フィーリと勧誘②
「そなた、王都を……それどころか大恩あるガンドルヴ様を見捨てる、と申すか……?」
「人聞き悪いね。そもそもアタシが行って、ホントにあんちゃんは元気になるのかい? 行き違いってこともないんだろうね?」
なんでアタシが呼ばれたのか、その説明が欲しい。
「ガンドルヴ様は現在非常にご多忙で屋敷から離れられん。痛々しくも不調を押して責務をこなしておられるため、こうして恥を忍んで頼みに来た所存である。是非そなたには専属の料理人となって欲しい。この急場のみで構わん。なんとか我が主に飲食させたいのだ」
「……まぁ、そんなトコだろうとは思ったが……。……料理人、居るんだろ? アタシなんか入れたら、そのヒトのプライド傷つくんじゃないかねぇ。あ、今ここで器に詰めるからさ、バラクさん、持ってったらイイんじゃないかい?」
あんちゃんは心配だが、やっぱり、バラクさんの言う「ガンドルヴ様」とガヴのあんちゃんが結びつかない。あんちゃんて別にそこまで気難しくないと思うんだけど。うーん。
この赤鬼さんが嘘ついてないって保証、ないんだよね? 新手の誘拐事件だったらどうしよう。
「ボクも行く」
「……え?」
アタシが「光の洞穴亭」から出るなんて、旅行ですら想像がつかない。正直、どう言われようが後込みしてしまう。なんとか行かないで済ませられないものか……。
なのに突然、それまで食堂と厨房を不機嫌そうに行ったり来たりしていたルフが思いがけない主張をするものだから、アタシは一瞬、何が起こったのか理解できなかった。
「へー? まあ、えがすよ。ガヴさんさ恩があんのはホントだしな。ルフ、連れてけ」
「…………え?」
「やったぁ! フィーリ、ボクがちゃんと守るからねっ!」
「……すまぬがよく聞き取れん。どうなったのだ?」
「えぇっ!?」
ちょっとミョルニー! 何が「良いよ」!?
ルフのびっくり発言が受入れられたことに驚いて、アタシはとんでもない大声を挙げてしまった。
だって……それって当然、アタシも王都に行く前提だよね?
「ミョ、ミョルニー……? 宿、どうすんのさ」
「まんずまんず。寝床と温泉さあんだから」
「え……だって……」
「気になんなら作り置きさしてけ。袋さ分けて入れとけば、そのまんま出せんべ?」
手間ではあるが一食ずつ小分けにして貯蔵庫に積んでおけ、とミョルニーは笑う。ニカッと笑った顔は、ルフ同様、確かにアタシが王都に行くことを前提としていた。
「ガヴさんだん、ほっとけねべ? フィーリは行くよぉ。思った通りさしろな?」
「…………あぁ」
あんちゃんには散々お世話になっている。ちょっと状況はよくわからないけど、アタシが行くことで、具合の悪いあんちゃんの慰めになるなら、行くべきだ。
そもそもミョルニーがアタシと引き合わせたってことは、バラクさんの言うことはある程度信用できるんだろうし…………。
「……バラクさん、王都ってのは遠いのかい?」
「馬車だと約20日だ」
「は!? あんた、そんなにかけて来たのかい!? てか、そんなに離れて大丈夫なもんなの!?」
「竜車なら朝一に出てこの時間には着く」
「竜車……??」
聞き慣れない単語に、ルフと顔を見合わせる。
「竜の匂い、しないよ?」
オジサンからいけ好かないヤツの匂いはするけど。とルフが銀色の毛皮を揺らしてあちこちを見た。
「ふん。竜車は上空で待機しておる。いかに犬族の鼻をもってしても無理だろう」
「犬族じゃないもん! 人狼族だよ!!」
「ほぉ? このサイズの犬型は犬族に決まっておろうに……?」
グルルルルといきり立つルフを撫でて抑え、バラクさんには本筋に戻すよう竜車の説明をお願いする。
よくわからないけど、この二人、気が合わなそうだ。
「つまり空を移動するってことかい? アタシ、高いトコ苦手なんだが……」
「ボクが守る!!」
「ルフ。便りにしてるからちょっと待ってなね。あんたの大事な出番の前に疲れ果てちゃったら困るからさ」
「竜車はワイバーンの胴から吊り下げた車体に乗るのだ。索敵のため、四方の見晴らしは良いが、壁はあるので問題ない。特に今回は、夜間に移動を開始し、明朝には屋敷に着く。寝ていれば良かろう」
寝て行けるのはありがたいが……
「…………明朝? ……って今夜出るのかい!?」
「可能なら今すぐ出たいところだ」
「だって……作り置きしなきゃだし……」
「日用品や着替え、その他必要なものは向こうで用意するので荷物は不要だ」
アタシを置いて、みんな行く方向で話を進めている。とはいえ、今夜というのは急過ぎる。
助けを求めてミョルニーを見ても、
「急げばいんだべ?」
さっさと厨房に行けと急かされる。えぇっ!?
「ちょっ……じゃあ、とりあえず作り置きするけど、終わんなくても知らないからね!?」
「あぁ、えがすよ。バラクさん、風呂さ入って待っててやってけさいん?」
「風呂……ガンドルヴ様から伺ったことがある。案内を頼めるか?」
「ルフ。行ってけろ」
「ボク!?」
……あぁもうっ!!
こうなったら…………待ってろよ、あんちゃんっ!!




