フィーリ、少しずつ理解する 後
「ミョルニー達は……」
「ジークマグナスが作っていた扉が『光の洞穴亭』の貯蔵庫に繋がっています。フィーリの許可さえあれば、ミョルニーもこっちに来れますし、フィーリが帰るのも簡単です。二階の廊下に、温泉の通路への扉も作りますし」
「アタシの仕事は……」
「こちらを生活拠点として、『光の洞穴亭』と『光の王都亭』の食事を賄うことですかね」
「なんだい、その王都亭ってヤツは……。『光の洞穴亭王都店』でイイじゃないか」
「……まぁ、イイですけどね」
それぞれの観点が違うのか、アタシとあんちゃんは苦笑し合う。なんかイマイチ会話が噛み合ってないのがまた、ね……。
とりあえずで腰をおろしたのはそんなに大きくない長椅子。だから隣に座ったあんちゃんの顔はすぐそこだ。けど、まぁ、あんちゃんだし。緊張もしなければ嫌でもない。
「とりあえず、ミョルニーが『やってみ』って言ってる以上、アタシはここで生活してみるよ。それがうまく行かないようなら相談する」
実はあんちゃんは前々から、ミョルニーに「フィーリを王都で生活させたいと思います。広い世界を見せてあげたいんです」と言い続けていたらしい。保護者であるミョルニーの許可をもぎとったと言うあんちゃんから、アタシは「ミョルニーは、『いろんなこと、まずはやってみ』と言ってました。フィーリの可能性を伸ばせるなら、ボクに任せてくれるそうですよ」と聞かされた。
アタシにとっては突然で唐突でびっくり仰天のお引っ越しイベントだけど、あんちゃんの中では、念願叶ってと言うか、計画通りと言うか……とにかく、突然でも何でもなかったらしい。まさかそんな前から掌の上だったとは。
「それがイイです。ボクはいつでも相談にのりますよ。本当はボクの家に住んで貰いたかったんですが……ジークマグナスの協力を取り付ける以上仕方ありません。でも、寂しくなったらいつでも来てくださいね?」
あんちゃんよりも時空魔法が上手らしいから、アタシとしてはジークマグナスさんが協力してくれてありがたい。彼じゃなきゃ、遠く離れた原生林区と繋がるドアは作れなかったと聞けば尚更だ。
「ありがとよ。まぁ、習うより慣れろってね。なんとかなるだろ。……さて。こうなったからにはあんちゃん、覚悟しなよ? なんだってしばらく会わないうちに窶れてんだい。ニコニコしてるから気付かなかったじゃないか」
こうして近くで見ればよくわかる。バラクさんが心配してたワケ。赤銅色の肌の目元が黒ずんでいる。
「ジークマグナスさんなんてガリガリだし。あんちゃんらの食生活、ホントあっさりし過ぎなんだよ」
「あはは。気付かれちゃいました?」
「あははじゃないよ! いいかい、少なくとも毎日朝夕は食べに来ること! 忙しくて来れないってんなら、誰か家のヒトに取りに来てもらいなね」
アッフェタルトさんが出してくれた朝食は、オートミールに焼いた肉、生の野菜に塩をかけたものだった。当然、全部冷めている。パンは練る過程で魔力に染り過ぎるから、多種族が働く場所では出せないらしい。「できること、ホント少なくてぇ。メニュー考える係? って感じぃ」と笑っていた。それでイイのか料理長。
「アタシが来たからにはあんちゃんに健康的な食生活を送らせてみせる。今更後悔しても遅いからね」
ビシッと指をつきつけて宣言すれば、あんちゃんはふにゃっと相好を崩した。
「大歓迎です」
……不健康の自覚があるのはまぁ、イイこった。
さて。やるからにはとことん、だよ。流されたからにはどこまでも波に乗ろうじゃないか。
「光の洞穴亭」王都食堂支店、始動!!




