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おかん転生 食堂から異世界の胃袋、鷲掴みます!  作者: 千魚
2 光の洞穴亭 in 王都
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56/136

フィーリ、とりあえず料理する

ちょっと長いです

切りどころがわからなくて……

 指輪と杖と皿を四六時中持っていろ、というジークの兄さんに、イイ加減ぐったりしたアタシは、百聞は一見に如かず、どれだけ無謀な要求なのかを実践して見せることにした。


「まず食材を出すよ」


 大切な品だということはわかっても、邪魔は邪魔。兄さんとあんちゃんを引き連れて貯蔵庫に入ると、アタシは左手に皿を、そして左脇の下に杖を挟んで、指輪のはまった右手を伸ばしてみせた。7歳児の120センチ前後の身長じゃ杖はズリズリ引き摺られる。力だって大してないから、つるりと研かれたお皿はお盆代わりだ。ちょうどイイとばかりに、豚汁と照り焼きの材料をのせていく。


「お前……」


「ずっと持ってろっつったのは兄さんだろ? 無理なもんは無理なんだから、アタシに預けたらどうなんのか、しっかり見てなよ」


「んー、フィーリの言う通りだと思いますよ? 依頼したのはジークマグナスなんですし」


「くっ……」


 一度では運べないから、合計三往復。

 正直、10日くらいなら作り置きした保存魔法レトルトでなんとかなる。けど、不測の事態は起こり得るから、ジークの兄さんにはアタシの本来の作業を基準にしてもらおうと思う。


 味噌仕立ての豚汁にはボア肉と根菜をたくさん。ダシはもちろん粉末状にした小魚だ。せっかくだから、麦粉を練ったすいとん団子もいれてボリュームを出す。

 照り焼きは定番オルニ肉で。酒、魚醤、果物の汁、酒を混ぜたものをタレにする。仕上げには、マンドレイクの葉のソテーを添えることにしようか。


「まったく、邪魔だね!」


 左手のお皿からは、多少なら手を離してもイイと言われたから、裏返してまな板替わりに。指輪は元々そんなに気にならないけど、とにかく、脇に挟んだ杖が邪魔だ。


「なんということを……由緒正しき覇魔の錫杖が……」


 兄さんがなんだか妙な動きをしてるが完全無視。それどころじゃないんだよ、こっちは。


 マンドレイクを含む根菜を切り終え鍋で煮込み始めると、アタシは今度はお皿の裏でオルニ肉を処理していく。

 あ、イイこと思いついた。


「おい!?」


 せっかく持ってるんだから有効活用するべきだよね?

 アタシは一度お盆から手を離し、杖をザバザバ水洗いする。それから、ふきんをかけた肉を杖で追い切りゴンゴン叩いた。……うん、テコの原理だね。そこらの擂り粉木よりよっぽど使い勝手がイイよ、コレ。初めて役に立ってくれたね。


 あはははは!


 ガンガン叩いて繊維を潰し、次々とオルニを柔らかくしていく。オルニはクセがなくて美味しいけど、そこそこ巨大な魔鳥だから、部位によっては筋張っているのが難点だ。


「あぁ……ったく面倒だね!」


 オルニの筋切りが終わってしまえば、杖はまた邪魔な棒。余計な重りを持って動くのに疲れたアタシは、デザートは諦めて貯蔵庫の作り置きプリンを出すことにした。

 それでも、お皿も杖も、常に触っていようと思えば煮たり焼いたりのお邪魔ムシ。

 あのさぁ兄さん! 鍋の蓋を取って木杓子でアクをとろうとするだけでも両手使うんだって知ってたかい!? まっったく、余計な作業のせいでボア肉切るの忘れちまったじゃないか!


 豚汁じゃない、ただのお味噌汁になっていく鍋を苦々しく見ながら、アタシは家宝のお皿に入れた麦粉をこね、すいとん団子を作っていく。ねちょねちょしていた粉と水が捏ねる度に固まって行く様はやっぱり楽しい。ボアを入れ損ねたイライラが少し和らぐ。

 アタシのばあちゃんは東北の出身で、よく「ひっつみ」を作ってくれた。こちらの素材じゃ完全再現は難しいけど、それでも、すいとんは懐かしの味。たまに無性に食べたくなる。


 もういっそ、澄まし汁にしてホントにすいとん鍋にしちゃおうかねぇ。……でも照り焼きと被るから、やっぱりお味噌、使いたいよねぇ……。


「ちょ……っと、待て!」


 イライラ解消に、洗った杖の先で味噌樽を混ぜていると、ジークの兄さんが汗を垂らしながらアタシの手をおさえた。

 ん? この部屋そんなに暑くないよ? ……って、


「痛っ!」


「ジークマグナス、フィーリに何を!」


「あ、あぁ……すまない」


 190センチ近い成人男性の、しかも魔族の手で握られれば、アタシの腕なんてあっさり複雑骨折確定だ。小枝のようにパキリと折られ……っていうより、握りしめた線香みたいにボロッボロになるだろう。あんちゃんが護衛の役目を果たしてくれて、ホント良かった。


「しかし…………お前、最低だろ……」


 アタシの手から奪い取った杖の匂いをクンクン嗅ぎ、兄さんは嫌そうに顔を歪ませた。


「……ぷっ」


 そのあまりな顔に、あんちゃんが楽しそうに笑い出す。

 ……うん、確かにおもしろいね。すかしたイケメンらしからぬ変顔だよ。顔の筋肉、自由過ぎだろ。


 ……ってか、嗅ぐまでもなく、味噌臭いに決まってるから。やっぱ残念な子だね、この兄さん。残念なイケメンか。……うん、まぁ、需要はありそうだから、頑張って。


急に暑くなったり雨が降ったり……

今年は夏風邪やそれに類する病気、流行ってるみたいですね……


皆様、ご自愛ください

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