アタシの目の前に置かれたのは、ゴツゴツと変な形の棒と、地味で小さな輪っか、それから大きなお皿のようなモノ。骨董品というにはキレイだけど、蚤の市レベルの謎物品だ。
これをアタシにどうしろと……? 早々に兄さんとの意思疎通を諦めて、アタシは並んで立つあんちゃんの方を向いた。
ジークの兄さん、気分にムラがあって会話がちょっと面倒なんだよね。
「フィーリに触れて欲しいそうですよ?」
「別にイイけど……なんで?」
「魔喫だからですよ」
「よくわかんないけど……あんちゃん、魔喫ってヤツ、知ってたのかい?」
「もちろんです。愛するフィーリのことですからね」
「……お前。知っているなら最初からそうと言え」
「てことは、魔喫って、有名なのかねぇ……?」
「そうですね。ボク達のように王城近くに住む者にとっては常識です」
「……てことは、まぁ、一般的じゃないってことか。別に秘匿されてる知識とかじゃないんだろ?」
「ボクはそこらへん詳しくありませんが、まぁ、問題ないでしょう」
「聞けよお前ら」
ヒトの話を聞かない兄さんが何か言ってるけど、話を聞かないヒトの話を聞いてやる義理はない。
アタシは、あんちゃんにそれぞれの品物のいわれを説明してもらうことにした。
それによると、アタシが変な棒だと思ったモノは、魔石で作った杖だったらしい。指輪も魔石で、お皿も魔石。どうやら、どれも魔術具で、ジークの兄さんちに伝わる家宝のようなものなんだそうだ。
魔石はそれ自体が魔力を留めることに優れている。電池のようなもので充電可能。元々の魔力がなくなっても、新たに持ち主の魔力を注いでやれば、充電され、魔術具は動く。なんとも便利な優れモノだ。……アタシは魔術具のスイッチをON・OFFするだけだけどね。
兄さんの家は由緒正しいお家柄なのだろう。この3つの魔術具を動かせれば、すなわち、家督相続となるのだそうだ。
気の毒なことに、兄さんの両親は共に没しているらしい。しかも、先代なんて、魔術具にたっぷり魔力を注いでそのままポックリ。
「んー……ま、別に構わないんだけどさ、こないだ兄さんが言ったんじゃないか。アタシはまだ大して喫えないって」
兄さんちの事情も、やって欲しいことも大まかには理解した。ただ、やるべきことがわからない。
見上げると、あんちゃんはいつもの柔和な笑顔で
「フィーリはフィーリらしくしてればイイんですよ」
そう言った。
安心できる笑顔だし、心温まることを言われてる気がするけど、具体的方策が一切ないというのは大問題。アタシは思わず頭を抱えた。
「肌身離さずつけておけ」
「え?」
助言は予想外の報告から。存在を忘れていたジークの兄さんだ。ただでさえ存在感薄いんだからもっと自己主張してくれないと。あ、黒っぽい服、派手にするようススメてみようか。
「幼いとはいえ、調理の時間だけで食材の残留魔力を全て無効化するんだ。一日中身に付けていれば10日ほどで使えるようになる」
うん。この兄さん、バカなのかね?
「指輪はともかく、杖と皿をどうしろってんだい」
「……手に持てばいい」
「アホか」
「な……」
「ふふっ! さすがフィーリです。もうジークマグナスの本質を見抜きましたか」
……この会話自体、アホだよね? え……この二人ってお偉いさんじゃなかったっけ? 国政に参加するポンコツとか……いや、たまたま今回だけか? なんか、先行き不安になってきたよ……。
昨日、今年初の蝉の声を聞きました。
…………ヒグラシの。
あ、もう夏終わるの!? とびっくりしていた今日、今度はようやく油蝉の声も響き始め。
あとはミンミン蝉がなけば夏気分全開!…………いや、暑いの、ホント苦手です(@_@)




