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おかん転生 食堂から異世界の胃袋、鷲掴みます!  作者: 千魚
3 光の洞穴亭 in 救民街
103/136

初めての炊き出し(後)

更新が不定期になっております(+o+)


それでもお読みくださる皆様、

本当にありがとうございます<(_ _)>

「飾り切り、と言うのじゃな? まさかマンドレイクがモンドの花になるとは思いもよらんかっ………………マンドレイクじゃと!?」


「あぁ、嫌いだったかい?」


「いやいやいやいや! 本物かぇ!?」


「そりゃね。アタシの実家の方じゃ珍しくもないからさ。ねぇ、ミーチャ?」


「う? ……めずらしくない、シチュー」


「………マンドレイクを無料で…………? こりゃ、夢か……?」


 食堂に来る客の反応から、原生林区と王都では採れるものがかなり違うのだろうとわかっていた。物価も需要もまったく違う。だから、価値観が違うのも当然。何かしら驚かれるだろう、と覚悟はしていた。なんせ、見たこともない料理を、見たこともないヤツらが振る舞うんだから、常識人には許容できない事態だろう。


 けど…………なんか、想像以上の大騒ぎになってるんだが!


「マンドレイク……」


「……マンドラゴラ……」


「ごくごく希少な……」


「奇跡の薬……?」


「ひぅ……っ……なんか、こわ……っ!」


「ミ……ミーチャ、下がっておいで。なんだかみんな、様子がおかしいね」


 ホラー映画のゾンビの群れ。その恐怖もかくやと言う様子でブツブツと呟きを垂れ流し、目を異様に光らせた人垣がじりじりと近付いて来る。すがる思いでチャニ先生を見るが、こちらはなぜか、夢見る乙女みたいな表情カオであらぬ方向を仰ぎ見ていた。

 ちょっと……状況の変化について行けない。


「フィーリ……っ」


「大丈夫、アンタには触れさせないよ」


 四方を囲まれ逃げ場がない。

 最悪、熱々のシチューをぶちまいて怯んだ隙に逃げ出そうか……なんて物騒なことを思っていると、


「ァオーーーン」


 ふいに近場で、聞き慣れた遠吠えが上がった。大きな音に驚いた人達が反射的に歩みを止める。


「ルフ!!」


「ただいま、っと」


 ポーン、と軽い動きで人の壁を飛び越えた、眩しい塊。日差しに輝く、白銀の美しい狼。


 ほっそりとしなやかな体躯は若さを思わせるが、既にアタシの知る大型犬よりも大きい。直立すれば、ジークの兄さんと同じくらいの身長はあるだろう。

 兄のような、弟のような彼。この数年で急に大きく強く成長し、随分と頼りがいが出てきた。特にこんな時には、ヒーローのようにすら思える。


「ルフぅ、おかえりーっ」


 ニパッと笑ったミーチャがタタタと駆け寄り、その首筋に抱きついた。柔らかな被毛に顔をうずめ頬ずりする姿は平和そのもので、こんな状況にも関わらず苦笑がこぼれる。だって、あのルフの顔!


「ちょ……ミーチャ、離れて……」


「ルフ、戻って早々悪いんだけどさ、ちょっと手伝ってくれないかい?」


「フィ、フィーリ!? あ、いや、これは、その……っ! …………手伝う!!」


「ありがと。んじゃ、このヒト達を一列に並べてくれるかい?」


「うん!!」


 ブンブンと勢い良く振られる尻尾。そのままくるりと向きを変えようとして、「あ!」慌ててアタシに向き直る。


「忘れ物をさらに忘れちゃうトコだった!」


 お座りの体勢から器用に前足を使い、ルフは首に下げていた袋を下ろした。

 シンプルなポシェットのはずなのに、ルフが持つとサイズ感の問題でお守り袋にしか見えない。加えて言えば、毛がふかふかと厚いうえに長さもあるから、すっかり埋もれて見えてなかった。


「あ、あぁ! 助かったよ。これがなきゃ、カッコつかないからね。危ない危ない」


「相変わらず妙なトコがすこんと抜けてるよねフィーリは! 変わってなくてホッとするけどっ」


「あはは。助かってるから、もう一仕事たのむよ」


 そりゃ嫌味か? と苦笑しつつ、アタシは受け取ったポシェットからごそりと紙束を取り出した。


「こっからが本番だよ、ミーチャ。これ、頼んだからね?」


 そして、紙束をそのままミーチャの手に握らせる。こくり、と力強く頷いたエプロン姿の狸耳娘は、小走りで人の波をぬい、救民地の繁華街へと姿を消した。


 ビラ配り。

 この場だけで終わらないよう、そして炊き出しの口実に真実味が出るよう、人垣の向こう側でミーチャには小さな紙切れを配ってもらう。「ほらあなてい」と読みやすい文字が書かれた紙片には、食べ物の絵と、簡単な地図。ガヴのあんちゃんが探してくれたその場所は、これから救民地で活動と拠点となる倉庫。

 食べ物を貰いに来るのもイイ。仕事をもらいに来るのもイイ。ただ、お喋りしに来るでもイイ。興味を持ってもらうことが、アタシ達の目標への第一歩。それには、人間のアタシよりミーチャの方が適任だろう。


「チャニ先生、悪いが少し横にズレてくれるかい? ぶつかったら危ないよ。あ、ちょっとそこのグレーのお兄さん。はい、これお兄さんの分ね。これからたぶん、滅茶苦茶混むからさ、チャニ先生と安全な所で食べとくれ」


「な……ぐ、ぐれー?? う……む……」


 立派な狼の歯を剥いたうなり声に、興奮していたヒト達が少し落ち着きを取り戻し、列を作り始めていた。この様子なら、間もなく配り始められそうだ。

 今まで特に意識したことがなかったが、この感じ、どの器にもマンドレイクが入るように気をつけなければならないだろう。そんなに貴重だったのか、あの雑草。宿の宿泊客の様子から、結構需要のある野菜だとは思っていたが、ここまでだとはね。

 ある意味ドン引きなくらいの勢いで、整然とした列が伸びていく。


 うーん……やっぱりお代わりはさせてあげられそうにないねぇ。最後までもつかも怪しいもんだし。

 ぐるり、鍋をかき混ぜながらアタシは静かに気合いを入れた。ま、こんぐらいの人数なら、やりがいがあるってもんさね。家庭料理にゃもったいないくらいの大舞台だ。


「さぁっ、『洞穴亭』の炊き出しだよ!! お代は笑顔でイイからね! あ、ほら、熱々だから気をつけて!!」



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