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第8話 半神の英雄(候補)は女神様に戦いを挑む

 レオニダスは半神である。

 

 彼の母親はアルティシーナ王国の美しい姫であったが、その美しさに目をつけたディシウス神に夜這いされた。

 双方の間で合意があったのかは、レオニダスは知らない。


 彼の母親はレオニダスとアレクサンドラの二人を産むのと同時に死んでしまったため、レオニダスは自分の出生の経緯については詳しくは知らない。


 レオニダスとアレクサンドラが半神、つまりディシウス神の子であることを知る者は名目上の父、義父であるアルティシーナ王と、鋭い慧眼を持った神官たちだけである。


 レオニダスにとって、己の体に流れるディシウス神の血はコンプレックスであった。


 自分は父の実の息子ではない。

 その事実はレオニダスの人生に重く圧し掛かり続けていた。


 ディシウス神の子であることは知らずとも、レオニダスが王の子ではないことは王宮の中では知られていたのだ。

 そのため日々、陰口を叩かれていた。

 

 母親からの愛を知らず、父には疎まれ続け、兄弟からは蔑まれ、王宮では腫れ物扱いされる。

 実の父であるディシウス神と、ディシウス神に体を許した母を憎んだことさえあった。


 また、この血は恐怖でもあった。


 またレオニダスには常に、ディシウス神の正妻、嫉妬深き女神ユーラに呪われるのではないかという恐怖があった。

 今、自分たちが無事なのはユーラ神に見つかっていないからであり……見つかればただでは済まない。

 そしてあのユーラ神がいつまでも浮気相手の子供を見過ごし続けるとは思えなかった。

 

 しかし……コンプレックスや恐怖という感情に比例するように、己の血を誇る気持ちもまた存在した。


 ディシウス神は男性美の象徴である。

 男神の中ではトップレベルで美しく、その美貌は全ての女性を魅了する。

 また全知全能であり、その怪力は山脈すらをも軽々と砕き、その最強の一撃は宇宙をも燃やし尽くすと言われている。


 そんなディシウス神の息子であるレオニダスは、その美しい容貌と叡智、そして強靭な肉体と武術の才能を受け継いでいた。

 赤子の時には既に大蛇を絞め殺し、幼児の時には獅子を殴り殺し、少年となった時には竜すらをも蹴り殺せるほどの膂力がその身に宿っていた。


 ハッキリ言って、驕りがあった。

 しかしそれも当然のことである。


 何故なら今までレオニダスは己よりも強い者に出会ったことがない。

 全力で戦ったことすらもない。

 

 故に……最初に彼女(・・)を見た時、沸き上がったのは期待であった。


 女ではあるが、己と同じ半神、異母兄妹である。

 もしかしたら……己と同じだけの肉体と武芸の才を持っているのではないか。


 そしてその槍捌きを見た時、沸き上がったのは歓喜だった。

 ああ……彼女ならば、自分と戦える。

 全力で、初めて全力で戦うことができる!!


 故に、咄嗟に言葉が出た。


 「ティシア! 俺と試合をしてくれ」

 

 


 



 レオニダスに試合を挑まれたティシアは暫く思案した。

 ティシアには葛藤があった。


 一つは女神として、姉としての、挑まれたからには背中を見せるわけにはいかないという神としての意地、プライド、自負。


 もう一つは、果たして半神に勝ってしまう女の子は「普通の女の子」と言えるのだろうか? という疑問である。


 ティシアは少し考え……アレクサンドラを見た。

 アレクサンドラは唖然とした表情を浮かべている。


 ティシア的にはアレクサンドラは普通の女の子である。

 ディシウス神の美貌と全知全能、膂力を一部受け継いでいるが……多分「普通の女の子」の範疇にはいるだろう。

 おそらく。

 きっと。


 じゃあそのアレクサンドラとまともに打ち合ったレオニダスに勝ててしまう女の子も、「普通の女の子」だろう。

 そうに違いない。


 ティシア、いや『叡智』の女神アルティシーナはそう結論付けた。

 

