フィーリ、開店準備をする
「こんなもんかねぇ」
アタシはようやくパンパンになった貯蔵庫を眺めた。
ジークマグナスさんが付けてくれた扉は、時空魔法で「光の洞穴亭」の貯蔵庫に続いている。行き先固定の某四次元扉みたいなもので、めちゃくちゃ便利。
噂によれば時空魔法の使い手は希少も希少だそうだから……うん、二人には何かお礼しなくちゃねぇ。感謝カンシャ。ほら、親しき仲にも礼儀あり、って言うだろ。
「ん。なかなかイイ感じじゃないか」
それに今回は、ふとした思いつきで貯蔵庫を拡張してもらった恩もある。宿と店、両方の台所を賄おうとすれば、あのままの貯蔵庫では心許ない。
新らしく設置した扉はジークマグナスのにぃさんの仕事だが、貯蔵庫は保存の魔法をかけてくれてたあんちゃんの担当領域。共同作業で試行錯誤……かと思いきや、希少性や難度が迷子になるくらいあっさりと調整してくれた。二人とも、アタシが思ってる以上にとんでもない大物魔族なのかも。……いや、大物なのは知ってたよ? あの豪邸だし。ただ、それにしても、ねぇ? …………どうもありがとうございます。
「さて、と。……うん、こっちも問題ないね」
貯蔵庫に繋がる扉の横には、狭い備蓄庫への扉。とんでも魔法で繋がったとはいえ、食料を遥か遠方の原生林区にのみ置いておくのはちょっと怖い。アタシの心の安寧のためにも保険は大事だ。にぃさんを信用してないわけじゃないが、念の為、王都の店の一室も備蓄庫に改造してもらった。もちろん、あんちゃんの保存魔法付き。
バザールでの買い出しを終えてから、アタシは貯蔵庫の物品で簡単なご飯を作りつつ、暇を見ては肉や野菜の加工に精を出していた。
アタシが大人なら、貯蔵庫経由で移動して、宿にも食堂にも問題なく三食提供できただろう。多少時間をずらせばアタシ一人でどっちも賄える、それは明白。だけど、残念ながら現実のアタシのこの体じゃ、両方を駆け回ることは難しい。大鍋料理を持ち運ぶ腕力だってないから、毎食どっちかでまとめて調理することすら、非現実的。
さてどうしよう、とない知恵を絞って考えた結果、レトルトパック加工をして料理をストックしておくことを思いついた。
皿に盛るだけの状態にして貯蔵庫へ。王都に来る時ミョルニーに託して来た作り置きが、この世界流のレトルトパックだ。まぁ、簡易版というか便宜上そう呼んでいるだけというか……実態は一食分ずつ袋に入れただけ。
レトルトとか言いつつ、ぶっちゃけ貯蔵庫の性能有りき。小分けする手間がかかるせいで、急いでいたあの時には数があまり作れなかった。けれど、その有用性は証明済み。ミョルニーからの評判もかなりイイ。
定番メニューにサイドメニュー、この加工作業ばかりはアタシが一人でやらなきゃならない。角銀貨3枚分の物品を加工するのに、必死でやって17日かかった。保存魔法がなければレトルトどころかあっさり腐ってしまっていただろう。ホント、感謝。
……って、いや? よく考えてみれば……王都に店を開くハメになったのはあんちゃん達のせいなんだから、便利魔法くらい頑張ってもらって当然か……? ……ん??? …………ま、とにかく持つべきものはあんちゃんだ。
「あ、フィーリ、ここにいた! 頼まれウキ、採ってきたよ! これで足りる?」
「お? うん、ありがとよ。まさかこっちに生えてないとは思わなかったからねぇ」
王都に来た日、別室にいたルフはアタシ達に置いて行かれ、夜まで放置だったらしい。正直アタシもキャパオーバーで、あんちゃん達が帰る時にようやく思い出したくらいだ。ホント、ルフには可哀想なことをしてしまった。せっかく付いて来てくれたのにね……。
今は、「光の洞穴亭」の自室を拠点にしつつ、原生林区と王都を行ったり来たり。今まで通り、原生林区で狩りをしつつ、王都に遊びに来たりして、好奇心の赴くままに過ごしている。
「あ、そうだ。エゴク豆の群生地見つけたんだけど、要る? 寒季間近だから、味は薄いかもしれないけど……」
「あぁ、頼むよ。いくらあっても足りないからさぁ」
味噌の原料となるエゴク豆はアタシにとっては貴重品。こっちでも買えるんだろうが、貯えを考えれば極力、調味料はこれまでのように自作したい。
市販品に染った魔力は、時間の経過を待てば誰でも食べれる。ただ、貯蔵庫に入れてしまうと魔力も保存されてしまうから、結局、素材で買って自分で加工していくしかない。
めんどくさいけど……やるしかないよね。女に二言はない。店を開くと決めた以上は頑張るよ!




