第一話 『理不尽な騎士達』
(……大丈夫……貴方なら、きっと………………自分を、信じて…)
声だ……聞き覚えのある、声…だが、わからない……今の俺には、ワカラナイ
ーーー
心地よい風が吹いているのを感じる。窓でも空いているのか…?
そう考えながら、重いまぶたをゆっくりと開く。
「……ん」
最初に目に映ったのは、自室の白い天井ではなかった。どこまでも透き通った、青い空だった。
寝ぼけているのだろう……
そう思いながら、瞬きをする。何度瞬きをしても、景色は変わらなかった。
「……どうなってんだよ、これ」
よく見ると、自分が寝ている場所は、ベットではなかった。とても柔らかい草を、ベットと感じていたらしい。
困惑しながらも、体を起き上がらせ、服についた土を落とす。
「制服ってことは……学校帰りか?」
おかしい、自分は確か、まっすぐ家に帰ったはずだ。だが、その時に持っていたバックが見当たらない。
そもそも何故自分はこんな場所で寝ていたのか、今何月何日何曜日なのか、ここはどこなのか、と、疑問に思っていることは次々と出てくる。
とりあえず、今は時間を確認しなければ、とズボンのポケットを探り、携帯電話を探す。いつも入れている右ポケットに入っておらず、反対の左ポケットに手を突っ込む。
「………嘘だろ……ハンカチしかねえ」
どこかに落ちていないか、周りを見渡す。だがどこを見ても、黒い塊らしきものは見当たらなかった。地平線の彼方まで、草原が広がっていた。
「仕方ない、今が何月何日というのは置いといて……ひとまずここがどこなのか……」
といっても、草原が広がっているのと、空にいくつか浮島が浮かんでいる、あとは、森があるのみ、今わかることといえば、それくらいだった。
ひとまず、緩まっていたネクタイを締め直し、身だしなみを整える。
「……よし!いつまでもここにいるわけにはいかないし、歩くか」
彼は森へと向かった。
歩いている途中、思ったことといえば、芝生が尋常じゃないくらいの柔らかさだったぐらいだ。そしてバックや、携帯電話なども、当然見当たらなかった。
ーーー
どのくらい歩いただろう。自分が寝ていた場所から時間を数えていたわけではないが、予想では十分以上は歩き続けただろう。
遠くから見たときは緑一色だったが、よく見ると緑以外の色も見られる。赤色や黄色ではなく、とても言葉では表しにくい、虹色の葉、などもあった。
ここでなら、何か得られるだろう。確信はないが、何故かそう思った。
ただでさえ、ここがどこなのか分からない状況にも関わらず、彼は恐怖心を押し殺し、森の奥へと、一歩を踏み出した。
木々の隙間から漏れている光を浴びて、虹色に輝いている葉を見ながら、まっすぐ歩いていく。
それにしても、虹色の葉とは、実に不思議なものだ。今まで生きてきた17年間の中では聞いたこともないし、本などでも一度も見たことはないが、今まで見てきたどんなものよりも綺麗だといってもいいだろう。
思わずこれは夢なのではないか、とつくづく思う。が、いくら自分の頬をつねっても痛みは感じる。その度にこれは夢ではない。現実だ。と痛感させられる。
(…………ミツケタ……)
刹那、何かが、聞こえた。その声はどこか心細く、しかし、強い信念を持っているような声、だった。
辺りを見渡すが、特には誰もいない。
「気のせい……か?」
そう呟いた瞬間、突然風が吹き始めた。地面に落ちていた虹色の葉が宙を舞う。思わずその光景に見惚れ、言葉を失う。
風が止み、虹色の葉が舞い終わると、いつの間にか目の前に古びた遺跡が存在していた。
何故こんなに大きな建物があったのに、気づかなかったのだろう。だがその疑問はすぐに探究心によって消えていった。
恐る恐る、遺跡へと近づいていく。
遺跡の入り口付近に行くと、階段が下へと続いていた。とても暗く、懐中電灯がなければ歩けないほどの暗さ、だが彼は止まらず、まるで、何者かに操られているかのように進んで行く。
一段、一段、ゆっくりと階段を降りて行く。
階段を半分程降りたところだろうか、少しづつ、光が見えてきた。太陽の光とは少し違う光、のような気がした。
「……!これは……?」
最後の一段を降りた先には思わず腰を抜かしてしまいそうな光景が広がっていた。石のような材質でできている壁に、太陽と似て非なる光、そして、目の前のカプセル状のものに入り、眠っている美しい女性がいた。
思わず、その金色に輝く髪に見惚れながらも、ゆっくりと彼女に近づいていく。
途端、カシャ、カシャ、と金属が動く音が聞こえてきた。
音が近い、恐らく、あと少しで対面することになるだろう。彼は咄嗟にやばい、と判断し、柱の後ろへと隠れた。
一体何がどうなってんだよ……
数秒後、金属音は彼がいる場所へと到達した。恐る恐る、柱から顔を出し、金属音の正体を確かめる。
……鎧?
途端、鎧達は喋った。
「この遺跡を探し始めてから半年……遂に見つける事が出来た……」
三人のうち、一番ガタイのいい、リーダーと思わしき人物はそう言った。柱から見ているということもあり、顔がよく見えない。
ガタイのいいリーダーは腰のポーチから何か輝くものを取り出し、眠っている彼女の元へと近づいていく。
「さあ、ルシファー様、今こそお目覚めの刻です」
男はそういうと、輝くものをカプセル状のものの中央のくぼみに置いた。
男が輝くものから手を離した瞬間、カプセル状のものが光だし、カプセルの上部分が消えた。
先ほどよりもさらに美しく見えた彼女を目にし、彼はつい、物音を立ててしまった。
まずい……!
「誰だ!」
ガタイのいい男よりも先に、階段付近にいた二人の男が俺に向けて白く輝く弓を向けていた。
俺は覚悟を決め、両手を上にあげながら柱の影から出る。
「………!何故黒の民がここに……!」
何を言っているのか、全くわからなかった。
黒の民?なんだ、それは。
「あの、」
「動くな!」
白騎士達の顔は鎧で覆われて降り、見れないが、何故かその顔は予想できてしまう。この声、それにこの弓の引き、今白騎士達は怒りと憎悪に染まっているだろう。
どうやら、話の余地はないらしい。と思った瞬間、先ほど聞いた声が、こちらに近づいてきた。
「弓を降ろせ」
「……!しかし、隊長、こいつは、黒の、」
「聞こえなかったか?弓を降ろせ」
白騎士達は唖然としながら弓を降ろした。
助かった、のか……?
「……少年、一つ聞くぞ。君は、どうやってここに来た?」
目が覚めたらいつの間にか草原の上にいて歩いていたらここにいた、と言っても通じるのかは不安だったが、俺は正直に話すことにした。
ガタイのいい男はフム、そうか、と頷いた後、笑顔をこちらに見せた。
助かった、俺は助かったんだ……
と、思った途端、ガタイのいい男は腰から剣を抜いた。
「……すまない、本当は私も、君のような子供は斬りたくなかった……だが、仕方ない、君は……黒の民だからだ……」
何が起きたのか、制服とワイシャツが真っ赤に染まっていたのに気づいてからのことだった。あまりの痛みに、俺は膝から崩れ落ちた。
斬られた部分を抑え、ただうずくまることしかできない彼に、さらなる痛みが現れる。
グシャ、と二本、背中に何かが刺さった感触がした。
痛い、痛い、いたい、イタイ…………、ーーー
ーーー彼は、死んだ。




