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【第二部】処刑された最強呪術師、魔法世界で異端となる 〜鬼使いと閃光の剣士〜  作者: 鬼喜怪快
序章 望遠の記憶編

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6話 ただその時を待つ





 日が落ちる――


 カエデの居場所はいまだに不明だった。

 山の麓に村は3つ。

 1つは親子の故郷。


 白き鬼の女の予感では、別の2つの村に攫われたと判断している。


 2体は山の頂上の木の上に移動した。


 白き鬼の女は目を閉じ――

 ただその時を待つのだった。


 

 ――――――


 

 ある村のお社の中に、葛籠が置かれている。


 その葛籠の中に、口と手足を縛られたカエデが閉じ込められていた。

 4つの子供では、手足の拘束を解くことは難しかった。


 葛籠の外から会話が聞こえてくる。


「あんなんじゃ、腹の足しにもならん……山神様、怒るぞ」


 「あぁ……あれじゃ子も孕ますことができない。

 こりゃすぐに別の生贄を求められる……しかしもう村には……」


 葛籠が開けられた。

 見かけない2人の男が、葛籠を見下ろしてくる。


 「お嬢……すまねえな……お前に恨みなどねぇんだ」


 「バッカ! 今更謝るな! こうでもせんとうちの村から生贄を出せんといかんのだぞ!」


 カエデは恐怖で全身を震わせた。

 涙が止まらなかった。


 会話の内容は詳しく理解できなかったが、

 自分が村のみんなの恐れていた生贄にされることが、うっすらと理解できた。


 カエデは少し前を思い出す。


 昼過ぎ――


 厠に向かって小屋を出た。

 そこで見知らぬ男2人に、口を押さえられた。


 「叫べば殺す――」


 カエデは無抵抗のまま、連れ去られたのだ。


 時間の流れがわからない。

 光の差さない籠の中。

 秋のこの寒さだけが、夜だと知らせていた。


 父親が刀を造る姿を思い出す。

 父親がご飯を作る姿を思い出す。


 今は亡き母親の笑顔を思い出す。

 添い寝してくれた時の子守唄を思い出す。


 カエデはどうしようもなく、大好きな2人に会いたくなった。


 でも――

 それはもう叶わない。


 「!」


 突然、周りが騒がしくなった。

 火のゆらめきが籠の中からも見える。

 大勢の人が集まってくるのが、体感でわかった。


 ――助けがきた?


 すると、おもむろに葛籠が開けられた。

 差し込む光に、淡い期待を持って目を向けた。


 そこには酷い獣臭を放つ――

 大狢がカエデを見下ろしていた。


 「なんだこりゃ? 食いぶちが足りんだろうが人間!」


 「すっすまない……。

 突然の催促ゆえ、用意する時間がなかったんだ」


 「せめて孕ませるくらいの女を用意しろや。山の恵み、もうわけてやんねーぞ」


 「もう3日、いや2日もらえれば……」


 狢は村人を脅し、山の恵みと生贄の交換を強要していたのだ。


 たかが狢――

 妖の世界では底辺の扱いではあるが、人間世界から見れば知能が高い野生の熊と変わらない。


 「ふざけんな! ぶっ殺すぞ!」


 「ひっ!」


 「誰の許しもらって山に入れてると思ってんだ?

 俺が許可しねぇと、山に一歩でも足を入れただけでお前らの村が滅びるんだぜ」


 村人たちは震え上がり、ただ立ち尽くした。

 すると、狢はカエデを片手で持ち上げて、葛籠から引きずり出した。


 「うぅー!」


 口が縛られているせいで声が出せない。

 周りには無数の狢と、怯え切った村人が4人。


 大狢が口を開く。


 「食いぶちはないが、ガキの肉が1番美味い……柔らかさはこの上ないからなぁ」


 「……!」


 狢はカエデの手と足の縛りを解いた。

 そして着物を引き裂いた。


 「どれ……喰うとするか……」


 カエデは恐怖で足の力が入らなかった。

 目の前には3メートルはある、言葉を操る獣――


 彼女からすれば、それは悪夢だった。


 ――そうだ


 これは悪夢、怖い夢なんだ。

 カエデは、夢だと思い込むことにした。


 朝起きたら、お父が横にいて――

 朝ごはんを食べてるんだ――

 そして大好きな山で木のみを取ったり、

 川辺で寝転がったりして夕方を待つ――


 狢はカエデの髪の毛を鷲掴みにして、身体を持ち上げた。


 痛い――

 でもこの恐怖を我慢して朝がくれば――

 いつもが始まる。

 少しだけ我慢すればいいだけ――


 だって、

 これは怖い夢だから。

 いつもより遥かに怖い夢だけど……

 ただの夢。


 本当に……怖い夢……


 本当に怖い……


 お父、お母……


 「頭から喰うやつがいるけどよ、俺ぁ……それが理解できねぇのよ」


 「……うぅ」


 「叫んでのたうち回る姿見ながら喰いたいわけよ……

 頭から喰ったら死んで、叫び声も動きもしねぇ……」


 「……うぅうぅ」


 「そんなのつまんねーだろ? だから俺は足から喰うんだ……」


 狢はカエデに顔を近づけて、舌舐めずりを見せた。


 「おっといけねぇ……口縛ったままじゃ叫び声が出せねぇな」


 狢はそういうと、口を縛っていた布を引き裂いた。


 いつもの寝る前のお約束――

 怖い夢を見たら助けに来てねって言ってたけど――


 お父もお母も……一度も来てくれたことがなかった。


 どうして助けに来てくれなかったのかな?


 「怖い夢見たら助けに来てくれる?」


 「夢は夢でしょう……助けになどいけません」


 「お母は、いつも来てくれるっていってたよ……」


 「……助けが必要なら叫べばいい……あなたの声は大きい……」


 「夢でも……声を出したら助けてくれる……の……?」


 「そうですね……速やかに寝てくれるのなら考えましょう」


 そうか――

 大きな声を出さなかったから、誰も気付かなかったんだ……


 カエデは恐怖を我慢し、精一杯の声を上げる。

 胸が張り裂けそうに痛かった。

 それでも――


 「助けてーっ! お父ーっ! お母ーっ!」


 「ゲハハッ! それ、いつものやつな……誰も来ねぇやつだぁ」


 「助けてよー!!」


 カエデはできる限りの大きな声を上げた。

 それから――五つ数えたほどの時間だったろうか。


 カエデたちのいるお社に激震が走る。


 ドカン!――

 バリバリバリバリッー!


 お社の屋根は崩れ、激しい砂埃が舞った。


 「おいおい! なんだってんだー!」


 「ゴホッ、ゴホッ」


 大狢は取り乱した。

 カエデは埃を吸ったようで咽せている。


 目を開くこともできず、様子がわかりづらいが、

 砂煙の向こうに、影がふたつ立っているのがわかった。


 「ようやく見つけましたよ……」


 聞き覚えのある声――


 「何者だ、テメェー!」


 「帰りますよ。父上がお待ちです」


 怖い夢を見た時、助けに来ると約束をしてくれた声――


 その声は、

 その足音は、

 真っ直ぐにカエデに近づき、そして優しく彼女を持ち上げた。


 「だから言ったでしょう……

 助けが必要なら叫べばいいと……」



 カエデの叫びを聞きつけてきたのは――

 白き鬼の女と――黒き鬼だった。

 


 

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