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【完結】悪役令嬢の破滅回避に奔走していたら、忠実な護衛騎士が逃げ道を全部塞いで溺愛してきます  作者: フトダマノミコト


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20/20

第20話 エピローグ この先の筋書きは、二人で(アルヴィン視点)

最終話になります。

 結婚して、一年が過ぎた。


 王都から馬車で三日ほど離れた、小さな領地。


 丘の上に建つ屋敷の庭には、セレスティアが植えた薔薇が、今年も見事に咲き誇っている。


 朝の光の中で、僕は、書斎の机に向かっていた。


 領地の帳簿を片付けて、ふと、窓の外を見る。


 庭のベンチで、セレスティアが、一冊のノートを広げていた。


 真新しい、淡い水色の表紙。


 彼女は、時折ペンを止めて、楽しそうに何かを考え込み、また書き込んでいく。


 その横顔を見ているだけで、胸の奥が、じんわりと満たされていく。


 この人が、今、僕の妻なのだ。


 一年経っても、まだ、時々、夢ではないかと思う。




 昼過ぎ、セレスティアは、街の視察に出かけていった。


 見送ったあとで、居間のテーブルの上に、あの水色のノートが置き忘れられているのに気づいた。


 表紙には、日本語で、こう書かれていた。


『しあわせ計画ノート』


 思わず、口元が緩む。


 あの人らしい。


 僕は、少しだけ迷ってから、ノートを手に取った。


 隠し事はなし。


 その約束は、僕も守っている。


 だから、彼女の書いたものを読む時も、もう、こっそり鍵を開ける必要はない。


 「読んでもいい?」と聞けば、彼女は「どうぞ」と笑うだろう。


 今日は、聞く相手がいないけれど。


 表紙を開く。


 一ページ目には、彼女の几帳面な文字が、ずらりと並んでいた。


『庭に、薔薇のアーチを作る』


『領地の子どもたちに、読み書きを教える場所を作る』


『アルヴィンに、苦手な人参を食べさせる』


 最後の一行で、思わず、声を立てて笑ってしまった。


 ページをめくる。


『アルヴィンに、もっと休んでもらう』


『アルヴィンと、海を見に行く』


『アルヴィンが、自分のことを、ちゃんと大事にできるようにする』


 ページをめくるたびに、僕の名前が出てくる。


 僕は、ノートを持つ手が、わずかに震えるのを感じた。


 あの破滅回避ノートには、僕の名前は、一度も出てこなかった。


 未来のどこにも、僕はいなかった。


 けれど、このノートの中では、どのページにも、彼女の隣に、僕がいる。




 ふと、最後のページの隅に、小さな文字が書かれているのに気づいた。


 この国の文字ではない。


 日本語で、こう書いてあった。


『アルヴィンへ。どうせ読んでいるんでしょう?』


 僕は、固まった。


 その下に、続きがある。


『読んでいいのよ。あなたが読むことを考えて、書いているんだから。


 この先の筋書きは、もう、ゲームにはありません。


 二人で書いていきましょう。


 あなたの奥さんより』


 気づけば、視界が、ぼやけていた。


 目元を押さえて、僕は、しばらく、その場から動けなかった。


 あの人は、全部、わかっている。


 僕が、まだ時々、不安になることも。


 彼女がどこかへ行ってしまう夢を見て、夜中に目を覚ますことも。


 そのたびに、隣で眠る彼女の手を、そっと確かめていることも。


 全部わかった上で、こうして、言葉を残してくれた。


 僕は、居間の机からペンを取り、彼女の文字の下に、ゆっくりと書き足した。


 何年もかけて覚えた、彼女の故郷の文字で。


『読みました。


 ありがとう、セレスティア。』




 夕方、視察から戻ったセレスティアは、居間に入るなり、テーブルの上のノートに気づいて、ぱっと頬を赤くした。


「あっ……! それ、置きっぱなしだった?」


「はい。読ませていただきました」


「も、もう! やっぱり読んだのね!」


「読んでいいと、書いてありましたので」


 僕が微笑むと、彼女は、真っ赤な顔のままノートを開いて、最後のページを確かめた。


 僕の書き足した文字に、彼女の目が、ふっと柔らかくなる。


「……字、上手になったわね」


「もう七年も、練習してきましたから」


「人の秘密を読むために、ね」


「ええ。あなたの秘密を読むために」


 悪びれずに答えると、彼女は、呆れたように、けれど幸せそうに笑った。


「本当に、ひどい人」


「はい。一生、償います」


 僕は、彼女の手を取って、その指先に口づけた。


 そのまま、そっと、腕の中へ抱き寄せる。


 夕日が、窓から差し込んで、二人の影を、一つに重ねている。


 あの日、雪の中で、僕は世界を失いかけた。


 そして、この人に、新しい世界をもらった。


 断罪の筋書きは、もう、どこにもない。


 王太子も、偽りの聖女も、彼女を脅かすものは、何一つ残っていない。


 彼女は、もう、どこへも逃げる必要がない。


 僕も、もう、彼女の逃げ道を塞ぐ必要がない。


 それでも、時々、思うのだ。


 彼女が、自分の足で、僕の隣を選んでくれたこの場所こそが、最初から、僕の望んでいた結末だったのだと。


 腕の中で、彼女が、小さく笑った。


「ねえ、アルヴィン。次は、何を計画しようかしら」


「あなたの望むことなら、何でも」


 僕は、彼女の銀色の髪に、そっと唇を寄せた。


「あなたの居場所は、最初から僕の隣だけでした。……これからも、ずっと」



(完)


最後までお読みいただき、ありがとうございました!


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