フィーリ、魔喫だと知る①
「……お前の料理は何故に食えるのだ?」
ルフの尻尾が貯蔵庫に消え行くのを見送ると、突然後ろから、独り言のような声がかかった。
「……気配がないってぇか神出鬼没ってぇのか……ジークマグナスさんはホント、空気だよね。……あ、悪口じゃないよ」
振り返ると案の定、宿を真似て作ってもらったカウンターに寄りかかるジークマグナスの兄さん。つーか、名前、長いね。うーん……ジークの兄さんでイっか。
ジークの兄さんは、あんちゃんよりも背が低い。とはいえ、190cm近くはあって、すらりとしている。いつもゆったりとした服を着ていて、見るからにモデル体型だし、モデル顔。
なんと言うか、影のある美形って感じだ。いやぁ、女ウケ最高だろうね、この兄さん。居るだけで美女がホイホイやって来そう……空気になっていない時なら。なんだって、影はあるのに存在感は希薄なんだか。不思議なヒトだよホント。
「ガンドルヴの大雑把さは変わらんな。これほどの疑問を放置するなど、むしろ俺には信じ難い」
……あ。ガヴのあんちゃんが存在感有り過ぎるのか? ……いや、それにしてもさ……。
こうして面と向かって話していても、油断すると一瞬見失うことがある。声が聞こえている時はイイけれど、会話の隙間が特に危ない。
「悪いが何言ってんのかさっぱりわかんないね。あんちゃん、かなりマメな質だと思うけどね。あ、ところで何か食べるかい? 夕飯にゃ早いが、食べに来たんだろ?」
ゆったりとした服とトータルバランスで誤魔化されるものの、ジークの兄さんは実のところかなりの痩せ型だ。がっちりしたあんちゃんと並ぶと華奢な印象すらある。種族特性とか体質なら仕方ないが、不摂生だったり過労だったりするなら、改善してやらなきゃならない。
ふふっ、腕が鳴るね。男の子ってのはしっかり栄養取ってバランス良く成長しなくちゃいけない。いざって時に大切なモン守れなきゃ困るだろ?
「不要だ」
「そうかい? てか、んじゃ何しに来たんだい」
別に太らせたいわけじゃない。台所を預かる身としちゃ、もう少し健康的にしたいだけ。
とりあえず摘まんでもらおうと戸棚から作り置きのビスコッティを取り出した。
「……疑問は放置できない質でな。お前、魔喫だな?」
「あ? 麻酔?」
「黒髪黒目……人間にしては珍しい毛色だと思ったが……」
ふと視線をやれば、何を思ったのか、兄さんが真顔でアタシを凝視している。
漆黒の瞳が暗くて鋭いから、かなり怖い。
いくら精神年齢アラフィフのアタシでも、自分よりもかなり大きな大人に睨まれると落ち着かなくなる。魔族の中に紛れ込んだ人間の子どもなど、小動物も同然だ。
ま、落ち着かないだけで「だから何?」って感じだけど。
「お前、そもそもなぜ魔王領にいる」
「は? なんだいその今更な質問。あんちゃんから聞いてないのかい?」
「お前について既知のことは、種族、名前、容姿の他は、原生林区の宿で料理人としてドヴェルクや人狼と暮らしている、ということのみだ。その他は知らん」
「ふーん。ま、隠すことでもないけどさ」
食い入るような兄さんの瞳。なんだか急に興味津々だね? アタシは、ルフが採ってきてくれたウキの葉を微塵切りにしつつ、口を開いた。
カウンター越し、視線を外しながらでないとさすがに気恥ずかしい。
「生まれてすぐ、捨てられたらしくてね」
本当は全部覚えてる。朧気ながら実母の顔も。けれど、それを話すと、アタシが前世からずっと記憶と意識を保っていることも話さなくてはならなくなる。
だから、
「人間の国から原生林区に投げ込んだんじゃないかって。運良くルフ……人狼族のさ、が見つけてくれて、滞在してた宿屋に連れて行ってくれたそうだ。で、ありがたいことにの女将のミョルニーが、アタシを育ててくれたんだよ」
「……なぜ捨てられたのか知ってるか?」
「さぁ? あ、でも、この間、珍しく宿に人間のお客が連れられて来てさ。アタシのこと『忌み子』って言ってたよ」
すべてを伝聞系にして話すしかない。
アタシだって、いらぬ面倒を避けるための保身くらいする。あんまり楽しい話じゃないしね、残念ながらさ。
ようやく、イケメン×2が活躍し始めました




