100項記念閑話 初めての炊き出し(前)
遅くなりましたが、本年もよろしくお願いします
そして、こちらも遅くなりましたが、閑話です
「さ、『洞穴亭』の炊き出しだよ! 子どもも大人も寄っといで!!」
「よっといでっ」
林檎くらいの大きさの木の実をくり抜いた器に、お玉でシチューをよそっていく。
湯気の立つトロットロのホワイトシチューからは、なんとも食欲を誘う香りが立ち上っていた。
「ほら、早くしないと冷めちまうよ! 開店記念のスペシャルサービス、今だけ無料! 今後とも『洞穴亭』をご贔屓に!!」
「スペ……さーびすっ」
王都の最端に広がる救民地。その、ほぼ中央にある狭い広場で、アタシとミーチャはお玉片手に呼び込みの声を張り上げていた。
兄さんから救民街や救民地のことを教えてもらって以降、ずっと考えていた支援活動の、記念すべき第一歩がこの炊き出しだ。
今日この日を記念日として登録してもらいたいくらいの一大事。だって、ここに至るまで、ホント……泣きたくなるくらい大変だった。
「ご苦労さんじゃな」
怪訝な面持ちで遠巻きに眺める人達の間から、一人の女性が歩み出て来た。腰の曲がった、老齢と言っても良いだろう彼女は、この辺りの顔役の一人。
「どれ、一つ貰うとするかのぉ。そうそう、キノコは入っておらんじゃろうな?」
「ははっ! 相変わらずキノコは苦手かいチャニ先生? それにしても久しぶりだね。先生、かなり忙しかったらしいねぇ?」
「おんや、耳敏いことじゃ。いかにも、トーイから流れて来たヤツらがあんまりにも無学なんでの。ビシビシ鍛えてやってたのよ」
ほっほっふぉっ、と高笑いするチャニ先生は、救民地で唯一の学校を開いている
とは言っても、寺子屋規模。ただし生徒は子どもから大人まで幅広い。教えて欲しいと言うヒトがいて、尚且つ教えられることであるのなら、チャニ先生は学問もマナーもどんなことでも教えてくれる。
遠巻きな輪の中にも彼女を慕う者は多いのだろう。突き刺さってきていた不信の視線が和らいだ。チャニ先生と気軽に話せる関係は、この地では値千金。
たまたま気が合った偶然は、アタシを大いに助けてくれた。
「ところで、その子は? いつもの仔狼はどうしたのじゃ?」
「ルフはもうすぐ戻って来るよ。ちょっくら忘れ物を取りに行ってもらっててね。んで、この子はミーチャ。アタシの娘……いや、妹……姉? みたいなもんだよ。店番も任せられる優秀な子さ」
ゴーゴン族にあっても極めて高齢だと聞くチャニ先生。本人はまだハツラツとしているつもりらしいが、髪の蛇はウツラウツラと揺れていることの方が多い。
ミーチャは一回紹介したことあるんだけどね……。魔族とはいえ、さすがに歳には勝てないか。
目配せするとミーチャはコクリと頷き、シチューを注いだ。それは事前に打ち合わせた規定量よりも少なめ。多少傾いてもこぼれない、安全な量。小食なヒトでも食べきれる量。
ミーチャ、成長したね……。マズい、涙が出そうだよ……。
「どぞ」
「ほぉ、これは何と言う料理じゃ?」
「ほわいとシチュー、です」
「匂いは良いがドロッとしておるのぉ。どれ、一口」
あぁミーチャ……こんなたくさんのヒトが注目してる中で堂々と……偉いねぇ。ホント、立派だよミーチャ。なんて誇らしいんだろうねぇ……。
「あついから、ゆっくりね?」
「わかっておる、わかっておる。これだけ湯気が立っておればのぉ、ばばぁ扱いするでない。
しっかし、こんな往来で湯気の立つ汁を見る日が来るとは不思議なもんじゃて。それを食べるのじゃから尚更よのぉ」
「おかわり、あるよ」
「ほっほっふぉっ! せっかちな娘じゃ。食べてから言え」
どうやら今日はご機嫌が最高潮に麗しいようだ。彼女の独特な高笑いに呼ばれたのか、人垣が厚みを増している。
今回の炊き出しの目的は、少しでも救民地の住人の信頼を得ること。今後の炊き出しを安全かつスムーズなものにするため、そして、いずれ職業斡旋を行うため、下地を造る。
しかし、王都の救民地は貧しくともそれだけで一つの街として完結している。きちんと申請すれば永住が認められるし、何かしらの仕事が転がっている。
だから、本当に職業斡旋事業を展開するのは、主要都市にある救民街になるだろう。追い出される可能のある救民街の方が、支援の手は必要だ。
言葉は悪いが、救民地での活動は救民街のための実験でもある。
「む……」
ふーっ!! と一息で冷ましたシチューを口に放り込んだチャニ先生が、細い目を見開いた。
「なんじゃ……これは……」
「白いのはミルクのせいさね。とろみは麦粉を使ってる。栄養価はばっちりだよ。どうだい? うまいだろ?」
一般に食べられる、ただ煮ただけのスープより数倍手間がかかっている。たっぷりのバターで炒めた麦粉に特濃タウロ乳、ゴロゴロ野菜とホロホロオルニ肉。もちろん、下拵えだってばっちりだ。
ちなみにベースはコスパ最強鶏ガラスープ。食堂で振る舞ったローストチキンの骨を軽く洗ってからじっくり煮込んだ。正確にはクッドゥという鳥だが、あら不思議。灰汁を取れば、まんま美味しいガラスープの出来上がり。
昔の我が家では、クリスマスの残りガラを茹でたスープでラーメンを作るのが定番だった。市販の生麺を茹でて、付属のタレをスープで伸ばして……。あの味、そこらの店には負けないって思ってたっけ。
個人的にはシチューはオンライスで食べちゃいます
でも、本格的のルーから作るとなぜか市販のものよりガッツリずっしり重くなって……
現代人で良かったなぁと陳列棚を眺める日々です