 「良いよ」


 ティシアはそう言って槍を軽く振った。

 するとレオニダスは好戦的な笑みを浮かべ、槍を持ち、ティシアの下へと歩いていく。


 教師たちは止めようとするが、二人に威圧されて、何もできなかった。


 「一応、聞くけどさ、レオニダス」

 「何だ?」

 「ハンデはいる?」


 聞かずともティシアはハンデを付けるつもりであった。

 つまり神としての神格は抑え込んだまま、権能は一切使わず、肉の体の能力のみで戦う。


 神として本気を出せば、レオニダスなど一瞬で肉片残らず消し飛んでしまうからだ。


 しかし……ここで言うハンデとは、さらにその肉の体の能力のみで戦うことに加えた、何らかの制限のことである。

 

 「……随分と舐めたことを言ってくれるじゃないか、ティシア」


 レオニダスはニヤリと笑った。

 つまりハンデは要らない、そういうことだった。


 ティシアは嬉しそうに笑い、言った。


 「そう……でも先手は譲ってあげる。どうぞ……どこからでも、どんなタイミングでも、お好きなように」

 「そうかい……じゃあ、遠慮なく!!」


 レオニダスは一割の力で、ティシアの腹に目掛けて槍を放った。

 もしティシアがレオニダスが思うほど強くなかった場合、全力で打ったら死んでしまう。

 故にいつでも静止できる、ギリギリの速度で槍を放つ。


 一割といえども、その槍の一撃は竜すらをも即死させられるほどのものである。

 アレクサンドラを除けば、その槍の一撃を目視できるものはいなかった。


 (……はぁ)


 ティシアはその酷く遅慢な槍を見て、内心で溜息を吐いた。

 どうやら発破をかけてやらなければならないようだ。


 あと少しで槍が腹に触れる。

 というタイミングでティシアは右手を動かし、槍を強く弾き上げた。


 そのあまりの速さにレオニダスの表情が強張る。


 ティシアは敢えて数拍、時間を置いてレオニダスの思考と体勢が整うのを待ってから、槍を振り下ろした。

 

 「全力で受け止めなきゃ、死ぬよ?」

 「な!!」


 辛うじて、レオニダスはティシアの槍を受け止めた。

 その衝撃は槍を通し、レオニダスの体を通し、そして大地に伝わり、地面を陥没させた。


 「とりゃあ!」

 「っぐ、はぁぁああああああああ!!!!」


 ティシアの可愛らしい気合いと、レオニダスの咆哮が響く。

 魔術で強化された二人の槍が、ミシミシと音を立てる。


 「わぁ!」

 

 ティシアが可愛らしい悲鳴を上げる。

 レオニダスがティシアの一撃を弾き返したからである。

 ティシアの体勢が崩れる。


 そこへ、レオニダスは槍を斜めに薙ぎ払う。


 今度は手加減無し。

 本来ならば片手で竜を縊り殺せるその怪力を、両手で、全力で、その一撃に乗せる。


 「――ォオオオオオオオ!!!!」


 レオニダスの咆哮。

 その槍は唸りを上げてティシアの体を引き裂かんと迫る。


 ティシアは不敵に笑った。

 槍を即座に引き戻し、その柔らかい肢体を巧みに使いすぐさま体勢を立て直し、最小限の力でその槍を弾く。


 レオニダスは目を見開いた。

 が、驚いている暇はない。


 神速の一撃がその顔面に迫りつつあったからだ。 

 すぐにレオニダスは体を逸らす。


 槍がレオニダスの頬を掠る。

 鮮血がゆっくりと垂れ落ちる。


 (俺が……怪我?)


 それは生まれて初めて感じる、切り傷の痛みであった。


 レオニダスは跳躍し距離を取り直す。

 そして乱れた呼吸を整えようとする。

 全身から汗が噴き出る。


 そんなレオニダスに対し、ティシアは一切呼吸を乱さず、汗一つすらも掻かず、涼し気な表情で笑った。


 「お姉ちゃんが敗北を教えてあげる。レオニダスお兄様」


 ティシアの双眸が一瞬、黄金に輝いた。


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